9時、起床。
トースト、ベーコン&エッグ、サラダ、牛乳、紅茶の朝食。
大田区長・区議会議員選挙の投票へ行く。 投票所は母校の相生小学校。外の掲示版を見ながら、投票する人物を(最終的に)決めるという人がけっこういるように思う。私もそうである。
投票を終えて出てきた若い母親が手をつないだ子供に「選挙って何?」と聞かれて「これからの世の中ををよくしてくれる人たちを選ぶのよ」と答えていた。ちょっと感動する。
投票を済ませ、その足で句会へ出かける。「カフェゴト―」には20分ほど早く着いた。
タルトタタンとアイスアップルティーを注文たて皆が来るのを待つ。 恵美子さん、こかよさん、渺さん&月白さん、そして紀本さんの順でやってくる。本日の出席者は6名。
これに加えて投句での参加は蚕豆さん(旭川)、花さん(京都)、あゆみさん(浜松)。蚕豆さんと花さんは出席者と同じく3句だが、あゆみさんはインフルエンザの病床からの投句で1句のみ。というわけで本日の作品は25句。紀本さんが全作品を読みあげたあと、選句開始(花さんとあゆみさんはLINEを使って選句にも参加する)。各自が3句選び(自作を除く)、天(5点)、地(3点)、人(1点)を順位づけをする。
私は次の3句を選んだ。今日はそんなに迷わなかった。
天 花冷えや電話詐欺師の丁寧語
用紙の先頭に置かれた句。私は一読した印象を「〇」と「△」と無印で分類し、そこから入選句を絞り込んでいくが、今回は先行逃げ切りという感じで、この句が「天」になった。「花冷え」という季語と「電話詐欺師の丁寧語」がヒンヤリとマッチしている。老人から金を巻き上げようとする人間の血の通っていない丁寧な言葉遣いである。
地 花ニラは花弁に青を滴らせ
花ニラはよく道端で見かける雑草で、清楚な花を咲かせる。好きな花で、写真に撮ってブログに載せたこともある。よく見ると花びらに青い筋が入っている。それを「青を滴らせ」と表現したところが繊細である。また「花ニラや」ではなく「花ニラは」と詠嘆を抑制したところも慎ましいこの花のイメージに合っている。
人 箱の骨軽く笑いて梅の風
私はこの句を一読して熊谷守一の「ヤキバノカエリ」という絵が思い浮かんだ。火葬場から娘の骨の入った骨箱を抱いて帰る家族の絵である。娘は21歳だった。家族の顔の表情は描かれていない。おそらく呆然として無表情なのであろう。それに比べると、この句の場合は、天寿を全うした人の死なのであろう。箱の中で骨がカラコロと乾いた音を立てる。それが笑い声のように聞こえるのである。「軽く」のところにもうひと工夫あったら「天」にしたいところだった。どんな工夫? それはわかりません(梅沢名人流)。
全員の選考が終ったところで、一人一人選んだ句を披露していく。そして最後に句の作者が明らかにされる。
結果は以下の通り。
9点 花冷えや電話詐欺師の丁寧語 月白
今回の特選句は私が「天」、渺(びょう)さんが「地」、花さんが「人」を付けた月白さんの句。私は作者を蚕豆さんだと思っていたので、これは意外だった。でも、「電話詐欺師の丁寧語」という表現は蚕豆さんらしいが、意味がすんなりわかるというところは蚕豆さんらしくないか(笑)。月白さんは最初は下の句を「やさし声」とかなんとかで考えていたそうだが、推敲の末「丁寧語」にしたそうだ。それは正解で、ここは生硬な漢語の方が効果的である。
8点 雪解水決意は比例反比例 蚕豆
紀本さんが「天」、恵美子さんが「地」を付けた。「雪解水」は「ゆきげみず」と読む。雪解けの水のことである。雪解けの川の水を見つめながら何かの決意が強まったり弱まったりしている心情を詠んでいると解釈できるが、「比例反比例」という表現は蚕豆さんらしくて、しかもわかりにくい(笑)。蚕豆さんらしい作品だ。山頭火ではなく、蚕豆句である。
8点 春風に背中押されて失踪す 月白
こかよさんが「天」、あゆみさんが「地」を付けた。春は入学、入社のシーズンである。新しい環境に入って行くのは緊張する。だから「春風に背中押されて登校す」としたいところだが、逆に「失踪す」と逃げ出すところがポストモダン的である(浅田彰の『逃走論』を思わせる)。頑張らなくていい、逃げろや逃げろだ。でも、とりあえずあと1週間、GWまで頑張ってみませんか(笑)。
7点 春の日の郵便受けの空虚かな たかじ
私の句。花さんから「地」、紀本さんと月白さんから「人」をいただいた。春の日の空虚さを郵便受けを素材にして詠んだ春愁の句である。手紙や葉書を書かなくなった若い世代には伝わりにくいかもしれませんが。
6点 花ニラは花弁に青を滴らせ 渺
私とこかよさんが「地」を付けた。奥様の月白さんは「私、ニラ食べないから」とこの句に関心を示していなかったが、花ニラは食用のニラとは別の植物である。
6点 天麩羅やウドにタラの芽フキノトウ たかじ
私の句。花さんから「天」、こかよさんから「人」をいただいた。春の天ぷらの食材をリズミカルに並べて、食欲をそそる一句でしょ。「ウドにタラの芽」のところは慣用句「鵜の目鷹の目」とオーバーラップする。
5点 眩しさは春夢のなごりドアを開け こかよ
