雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

こせこせしないで

2018-07-26 08:21:19 | 麗しの枕草子物語
          麗しの枕草子物語 
              こせこせしないで


六位の蔵人が、叙爵して、何々の権の守とか何大夫などという官職を得たからといって、いかにも嬉しげに、板屋葺の粗末で狭い家を慌てて手に入れるのは、いかがなものでしょうかねぇ。

築土塀など望むべきもありませんから、薄い板の網代垣などを新しく付けて、庭に引き入れることも出来ないものですから、家の前に一尺ばかりの杭を立てて、牛車を持っているぞと主張するかのように、牛をつないで草を食べさせているのなどは、本当に腹立たしく思います。
形ばかりの狭い庭は、これでもかというほど掃き清められていて、一目でみすぼらしさの分かる伊予簾を懸けわたして、丈夫だけが取り柄の布障子を用い、夜ともなれば、「錠をしっかりと閉めよ」などと召使に言いつけたりしているのは、いかにも将来性がなさそうで、気に入りません。

この地位になりたてのような人は、親とか舅とか、あるいは叔父とか兄とかの別宅など、そんな都合のよい縁者がなければ、親しくしている国司で任地へ行って空いたままになっている家とか、それもなければ、院や宮様方で沢山お屋敷をお持ちの方のどれかの留守居役を引き受けるなどして、今少し上の官職を得てからもっと上等な家を手に入れるべきなのです。
こせこせと、粗末な家で殿様気取りは、全く興ざめですよ。


(第百七十段・六位蔵人などは、より)

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