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雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

穏やかな一年を願う

2020-01-05 18:21:41 | 日々これ好日

        『 穏やかな一年を願う 』

     
多くの企業などは 年末年始の休みも終わる
     明日からの日常が 穏やかな一年であることを願いたい
     ただ 国内では 汚職がらみの問題があり
     海外でも注目を浴びている容疑者に 大脱走を成功させてしまい
     中東では きな臭い状況が強まっている
     願うだけではどうにもなるまいが
     それでも 穏やかな一年であれ と願う

                  ☆☆☆

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雪山合戦

2020-01-05 08:36:26 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語
               雪山合戦
 

師走の十日過ぎのことでございます。
雪がたくさん降りましたので、女官たちに言いつけて縁に積み上げさせたりしていましたが、
「同じ集めるのなら、庭に本物の雪の山を作らせましょう」
と、私が申しますと、皆も賛同し、侍を呼んで中宮様のご命令として伝えたものですから、大勢の人が集まって来ました。

雪掻きのために来ていた主殿寮の官人たちなども一緒になって、高く積み上げていきました。
中宮職の官人たちも集まってきて、面白がっていろいろと口出ししたりしています。
そのうちに、はじめは三、四人だった主殿寮の官人の数は二十人程にもなり、さらに、非番で宿下がりしている者にまで呼び出しをかけたりしています。

「この雪の山を作るのに加わった者には、特別の手当てが下されるらしい。また、加わらない者には、今後の非番の日を減らされるらしい」
などと言って伝えてまわったものですから、あわてて参上してくる者もあります。
そして、大きな雪の山を作り上げましたので、中宮様は官人を通じて参加者全員に、絹一疋(二反)ずつ下されたものですから、皆大喜びで拝受していました。

さて、このあとが大変だったのです。
中宮様が見事に出来上った雪の山を御覧になりながら、
「これは、いつ頃まであるかしら」
と仰せになられますと、
「十日はあるでしょう」
「十日余りはあるでしょう」
と、女房たちは皆、ほんの短い期間を言うものですから、中宮様は私に、
「そなたは、どう思う」
と問われました。
「正月の十日余りまではございますでしょう」
と私が申し上げますと、「とても、そこまではあるまい」と中宮様も思われたご様子でした。

女房たちはそろって、
「年内、それも、とうてい大晦日まではもちますまい」
と言う。
さすがに私も、「少し長く言い過ぎたかな。『元日まで』くらいにすればよかった」と内心では思ったのですが、いったん口にしたことを取り消すのも悔しくて、ついつい強情を張ってしまい、言い争いになってしまいました。

二十日の頃に雨が降り、雪の山が消えるようなことはありませんが少し低くなったようです。
『白山の観音様、どうぞ消えさせないで下さい』などと祈るのですから、われながら正気の沙汰とは思われません。
雪の山は少しずつ低くなりながらも、無事年を越え、その元日の夜に雪がたくさん降ったものですから、「ああ、これでまた積み上がる」と喜んでいますと、中宮様は、
「これはよくない。あとから積もった分は掻き捨てよ」
と命じられるのです。

新しく積もった分を掻き取られて雪の山は、すっかり黒ずんで小さくなってしまいましたが、何とか十五日までもたせたいと祈っていましたが、
「とても、七日まででも難しいでしょう」
と他の女房たちは言いますし、
「何が何でもこの決着を見届けましょう」
と張り合ったりしていましたが、急に中宮様が、三日に内裏に入られることになりました。

「見届けられないのが残念」
などと女房たちや中宮様までがそうおっしゃられるのですが、私も、「見事に言い当てて中宮様に御覧頂きたい」と思っていましただけにまことに残念です。
雪の山のある庭を清掃などをしている木守と呼ばれている者が、築地のあたりに小屋を立てて住んでいたので、そこの女を呼び寄せて、自分たちがいない間、子供たちに踏まれたりしないようしっかり監視せよ、と申し付けました。
無事十五日まで雪の山が残っていたら褒美を出そう、と約束し、果物などを与えると大喜びで引き受けてくれました。

私は、七日までは中宮様にお供し、そのあとは宿下がりとなりました。
しかし、実家に戻っていても、夜が明けると、何はともあれ雪の山が気にかかり、毎日召し使っている者を見に行かせます。
十四日は、前の夜から雨が降り、消えてしまうのではないかと気をもんで、「あと一日、二日消えないで」と一日中言い嘆いているものですから、家の者は「とても正気とは思えない」と笑うのです。
最後に確認に行かせた者は、「座布団ほどは残っていて、明日、明後日くらいまでは大丈夫」と木守が言っていたと報告があり、その嬉しいこと。

明日になれば、歌を詠み、それを添えた雪を中宮様に献上しようと考えていますと、なかなか眠られず、まだ暗いうちから使いの者を雪を入れる折櫃を持って行かせました。
「汚れた所は取り払って、白くきれいな所を選んで入れるのだ」
と、こんこんと言い聞かせて行かせたのですが、その使いは早々と帰ってきて、
「とっくに消えてしまい何もありません」
と報告するのです。
何と言うことです。昨日はあれほど大丈夫だったというのに・・・。

私が嘆き悲しんでいますと、、内裏より中宮様の御手紙があり、
「さて、雪の山は、今日まであったのか」
と書いてあります。
「年も越せまいと言われていた雪の山は、昨日の夕暮までは確かにありましたので、よく頑張ったと思います。しかし、残念ながら、このままでは出来過ぎだということで、私に恨みを持っている者が取り捨ててしまって、何も残っておりません」
と中宮様に申し上げていただきたく、ご返事いたしました。

二十日になって内裏に参内しました時にも、中宮様の御前でこのことを話題にいたしました。
「毎日毎日気に掛けて、よき歌も詠もうと考えていましたのに、本当に残念です」
と、嘆きますと、中宮様は、
「これほど一心に思いつめていたのに、裏切ったりしたら罰があたりますねぇ。実は、雪を取り捨てよと命じたのは、私なのです。
確かに雪は残っていましたから、そなたの勝ちです」
と、仰せになる。
「どうして、そのように情けないことを・・・」
と、私がむきになって嘆きふさぎ込みますと、
「そなたは、『中宮が寵愛の女房だ』と聞いていたが、どうもあやしいな」
と、主上までがからかわれるのです・・・。

それにしても、この雪山合戦、なぜ私はこれほどむきになっていたのでしょうねぇ。
中宮様が雪を取り払わせたのも、女房たちの中で私が孤立するのを心配して下さったのでしょうに。


(第八十二段 職の御曹司に・・、より)

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