晴れ、14度、77%
久しぶりに香港を訪れた方達、皆さん口を揃えて香港の街がきれいになったとおっしゃいます。街の景観ばかりでなく、衛生的な意味も含めての言葉だと思います。2003年のサーズ以来、政府は道路の清掃を強化しました。幹線道路脇のごみ箱は、日に二回、回収されます。街にごみ箱がない日本に比べると、それはそれは便利です。
20数年前に香港にやって来た当初、驚いたことの一つが、香港人のゴミのポイ捨てでした。きれいな若い女性が平気で道にゴミを捨てます。食べ物の包み、食べ上げた鶏の骨、飲み物のボトル。平気でポイポイ。若い女性は特に目に付きますが、老若男女を問わずこの有様です。街の清掃がお休みの旧正月などは、道脇のごみ箱には家庭ゴミがギュウギュウに詰め込まれ、是利(お年玉)の赤袋が道に舞っていました。走っている車の窓から缶が捨てられることもありました。こうしたポイ捨てが罰金付きで禁止されたのはここ10年程のことです。
以前住んでいたところでのこと、毎朝決まった時間に上方の階から水のような物が降ってきます。あるとき、上開きの窓を開けていたら、その窓ガラスにその液体がザーットかかりました。よく見ると、いえ、まず匂いがしたのでわかったのですが、ラーメンのスープの残りでした。もちろん麺のくずまで入っています。人様のラーメンのスープの後始末をするのは、気持ちの悪い物です。窓辺で朝ご飯を済ませて、残ったスープを窓から捨てる、そんな情景が頭に浮かびます。下街のアパートではありません。住んでいる人はそれなりの方達です。上方階から降って来る物は、数え上げれば切りがない程、いろんな物が降ってきます。
確かにここ数年、道端にゴミが落ちているのなどはあまり見なくなりました。時には東京よりきれいね、などと内心鼻高々な私でした。今年の年明けて直ぐのこと、毎朝のことで、エスカレーターが下向きのうちに市場に向かいます。朝の10時前です。遅いお勤めに出る人たちも乗っています。私の前に立つ女性、白いビニール袋を手にしています。大きな袋の中身は、外から見ても台所のゴミや缶などです。そして、途中にあるオレンジのごみ箱の横に、ガシャンと置きました。大きな口のごみ箱ですから、中に入れればまだしも、外に捨てました。衛生局の人に見つかれば、罰金$1,500です。エスカレーターを下りる時、その女性の顔を見ると、30代後半でしょうか、ゴミを捨てそうな顔をした人でした。なんというかゴミを捨てても平気な、そんな雰囲気の顔をしていました。
年末に、我が家のお隣に新しい住人が引っ越してきました。ご主人は西欧人、奥さんは香港人のカップルです。一度この奥さんと挨拶をしましたが、流暢な英語です。香港人は、留学する割合が日本の比ではありません。そうして留学して帰ってきた人たちは、それなりに、留学先で社会道徳のようなものを身につけて帰って来るとよく聞きます。お隣の奥さんのそのような人だろうと思っていました。ある朝植木に水を遣ろうと、お隣とL字型に向いた窓を開けました。お隣の窓からは、細いきれいな手が一本出ています。その手にはタバコが、私に気付かないのか、フワーッと煙を吐いています。香港のビクトリア湾を見ながらの朝の一服でしょうか。と思うと、その白いきれいな手は煙草の灰を窓から下に落としています。以来気が付くと、一日に数回、タバコの灰が下の落とされる行為が続いています。
時間が経って、教育も行き届き香港人は変わったかなと思っていました。香港人の多くの人が、自分たちは中国人ではないと思っていると新聞では報じています。中国の道端の発泡スチロールの弁当箱などのゴミの多さは、つとに知られています。香港人のゴミに対する意識の低さは、中国人のそれと何ら変わりないと私には思えます。中国数千年の歴史と聞く度に、その数千年の間に培われた意識は、そうそうに変わるはずがないのだと感じます。そろそろ、お隣の窓が開き、ビクトリア湾を眺めながらのタバコタイムが始まります。灰は下にポトポト。こんなことで、イライラしなくなった自分がいます。