恵美子さんが「天」を付けた。先日、『プレバト』で番組レギュラー名人特待生チームと松山東高校のチームが「自動ドア」というお題で俳句対抗戦をやっていた。そのときの印象に残った高校生の一句に「春はひらく立ち止まること許されず」というのがあった。青春の句である。こかよさんの句は「春夢のなごり」、ポスト青春、大人句の句である。
5点 おかっぱをおかっぱにして入学式 恵美子
あゆみさんが「天」を付けた。普段からおかっぱの子が入学式にきちんとしたおかっぱで臨むという句。あゆみさんがラインに送ってきた感想、「おかっぱをおかっぱにするという表現が最高。それに尽きる」。そうですね。「リーゼントを七三にして入社式」ではロックじゃないよね。
5点 夢路にて鯨を狙う銛となる 蚕豆
渺さんが「天」を付けた。『白鯨』のエイハブ船長みたいである。横からこかよさんが「夢の中に出てくる銛(もり)というのは・・・」とフロイトの夢判断の話を始めた。一同、「またか」という顔になる(笑)。
5点 仏の座そのうちわかる誤魔化して 紀本
月白さんが「天」を付けた。月白さんは「意味はよくわからないけれど惹かれるものがある」ということを言っていた。その点は蚕豆さんの句と似ているが、漢語表現を駆使する蚕豆さんに対して、紀本さんは口語的なやわらなか表現を特徴とする。この句は、たぶん「仏の座」という季語がまずあって(これを使いたい)、「仏様にはみんなお見通し」という連想から「誤魔化しても、そのうちばれる」という中の句と下の句が倒置法的に出てきたのだろう。
3点 ワンノートサンバを歌う春の雨 こかよ
こかよさんが「地」を付けた。私は「ワンノートサンバ」が有名なボサノヴァの曲であることを知らなかった。それを知っているといないとでは春の雨の音色がまったく違ってくるだろう。
3点 夜の川花の筏で渡らんか 渺
月白さんが「地」を付けた。花筏で川を渡るというのは普通の発想であるが、「夜の川」というところがポイントで、昔、加藤登紀子や野坂昭如が歌った「黒の舟唄」を連想させる。♪男と女の間には暗くて深い川がある 誰も渡れぬ川なれどエンヤコラ今夜も舟を出す~。
1点 ゴールデンウィークつぎつぎ追加して 紀本
恵美子さんが「人」を付けた。今年のGWは10連休。今年限りのオプションがあれこれついてこういうことになりました、という句。
1点 花影の彼の眼差むふふふふ 月白
あゆみさんが「人」を付けた。今回の兼題は平仮名の「む」だった。みなこれには手こずったようで、入選はこれと次の句の2作のみ。
1点 禁欲のむね肉レタス転がって 紀本
渺さんが「人」を付けた。「胸肉」を「むね肉」と表記することで無理矢理兼題「む」に対応したように見えるが、実はスーパーなどでは「むね肉」と表記されることが多い。たぶん「胸」は画数の多い漢字だからだろう。
1点 箱の骨軽く笑いて梅の花 こかよ
3月にお祖母様の葬儀があったそうである。選んだのは私だけだったが、もっと票が集まってもよかった句だと思う。
今回は「天」の重なった句が一つもなく、点数が分散したように思う。選外だった句の中では、「自己紹介の無き日かな春の服 あゆみ」が惜しかったと思う。事実、あとからであったが、蚕豆さんはこの句を選んでいた(「箱の骨」も選んでいた)。たぶん語順を変えたら入選したのではないかと思う。「春服」を最初にもってきて、「春服や自己紹介の無き日かな」あるいは「春服や自己紹介はなかりけり」とか。 当然、自己紹介があるだろうと思っておめかしをして出かけたが、それがなかったという肩すかしの気分を詠んだ句である。
恵美子さんは7月初旬が予定日なので、次回(6月)は欠席。分娩台で一句・・・とはいかないでしょうね(笑)。安産でありますように!
東京に単身赴任中だった 渺さんは関西に引き上げる。句会に合わせて奥さんの月白さんが上京して一緒に句会に出られるというパターンは今回が最後である。句会の中心的メンバーだった蚕豆さんが旭川に帰られた後の空白を、ご友人のお二人がしっかりと埋めてくださった。ありがとうございました。句会の後、お二人を誘って「タビビトの木」でお茶を(私は食事も)する。
お二人がメンバーである「阪神間モダニズム調査隊」の報告書(2018年版)というものをいただいた。谷崎純一郎の『細雪』などの舞台となった芦屋、西宮、東神戸のあたりを「阪神間」と呼ぶそうで、調査隊はモダニズム期の生き証人たちへのインタビューを通して、この地域の生活文化を記録して検証していこうとするものである。
これでお2人と会えなくなくなってしまうのも淋しいということで、6月の句会は神戸、お二人の住む芦屋に出張して行うことになった(!)。6月2日(日)のお昼に日時は設定した。句会のためだけに行くのではなく、スケジュールの一部に句会を含めた週末の小旅行として考えたら楽しいものになるのではないかしら。なお、兼題は「東西南北」のどれかが入った句(今回特選の月白さんの出題)。蕪村の「菜の花や月は東に日は西に」や安住敦の「しぐぐるや駅に西口東口」みたいな名句ができるかも・・・しれない。
研究室に寄って、雑用を片付けてから、蒲田に返ってくる。
夕食は鯵の一夜干し、揚げ出し豆腐、サラダ、味噌汁、ご飯。
アマネさんからいただいた(今朝宅急便で届いた)和菓子を食後にいただく。
2時、就寝。