雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

無知な食いしん坊 ・ 今昔物語 ( 28 - 19 )

2020-01-03 10:05:33 | 今昔物語拾い読み ・ その7

          無知な食いしん坊 ・ 今昔物語 ( 28 - 19 )


今は昔、
比叡山の横川(ヨカワ)に住んでいる僧がいた。
秋の頃、その僧坊の法師が山に行って木を伐っていたが、平茸があったので取って持って帰った。
僧たちはそれを見て、「これは平茸ではないぞ」などという者もいたが、別の僧が「これは間違いなく平茸だ」と言ったので、汁物にして、栢(カエ・かやの古名で、実を食用にしたらしい。)の油があったのを入れ、坊主(僧房の主)はこれをたくさん食べた。
それからしばらくすると、坊主は、頭を振り回していたがり、食べた物をあたり一面に吐き出した。どうすることもできないので、僧衣を取り出して、横川の中堂に持って行って誦経料にした。

そして、[ 欠字。僧名が入るが不詳。]という僧を導師として祈祷させた。導師は祈祷を行って、その終りに教化(キョウゲ・説法によって教え導くこと。法会で、導師が仏法を讃嘆して唱える数句の文。)の言葉を述べた。
「一乗の峰(ここでは、比叡山を指す)には住んでおられるが、六根(眼・耳・鼻・舌・身・意の六つの感覚器官。)・五内(心・肝・肺・腎・脾の五つの内蔵。五臓とも。)の[ 欠字。「清浄」か?]の位を習っておられないので、舌の所に耳(茸をもじっているらしい)を用いたため、身は病となったのである。鷲の山(霊鷲山。釈迦由来の霊山。)に住んでおられたなら、枝折を尋ねながらも登ることが出来たでしょう。見知らぬ茸(タケ・岳に見立てている。)と思われたご様子で、一人迷われたようです。廻向大菩薩(エコウダイボサツ・廻向文の結びに使われる常套句。)」と。
導師に続いて誦する役の僧たちは腹の皮が切れるほど大笑いした。
この僧は、死ぬほど苦しんだ末に、やっと助かった、
となむ語り伝へたるとや。

     ☆   ☆   ☆


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