半身の仏 ・ 今昔物語 ( 4 - 16 )
今は昔、
天竺に乾陀羅国(カンダラコク・いわゆるガンダーラ地方にあった国。)に大王がいた。波斯利迦(ハシリカ・カニシカ王と同人物か?)王という。その王は、七重の宝塔を建てた。その東方一里の所に、半身の仏の絵像がおわします。
「どういうわけがあって半身でおわしますのか」と尋ねると、昔、その国に一人の貧しい女がいた。仏道に帰依する心を起こして、「仏像を描き奉ろう」と思って、仏師のもとに行って相談し、仏像を描かせた。
その側に一人の女がいて、「わたしも仏像を描き奉ろう」と思って、同じ仏師のもとに行って相談して、仏像を描かせた。この二人の女は、共に貧しくて、その画料は極めて少なかった。
これによって、仏師は丈六(ジョウロク・一丈六尺。普通は約8.4mであるが中国尺ではその3/4ほど。人間の身長の2倍とも。)の絵像を一枚描き上げた。
数日して、最初の女が「わたしの仏を拝み奉ろう」と思って、仏師のもとに行き、「仏を拝ませてください」と言う。仏師が絵像を取り出して見せていると、もう一人の女が「わたしの仏の御許に参って拝み奉ろう」と思ってきたところで二人は出くわした。
「仏は出来ておりますでしょうか」と後から来た女が尋ねると、仏師は同じ絵像を「これがあなたの仏です」と言った。
すると、最初の女は、「どういうことですか。『わたしの仏』というものは、他の人の絵像だったのですか」と言うと、後から来た女も「この絵像は、さてはわたしの仏ではないのですね」と言う。
二人の女は、共に当惑して、仏師と言い争った。
その時仏師は、二人の女に言った。「画料が少ないので、丹(ニ・赤い絵の具)も金もほんの少ししか用意できない。仏は、その容姿の一部分でも欠ければ、仏師も施主も共に地獄に堕ちるといいます。あなた方の画料があまりにも少ないので、一体の仏を描き奉ったのです。絵像は一仏におわしますが、ご利益は二体の場合と同じです。あなたたち、心を一つにして供養し奉りなさい」と。
しかし、二人の女は、仏師に文句を言い続けた。
そこで仏師は、仏前に詣でて、啓(ケイ・もとは中国の打楽器で、それが仏用に転用されたもの。多くは銅製で、それを打ち鳴らして勤行する。)を打ち鳴らして仏に申し上げた。「そもそも二人の女施主の画料が足らないためで、私はほんの少しもかすめ取ってはおりません。そこで、二人の画料で一仏を描きましたが、二人の女はそれぞれに私を責めます。話し合って説得しましたが、その心はおさまりません。されば世尊(セソン・釈迦の尊称)、この由を明らかにしてください。私自身は決して罪を犯しておりません」と。
すると、その日のうちに、仏像(絵像)は御腰より上がたちまちのうちに分かれて、半身になられた。御胸より下(前記とは理屈が合わないが、胸の所で二分という文献もあるらしい。)は、もとのままの姿である。
仏師は心清く、少しも私腹を肥やすようなことはなかったので、事情を申し上げると、仏は二つに別れられたのである。その時、二人の女は、仏の霊験のあらたかなのを見奉って、ますます誠を尽くして、供養恭敬し奉った、
となむ語り伝へたるとや。
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