アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の最優秀短編賞受賞作を、1990年から2007年までを収めたものである。ミステリーの始祖、エドガー・アラン・ポーの胸像を贈ることからエドガー賞とも呼ばれている。
1991年受賞作 リン・パレット「エルヴィスは生きている」
エルヴィス・プレスリーは、1977年8月16日薬の過剰摂取により42歳の生涯を終えた。確かに「ハートブレーク・ホテル」の衝撃的なデビュー以来、常にロックン・ロール界をリードしキング・オブ・ロックンロールとまで言われた。
その彼が死んだあとエルヴィスに心酔していたのか、あるいは単に金儲けと思ったか物まねタレントが数百人も出てきた。
彼らはエルヴィスにそっくりというわけでもない。そっくりなのは、衣装とサングラスと少しは似ているかなと思われる歌声だけだった。
そんな社会現象に飛びついたのが年を食ったペイジという男。物まねタレントを三人集めて売り出し時のエルヴィス、絶頂期のエルヴィス、それに晩年のエルヴィスという構成でラス・ヴェガスに乗り込んだ。
ジャンゴは売り出し中の、バクスターは最盛期、リーが晩年という配分だった。みんな特長を生かして結構受けていた。しかし、ペイジとの契約には二年間は拘束されるという自由の利かないものだった。
ジャンゴは友人の前ではショウをやりたくないし、リーには逃げた妻が元に戻る可能性があって今すぐ家に帰る必要があった。
ナイト・クラブのほの暗い客席に向かってリーは《今夜はひとりかい》のしゃべる部分に入っていた。「言ってくれよ、ディア――」マイクにささやきかけいったんは逃げて、再び帰ってくるかもしれない妻のことを思った。
妻の高校時代を思い出して「きみはとても可愛いよ。それに、ぼくは知ってるんだ。きみがぼくのことを気にかけてくれたことを。でも――どうして、こうなったんだい? きみはぼくを遠くに追いやって――」
客席を見ると、この切ない音楽と言葉に酔った顔に涙が見えた。そしていつものように歌詞が戻ってくる。バンドがそれに続き、後ろで壁の照明が輝いたとたん、ものすごい力で爆発して、リーを叫び狂う客席の中に吹き飛ばした。
この真相は、リーがステージに上がる前ペイジが立っていた近くの配線機器に軍隊時代に覚えた技で細工をしたものだった。ペイジは事故死と認定された。三人は自由になった。リーは故郷までヒッチハイクのトラックの中で、思いっきりエルヴィスの歌を歌った。
著者は、ニュージャージー州生まれ。1988年に短編集The Land of Goを発表。最近作は短編Blue Vandasで、ミーガン・アボット編A Hell of a Woman(2007年)に収録されている。またフロリダの作家を紹介するfloridabookreview.comを立ち上げた。Amazonで調べたが邦訳はほかになかった。