日本に限らず世界中で老後の人生の意義を見出そうとして躍起になっている現実がある。高齢者を老人ホームに閉じ込めて厄介者扱いにするか、年代を超えた共生の仲間として扱うのか。実はこの映画の根底にはその問題意識があるように思われる。一組の夫婦が老いと向き合う様がなんとなく侘しさが漂う。
その夫婦というのが夫アダム(ウィリアム・ハート)と元教師の妻メアリー(イザベラ・ロッセリーニ)で、共に60代を超えた年齢だ。メアリーは物忘れが気になりだした。アダムは実年齢を認めたがらない。建築事務所のオーナーから老人ホームの設計をやれといわれるが気が向かない。
オーナーの描く老人ホームは老いも若きも一緒に住むという共生の館だったが。アダムは若い連中と美術館の設計に余念がない。服装も若ぶってTシャツにレザーの上着という出で立ち。
一方メアリーも友人の医者から趣味を持って運動も積極的にしたほうがいいといわれる。スィミングスクールへ行きブラウスの胸もとを少し開いて見たりもした。いじらしいほど老いに反発する行為に他ならない。
誰しも老いは避けられないし無視もできない。毎日の洗顔や髭剃り化粧にと鏡の中の自分と対面して、白髪が増えたとか首も周りが痩せたとか嫌でも老いは攻撃の手を緩めない。外に出れば歩く速度が遅くなり階段を降りるのが怖く感じたりする。
アダムがメアリー言った言葉に「君といると年を感じる」は、実に残酷で許しがたいがこれはお互いに感じるものではあるまいか。
この60代というのは一番危険な年齢ではないだろうか。要するに精神的にも肉体的にも最後の徒花が咲く時期だからだ。
アダムもメアリーも浮気をした。メアリーの母の死が現実を確認させたという意味で、二人に転機をもたらした。ベッドの中で騎乗位のメアリーが言う「誰に習ったの?」
アダム「何のことだ?」
メアリー「こんなの初めて」
アダム「昔は若く体も柔らかかった。今はすぐ体中がけいれんを起こす だからこうする」
メアリーの満足げな愉悦が漏れた。原題のlast bloomer(遅咲きの花)そのままの60代。
監督
ジュリー・カヴラス
キャスト
イザベラ・ロッセリーニ1952年6月イタリア、ローマ生まれ。映画監督ロベルト・ロッセリーニと女優のイングリッド・バーグマンの娘。
ウィリアム・ハート1950年3月ワシントンDC生まれ。