元祖入れ墨奉行根岸鎮衛が活躍するこのシリーズ、今回は麻布が舞台である。あまり、土地勘はないのだが、麻布は坂の街のようだ。何しろ、この辺りを縄張りとしていた元岡っ引きが「坂の才蔵」と呼ばれていたくらいだ。
タイトルにある暗闇坂というのは、麻布にたくさんある坂のひとつで、昼なお暗いところからその名がついていた。この暗闇坂で大八車による事故が起こる。大八車を後押していた二人のうちの一人が倒れたため、一人ではその荷重をささえきれなくなり、荷車は、勢いをつけて、後ろに暴走し、たまたま歩いていた娘に激突し、命を奪ったのである。そして、仙台坂というところには石のお化けが出るという。地響きを上げて転がってきた石が、消えてしまうというのだ。実は、この話、色々な裏がある。そして暗躍する闇の者。
登場人物は、根岸鎮衛のほか、お馴染み、根岸の家来の坂巻弥三郎、南町奉行所同心栗田次郎左衛門。深川芸者の力丸姐さん。油問屋魏山堂の主人孝右衛門、彼が昔手代として働いていた油問屋長七屋の主人の息子の長八、番頭勘助の息子で長八とはいとこになる勘七など。そしてこの話では霊が結構活躍する。
このお奉行、ものすごくパワフルだ。なにしろ、南町奉行に任じられたのが数えの62歳のとき。そして、深川芸者の力丸姐さんという若い彼女もいる。妻のお鷹には先立たれているが、時々その幽霊が会いに来る。幽霊と言っても別に恨みがあって化けて出てくるわけではない。ただ世間話をしにくるだけのことなのである。
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