晴れ,27度、86%
「欄間」と言っても分かる人が少なくなったと思います。長押の下に格子や彫を施したもの組み木などの素通しの窓のことです。実家の座敷はL字型の廻り縁でした。縁側と座敷の間の長押の下には格子の欄間があります。廻り縁は半分潰しました。縁側と座敷の境もなくし今は板張りです。昔の座敷ですから、床の間があります。床の間の横は書院造りになっており書院窓の上に鶴と松の彫の欄間があります。
玄関を開けると、玄関の間がありその向こうが座敷です。この床の間、廻り縁、畳の間のまま残したかったのが私の希望でした。廻り縁は半分、板張りになりましたが、床の間とこの書院窓は残りました。玄関の間と座敷の間の障子を開けておくと、玄関を開けるなり目に飛び込んで来るのが鶴と松の欄間です。千本格子の黒塗りの書院窓の上にあるこの欄間は、小さい頃から私がこの家の中で好きなところのひとつです。
彫の欄間は随分高価なものもあると聞きますが、ごく一般的な鶴と松の我が家の欄間は普通の物です。ただ、私よりずっとお年が上のはず。何の材で作られているかも知りませんが、この欄間を見ると家に帰って来たと思います。
母が3年前に逝きました。ちょうどお盆過ぎでした。母が亡くなって間もなく、玄関前の松の大木が枯れてしまいました。昔は手入れがされて姿のいい松でしたが、枯れる前は大木になっていました。今は大きな切り株です。あの松の木が亡くなったことも私の心には大きな穴が空きました。でも、こうして欄間として松の木が残ってくれています。
先日帰国した時には縁側の5枚の雨戸を全部開けて、座敷に陽を入れました。しっかりと絞ったお雑巾で部屋中を拭き清めます。欄間を拭いていてはたと気づきます。鶴の下に2羽の鶴の小鳥がいます。 私かれこれ60年、この欄間を見て来ました。この2羽に気付いたのは初めてでした。欄間を拭くことも小さい頃から何度もして来たことなのに、初めてこの2羽の鶴の小鳥に気付きました。香港に戻って主人に欄間の鶴の話をしたら、主人は小鳥のことを知っていたと言います。一体、私の目はどうしていたのでしょう。こんなこともあります。
60年近くたって初めて気付いた欄間の中の小鳥、やっぱり残して置いてよかったとつくづく思いました。