この話も、還暦過ぎても元気なお奉行様、江戸南町奉行の根岸肥前守鎮衛が主人公である。何しろ南町奉行になったのが還暦過ぎてから、芸者の力丸姐さんという美人の彼女もいる。
このお奉行様、「耳袋(みみぶくろ)」という不思議な話を集めたエッセイ集で有名だ。それをネタにして物語は進んでいく。
今回は高田の馬場にある竹林に庵を構えた、月照尼という評判の若い美人尼さんの話だ。しかし、この尼さん、ちょっと難がある。ある図形を見ると、人が変わったようになり、かみそりを振りかざして襲ってくるのだ。いくら美人でも、鬼女のような表情でかみそりを振り回されたらちょっと、いやかなり怖い。
この月照尼の庵の近くで、殺人事件が相次ぐ。果たして犯人は、月照尼なのか。
尼さんといえば、この話にはもう一人東灯尼と言う人物が出てくる。こちらもなかなか面白いが、月照尼と違い、歳は60くらいで、良く肥えている。根岸に言わせれば、陰間が尼になったらしい。
この本筋に関係ある話や、関係のない小ネタ的な話を散りばめているが、根岸さまは耳袋を元にして合理的な解釈をつけていく。こちらもなかなか興味深い。
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