雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

忘れたいけれど

2020-01-17 19:13:27 | 日々これ好日

        『 忘れたいけれど 』

    
 阪神淡路大震災から 25年
     報じられるテレビの映像は 今もなお 辛い
     忘れたい出来事は 山ほどあるが
     辛いものほど 忘れられない
     忘れてはならない という教えかもしれないが・・・

                     ☆☆☆

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別れの理由

2020-01-17 08:16:33 | 麗しの枕草子物語

          麗しの枕草子物語
               別れの理由

私が里に戻っていた時のお話でございます。

里に帰っていても、殿上人などが訪ねてくることも少なくないのです。それも、さしたる用事もないのに寄って下さったりするものですから、それをいかにも物ありげな噂をする女房たちがいるのです。
ですから、このたびの宿下がりでは居所を明かさずにしていたのです。
まあ、そうは言いましても、ごく一部の方、経房の君や済政の君などだけには伝えておきました。

さて、私とは特別な関係にありました左衛門尉則光殿が参りましてね、
「昨日、宰相の中将殿が参内なさいましてね、『妹のいる所を教えよ』とそれはそれはしつこく訊ねられました。
いやいや、知っていることを知らない素振りをし続けることは大変なことですよ。すぐそばに、左の中将経房殿もいたのですが、あの方は全く知らん顔をしているのですよ。もし、あの方と目を合わせたりしていたら笑い出していたことでしょうね。
私の方は、宰相の中将殿に責められて耐えきれないほどになっていたのですが、ちょうど食卓の上に若芽が乗っていたものですから、それを取ってむしゃむしゃ食べることで、何とか耐えきることが出来ましたよ」
などと話しますので、
「絶対に、教えないで下さいよ」
と念を押しておきました。
 則光殿とのことは、宮中では兄妹のような関係だと思っておいでの方が多かったのです。

それから少し日が過ぎてからのことですが、夜遅くに門を激しくたたく者があります。
こんな遅くに何者かと召し使っている者に確かめさせますと、滝口の武者が、「左衛門尉殿からの使い」だと文を届けて来たのです。
「明日、宰相の中将殿が御物忌で籠られます。また『妹の居所を教えよ』と責められるに違いありません。もう、とても耐えられそうもありません。教えてもいいでしょうか。あなたが言われるようにしますから返事をしてください」
と書いてありました。
私は返事は書かず、若芽を一寸ばかり切り取って紙に包み、使いの者に持って帰らせました。

そして、そののち則光殿がやってきて、
「あの後は大変でした。宰相の中将殿をあちこち連れまわしてごまかしましたが、とても耐えられませんよ。
ところで、あの時は返事の文もくれないで、つまらぬ若芽の包をくれたが、どこか他所へ渡すのと間違えたのではないか」
などと言うのです。
「全然伝わっていないんだ」
と思いますと、とても腹立たしく、口もきかずに紙を取り寄せて、
 『 かづきする 海女のすみかを そことだに ゆめいふなとは めを食わせけん 』
(身を隠している私の住処を、そこだとさへ決して言うなと若芽を食べさせたでしょう)
と書いて、渡しましたところ、
「歌を書いたんですね。絶対に見ませんからね」
と言って、扇であおいでその紙を返し、逃げ帰ってしまいました。

このようなこともあって、これまで親しくし、兄妹のようだと世間に知られもし、互いに助け合ってもきていましたが、何とはなく仲が悪くなってきていた頃、則光殿から手紙がありました。
「何とはなく隙間風を感じるようになったが、兄妹(実質は夫婦)という深い仲だったんだから、世間的には今まで通りにしていただきたいと思っている」
と書いてありました。
常々則光殿は、「私は和歌が大嫌いだから、私に好意を持つ女性は和歌など詠んで寄こしてはならない。『別れよう』と思った時にだけ詠めばよい」と言っていたのです。

私はこの手紙の返事として、
 『 崩れよる いもせの山の 中なれば さらに吉野の かはとだに見じ 』
(崩れかけた いもせの山<妹山と兄山>の仲ですから、崩れた山が川を塞いでしまって、誰も かは<彼>とは見ないでしょう)
という和歌を送ってやりましたが、その和歌も本当に見なかったのか、返事もありませんでした。

ほどなくして、則光殿は遠江の介として赴任し、二人の仲はそれまでとなりました。


(第七十九段 里にまかでたるに・・、より)

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