雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

越前守の悪だくみ(1) ・ 今昔物語 ( 28 - 5 )

2020-01-03 12:31:10 | 今昔物語拾い読み ・ その7

          越前守の悪だくみ(1) ・ 今昔物語 ( 28 - 5 )

今は昔、
藤原為盛の朝臣(( ?~1029) 最終官位従四位下なので、中級程度の貴族。)という人がいた。
この人が越前守であった時、諸衛(ショエ・・左右の近衛・衛門・兵衛の六衛府をいう。)の役人に支給する大粮米(ダイロウマイ・月々支給される官給米。ここでは越前守の供出分。)を納めなかったので、六衛府の官人はじめその下人までが決起して、平張(ヒラハリ・平らな天井がある天幕。)の道具などを持ち出して、、為盛朝臣の屋敷に押し寄せ、門の前に平張を張って、その下に腰掛けを並べ、全員が居並んで座り、屋敷の者の出入りを止め、納めるよう強硬に要求した。

六月半ばのたいそう暑く日の長い頃なので、夜明け前から未の時(午後二時頃)頃まで座り込んでいたので、押しかけた役人どもは日に照り付けられてどうしようもなかったが、「納めないうちは絶対に帰らない」と思って我慢していたが、屋敷の中から門を少し開けて、年配の侍が首を突き出して言った。
「守殿が申されています。『ぜひとも早く対面させていただきたいが、あまりにも大勢で責められますので、女子供などが恐れていますので、対面して事の子細を申し上げることが出来ません。このように暑い時に、これほど長い時間日に照らされていては、定めし喉が渇かれたことでしょう。また、『物越しに対面して、事の子細も申し上げましょう』と思っておりますので、『そっと食事など差し上げたい』と考えていますがいかがでしょうか。差し支えなければ、まずは、左右近衛府のお役人方・舎人の方からお入りください。その他の方々は、近衛府の方々がお済の後にご案内しましょう。一度にご案内すべきですが、何分むさくるしく狭い所ですので、大勢一度にお入りいただく所がないからです。しばらくお待ちください。まずは、近衛府の方々お入りください」と言うと、役人たちは、日に照らされ大変喉も乾いていたところに、このような申し出があったので、「自分たちの要求を言ってやろう」と思って、喜んで、「とても嬉しい仰せです。すぐに入らせていただき、このように押し掛けてきた理由を申し上げましょう」と答えると、屋敷の侍は、「それでは」と門を開けたので、左右の近衛府の役人・舎人が中に入った。

中門の北の廊に、長莚を西東向かい合わせに、三間ばかり敷かせて、中に机を二、三十ばかり向かい合わせて並べてある。それに載せられている物を見ると、塩辛い干し鯛が切って盛られており、塩引きの鮭の塩辛そうな物が切り盛られており、鰺の塩辛、鯛の醤(ヒシオ・塩漬けのような物)などいろいろな塩辛い物が盛られている。果物では、よく熟して紫色になった李(スモモ)が大きな春日器(カスガノウツワ・春日塗の器。奈良の特産品。)に十ばかりずつ盛ってある。
それらを並べ終えた後、「さあ、まずは近衛府のお役人だけ、こちらにお入りください」と言うと、尾張兼時、下野敦行という舎人をはじめ名の知れた老役人共が群がって入ってきた。
「他の衛府の役人も入ってきては困りますので」と言って、門を閉じて錠をかけ、鍵を持って入ってしまった。

近衛府の役人共が中門の所に並んでいると、屋敷の侍が「早くお上がりください」と言うので、皆上って、左右の近衛府の役人は、東西に向かい合って席に着いた。
そして、「まずは、御杯を急いで差し上げよ」と言ったが、なかなか持って来ないので、役人共は空腹に耐えかねて、急いで箸を取ると、並べられている鮭、鯛、塩辛、醤など塩辛い物を少しずつ食べ始めたが、「杯が遅いぞ遅いぞ」と催促するも、なかなか持って来ない。
守は、「対面してお聞きすべきですが、今は風邪をこじらせていて、すぐには顔を出すことが出来ません。しばらく杯を重ねていただいた後に、まかり出ましょう」と侍に言わせて、出てこようとしない。

やがて、ようやく酒が出てきた。大きな杯の中ほどの窪んだ物を二つそれぞれ折敷(オシキ・四角いお盆。)に載せて、若い侍二人が持ってきて、兼時、敦行が向かい合って座っている前に置いた。次に、大きな提(ヒサゲ・口つきの容器。)に酒をなみなみと入れて持ってきた。兼時、敦行はそれぞれ杯を取り、こぼれるばかりに受けて呑んだが、酒は少し濁っていて酸っぱいような気がしたが、日に照り付けられ喉が乾ききっていたので、ひたすらごくごくと呑んだ。杯を下に置くこともなく、続けさまに三杯呑み干した。

                                      ( 以下(2)に続く )

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