Sightsong

自縄自縛日記

渚ようこ『あなたにあげる歌謡曲』、若松孝二『天使の恍惚』

2010-04-23 23:52:06 | ポップス

中村高寛『ヨコハマメリー』(2005年)のエンディング曲として、渚ようこが「伊勢佐木町ブルース」を歌っていた。しばらく気にしていたが、ある日、沢渡朔の写真展の記名帖に名前を書こうとしたところ、自分の直前に「渚ようこ」の名前があった。ちょっとでも早めに来たなら、すれ違うことができたのに!

そんなわけで、ここのところ、『あなたにあげる歌謡曲 其の一』(VOLT-AGE records、2005年)を時々聴いている。

昨日などは、ツマに何だその音痴は、ヤメロ!と罵られてしまった。確かに声量があるわけでもないし、歌唱力が絶大なわけでもない。しかし音痴というのとは違う。時にちょっとヨレッとするのがとてもいいのである。

行ったことはないが、渚ようこは新宿ゴールデン街に店を開いている。シラムレンとはしごしたら頭が溶けるだろうな。この盤では、高橋ピエールのギターとデュオで歌っており、もう気分は新宿放浪の夜なのだ。「どうぞこのまま」も、「ここは静かな最前線」も、「昔の名前で出ています」も、「小心者」も、山口百恵の「夜へ・・・」も、かなり沁みる。酒でも買いにいくか(笑)。

特に、「ここは静かな最前線」。解説は先ごろ亡くなった平岡正明である。この選曲にはかなり驚いたようで、なぜなら、若松孝二『天使の恍惚』(1971年)の主題歌だからだ。どういうわけでこんな曲を、というわけである。作曲の出口出は足立正生のペンネームであり、渚ようこが歌ったときには既にパレスチナから日本に戻ってきていた。ひょっとしたら足立正生がゴールデン街で教えたのかもしれない。何しろ、かつての「新宿の三天才」のひとりである。

『天使の恍惚』では、この歌を、横山リエが歌っている。当初はジャズ歌手の安田南が出演し、歌う予定であったという。足立正生『映画/革命』(河出書房新社、2003年)によると、安田南は芝居ができないので降りてもらったという事情があった。しかし、横山リエは大島渚『新宿泥棒日記』のウメ子役より凄みを増していて、大正解だったのではないか。上映時は連合赤軍のあさま山荘事件の後で、上映館のATG新宿文化はクリスマスツリー爆弾事件があった交番の真横だったこともあり、警察からの圧力が物凄かったようだ。そんなセンセーショナルな歴史は置いておいても(いや置くことはできないか)、傑作である。第一次山下洋輔トリオ(森山威男、中村誠一)の演奏、国会議事堂に車で突っ込んでいく横山リエ。「本気で孤立できる奴!個的な闘いを個的に闘える本気の奴らが十月組なんだ!」という叫び声が奇妙に印象に残る。

●参照
『ヨコハマメリー』
新宿という街 「どん底」と「ナルシス」