2001年9月11日のニューヨーク、ツインタワー・テロ攻撃は、クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)にとって正義への挑戦と映った。テキサスでカウボーイを目指していたが、海軍の特殊部隊シールズに入隊する。
そして派遣されたイラクで、味方のアルカイーダ系武装勢力掃討作戦を援護するために、屋上から不審な人物を排除する役目をになう。その狙撃の腕は敵に悪魔といわせ懸賞金もかけられたという。
映画はそれを克明に描くが、自伝では狙撃について、敵を悪人と呼び撃ったことに罪悪感はないと言い、もっと敵を倒せば多くの味方の命が救えた。また、射殺した敵の中には少年兵も多く含まれていたが仲間を傷つけようとする者は容赦なく撃ったという。
さすがに映画ではそのようなセリフはないし、むしろ怪しい人物を倒した後に、残った対戦車ロケット砲を子供が持ち上げ撃とうとする。クリス・カイルの人差し指は、引き金に掛かっている。「それを捨てろ! 頼むから捨ててくれ!」と呟く。
画面は、子供がロケット砲を放り投げて走って逃げていった。ほっとするカイル。イーストウッド苦心の挿入シーンといえる。
それとカイルが帰国後、軍から離れてPTSD(心的外傷後ストレス障害)に罹って悩むことや、その体験をPTSDで悩む帰国兵士のために尽力することも描かれる。それでも、この映画は賛否両論があって、観た人の感じ方次第。
正義や国を守るということは、かなりの代償を覚悟しなければならないし、すべての人が受け入れるとも限らない。なんとも辛い立場におかれる。
そして皮肉にも、2013年2月2日PTSDを患う元海兵隊員エディー・レイ・ルースの母親からの依頼で、同じく退役軍人のチャド・リトルフィールドと共にテキサス州の射撃場でルースに射撃訓練を行わせていたところ、ルースが突然カイルとリトルフィールドを射殺。ルースは現場から逃走したものの保安官によって逮捕された。クリス・カイル享年38歳だった。
イラクに4回派遣され160人も射殺して仲間を助け、戦闘にも参加して生還したクリスに平和な故郷で銃弾に倒れるとは思ってもみなかったことだろう。このくだりは、葬儀場面にナレーションが入るだけだ。
監督
クリント・イーストウッド1930年5月サンフランシスコ生まれ。
キャスト
ブラッドリー・クーパー1975年1月ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ。
シェナ・ミラー1981年12月ニューヨーク州ニューヨーク生まれ。