この話も、半七捕物帳の一つだ。他の話と同じ様に半七老人が私に思い出話を語るような体裁になっている。神田明神下に店を構える山城屋と言う質屋の番頭が半七を訪ねてきたことから、話が始まる。
この山城屋に、今年16になる徳次郎と言う小僧がいた。この徳次郎が急に口中が腫れあがって、口を利けなくなり、とうとう息を引き取ったという。ところが、死に際にお此に殺されたといったいうことで、兄で魚屋を営んでいる徳蔵が300両払えと因縁をつけてきたというのだ。
口を利けないはずの徳次郎がどうやって、徳蔵に、お此に殺されたといったんだろうか。筆談で伝えたのだろうか。そのあたりは何も書かれていないが気になるところだ。
ところで、このお此は弁天娘と言われて、親が不忍池の弁天堂に37日の間日参してやっと授かった子だという。そのせいか、弁天様の申し子と同じに独り身でいなければならないといわれていたのだ。おかげで縁遠くなり、二十六七になってもまだ家にいるという。
この当時は数え年だから、数えの二十六七と言えば、満年齢だったら、二十四から二十六の間か。今だったら普通だが昔は女子は早婚だった。半七も
「番頭さん。一体あのお此さんという子は、なぜいつまでも独りでいるんですね。いい子だけれども、惜しいことにちっと薹が立ってしまいましたね」
と結構酷いことを言っている。
ところが、今度は徳蔵が殺される。そして犯人は意外な人物。徳次郎の事件の真相は、不運に不運が重なったというところか。しかし、徳次郎16にもなってそんなことやるかな。お此もそんな反応するかなといったところ。そして最後は悲劇で終わった。それにしてもこのお此さん、人騒がせである。
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