この物語もいつものように、子分のガラッ八が平次の所に飛び込んでくるところから始まる。花川戸で質両替屋を営んでいる近江屋の小町娘のお雛が行方不明になり、遺体が出てこないが、占い師が、お雛の幽霊が、体の代わりに、300両を棺桶に入れて祖先の墓の傍に埋めてくれと言ったというのだ。
しかしこれを詐欺だと見抜いた平次は、近江屋に出向きこう言う。
「お聞きでしょうが私は滅多なことで自分から飛出しません。お上の御用は勤めておりますが、人に縄を打つ商売の浅ましさを、つくづく知っているからでございます。ところが、子分の者の話や、世上の噂で、お宅のお嬢様の災難を聞いて、あまりの事にジッとしていられなくなって、ツイ押付けがましくやって来たようなわけでございます」
他の話を読んでも、平次は大分出不精のように書かれている。平次が出るときは、それだけの理由があるときであり、イメージがテレビドラマなどで描かれる平次とは違うのである。
まあこれは十手を預かる者としてそれでいいのかとも思わないでもないが、ライバル?の三輪の万七親分のように、しょっちゅう誤認逮捕をやっているよりはましだろう。
もちろん最後には、平次が事件を解決して、見事お雛を助け出すのだが、この作品では、珍しく平次の投げ銭の場面がある。昔は、1事件に1回は投げ銭の場面があると思っていたのだが、このシリーズを読むようになると、意外に投げ銭をしている場面は少ないことに気が付く。平次は貧乏暮らしと言う設定なので、あまり景気よく投げ銭をしているとお静さんに怒られるのかな?
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