『中世の地図、失われた大伽藍や城の絵図、合戦に参陣した武将のリスト、家系図・・・。
これらは貴重な資料であり、学校教材や市町村史にも活用されてきた。しかし、
もしそれが後世の偽文書だったとしたら?しかも、たった一人の人物によって創られたものだとしたら・・・』
(表紙見返しより)
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驚きましたが、
一方で、ああこのようにして、神社や寺の由緒書きや系図なども作られるのだなと納得しました。
著者は研究者なので、
あくまで「椿井正隆」が作った偽文書の実態、検証、そしてそれらの大量の偽文書は今、何を語るのか、
著者がそれらの偽文書とどのように対峙し取り組んできたか、
そして今後の歴史学の課題について考察するのが、この本の主題なので、
「椿井正隆」の生涯がどのようなものであったかはよく分かりませんが、
マメに歩き回り、頭が良くて、几帳面で、人との交流もうまく、
字も絵も描けて、時流に敏感な人物だったことは間違いないようです。
例えば、ある時、とある大百姓が、先祖は由緒ある武士であった、との思い(空想)を反映した系図を注文したなら、
普通は適当に系図をでっち上げれば終わり、となるのですが、
椿井正隆は、古文書を創造し、それを○○で探し出したとして、それを☓☓年に自分が写したものだ、書いて署名して印を押す、
そして○○の周辺のいろいろな場所の伝説や遺物に関連する古文書をさらに創り出して、あちこちの例えば神社や寺にその写しとする文書を配置する。
しかも、紙や字体も変えているので、もし疑い深い人が調べても、調べれば調べるほど本当のことのように思えてくる・・・という手の込んだやり方をしているのです。
主に京都と大阪の間で活動しましたが、地域の地誌がその文書を元に書かれたり、
石碑が作られたりしている所もあるようです。
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『椿井文書ー日本最大級の偽文書』
馬場隆宏 著
中公新書 2020年
歴史のおそろしさ、権力者の欲望、信じてしまうことの無知。
現代においても情報はいろいろですね。
受け取る側もその人によって感じ方が変わるし。
自分の眼と頭で判断することがいかに大切か、
そのためにも日頃から目と頭を鍛えて置くことが大切だな、ということを思うと同時に、それでも騙されてしまうことがある、ということを、つくづく思いました。
椿井文書はよくできていますが、
著者によると、大量の文書の調査を進めていくうちに(記入された元号などからも)あっ、これは椿井文書だ、と分かるようになっていったそうです。