『 九つの太陽を射た男 ・ 今昔物語 ( 10 - 16 ) 』
今は昔、
震旦の[ 欠字。王朝名が入るが不詳。]代に養由(ヨウユウ・楚の人で、弓の名人。)という人がいた。猛々しい性格で、弓を射ることに勝れ、何を射るのも掌を指すように命中させた。されば、国王はこの養由を武芸者として出仕させたが、何事も怠ることがなかった。その為、国中こぞって、養由に従った。
ある時、天に太陽が十現れた。一つが照らすだけでも、雨が降らなければ干魃になる。そうであるのに、太陽が十も出て照らせば、草木は堪えられるものではない。皆枯れてしまった。
そのため、国王をはじめ大臣・百官及び国民は、皆嘆き悲しむこと限りなかった。
その時、養由は心の中で思った。「天に太陽が一つ出ることは、人間が持っている業の力によるものだ。ところが今、にわかに十もの太陽が出ている。九つの太陽は、きっと国にとって、祟りによるものだろう」と。
そこで、養由は、弓を取って矢をつがえて、天に向かって太陽を射ると、九つの太陽を射落とした。本来の一つの太陽は、天に在(マ)しまして照らしていること、もとのままである。
そこで、養由は、自分が射落とした九つの太陽は、国に祟りをもたらすものだということを知った。そして、国中の人は皆、養由を誉め感謝すること限りなかった。
これを思うに、猛々しい性格の人の為には、変化の者も、化けの皮を剥がされることもあるのだ、
となむ語り伝へたるとや。
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