2050年のアメリカは、経済、地政学、文化の面で支配的な勢力ではなくなる。ただし、アメリカの次に世界の経済と政治の「心臓」を迎え入れるのは、中国ではない…。ソ連の解体やウクライナ危機など数々の世界的危機を予見してきたジャック・アタリ氏はこのように予測します。商人が地政学、政治、価値観を支配する「商秩序」は、11世紀に登場して以来今日に至るまで9つの「形態」を構築してきました。「心臓」になるには、イデオロギー、外交、金融、経済、軍事の面で、世界を支配しなければいけません。来たる第10の「形態」を率いる国・地域はどこなのか? アタリ氏の著書『世界の取扱説明書』(林昌宏訳、プレジデント社)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
----------------------------------------------- 私の推論を要約すると、最も可能性の高い未来は次の通りだ。生産、交換、商売によって生み出される富の蓄積を司るのは、依然として商秩序だ。商秩序は、地政学、政治、価値観を支配し続ける。第9の「形態」は崩壊する。アメリカは第9の「形態」を維持しようと試みるが、失敗に終わる。2050年のアメリカは、経済、地政学、文化の面で支配的な勢力ではなくなり、第10の「形態」が登場する。 -----------------------------------------------
インドはどうか?
中国以外に10番目の「形態」の「心臓(=商秩序における中心都市)」になる候補はあるだろうか。 そのころのインドの人口は世界第1位だ(世界の人口のおよそ18%に相当する17億人。インドは、世界最大のイスラム社会を抱える)。インドの人口に占める若年層の割合は非常に高い(25歳未満が国民の40%、25歳から50歳が37%、65歳以上はわずか15%)。
インドは世界第2位の経済大国になる。近年の経済成長の加速を考慮すると、インドのGDP(2010年の恒常ドル換算)の世界シェアは、アメリカをわずかに上回る16%になる。 2030年、インドの中所得世帯数はおよそ1億4000万、高所得世帯数はおよそ2100万になる。人口の40%は都市部で暮らす。極度の貧困に喘ぐ世帯数の割合は、全体の15%から5%へと減少する。 海賊行為が減少すれば、ムンドラ港(グジャラート州/世界第26位)とジャワハルラル・ネルー港(マハラシュトラ州/世界第28位)は、世界のトップクラスに浮上するだろう。
しかし、インドの道のりは前途多難だ。第一に、蔓延する汚職がインドの発展と脆弱な民主主義の障害になる。さらには、何の対策も施さないと、インドは気候変動から壊滅的な被害に遭い、期待される経済成長にも疑問符がつくだろう。 ヒマラヤの雪解けにより、大きな河川の氾濫は、今日よりもさらに頻繁に起こる。主要都市(ムンバイ、チェンナイ、コルカタ、ヴァーラーナシー、バーヴナガル、コーチ)、そして西ベンガル州、ケララ州、グジャラート州、オディシャ州などの沿岸部の州では、洪水による深刻な被害が発生する。 その一方で、人口の少なくとも40%は水不足に悩まされる。
さらに、中国は強敵インドの発展を阻止するために手段を選ばない一方で、インドも中国政府の影響力を制限するためにさまざまな措置を講じる。 一例として、インド政府は国内での中国のSNS「ティックトック」の利用を禁止した。中国とインドという、将来の超大国同士が激突する恐れも考えられる。他方、アメリカは両国を弱体化させようと尽力するだろう。 結論として、インドには商秩序の「心臓」になる体力がまだ備わっていないだろう。