この話も、一連の銭形平次捕物控の中の話と同じく、八五郎が平次の家に飛び込んでくるところから始まる。
親分、逢つてやつて下さいよ。枝からもぎ立ての桃のやうに、銀色のうぶ毛の生えた可愛らしい娘ですがね
八五郎が、永代橋の欄干で水の流れを見つめていた娘を連れて来たらしい。八五郎が可愛らしい娘に弱いのは相変わらず。
八五郎が言つたもぎ立ての桃は良い形容詞でした。化粧もろくにしないらしい處女の肌には若さが馥郁ふくいくと匂つて銀色のうぶ毛の見えるのさへ何んとも言へない新鮮さです。
娘は、板屋八十郎という深川佐賀町に住む三千五百石の大旗本の姪で、4日前に、叔父が永代橋から、馬に乘つたまゝ、大川に落ちて亡くなったというのだ。板屋の家に離家に杉本という先代順三郎樣の謠の師匠が住んでいたが、こんどはその杉本が自害したというのだ。
結局、平次はこの事件に乗り出すことになるのだが、事件の背景には板屋家のお家騒動と言うか乗っ取りのようなことがあった。平次は事件の真相が分かってしまったのだが、結局は、知らぬ存ぜぬを決め込む。
あつしは何んにも言やしません。武家の意地や體面や、つまらねえ義理は大嫌ひだが、旦那のなすつたことは無理もねえ。
俺は昔から言つてる通り、武家のイザコザは大嫌ひさ。
平次には、こんな割り切ったところがある。他の話でもこんな場面は見られるのだが、テレビドラマではあまり分からないかもしれない。でも、原作の方を読むとよく分かる。
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