Sightsong

自縄自縛日記

市川塩浜の三番瀬と『潮だまりの生物』

2010-04-17 16:38:50 | 環境・自然

所用で市川塩浜まで出かけたついでに、三番瀬の様子を眺めにうろうろ。距離的には近いが、海辺の運送会社や産業廃棄物処理会社などが集まっているエリアで、歩く人はほとんどいない。そのためか、歩道の真ん中に育っているタンポポやオオイヌノフグリが全く踏まれていなかった。ごみの散乱は昔ほどひどくもない。海辺ゆえ松が多く、その下にはホームレスのテントがある。

近づいたところで、老朽化した垂直護岸が崩れる事故があったため、どこもかしこもフェンスで近づくことができなくなっている。昔は護岸まではともかくも行くことができた。


ここも(運送会社の横で、フェンス越しに)


ここも(フェンス越しに。向こうに小さい人工干潟と壊れた橋が見える)


ここも(スポーツセンターの横)

千葉県が「砂付け試験」というものを実施しているようで、砂を投入してその変化と生物の加入状況を調べている。垂直護岸は、安全性の問題がなくても、親水性が皆無であり(干潟だと気が付かない人もいる)、水や酸素の循環といった点でも劣悪であることは間違いないだろう。この試験は、垂直護岸から人工干潟を造成することを想定したものなのだろうか。この是非については、市民団体の間で意見がふたつに分かれている。

市川塩浜駅前には、NPO三番瀬が管理する「三番瀬案内所」がある。久しぶりに入ってみると、丁寧に説明してくれた。

目立つのは展示室の真ん中にある大きな水槽。この中に、アメフラシナマコがいた。一説には、水中で紫色の液を吹きだすのがアメフラシの名前の由来。体内には薄い貝殻があるという。「太りすぎて、貝から体がはみ出したのでしょうか・・・。」(屋比久壮実『磯の生き物』)

隣の水槽には、メリベウミウシというウミウシが、大きな口を開けて漂っている。アメフラシといいウミウシといいナマコといい、つくづく奇妙な生き物である。


アメフラシ


メリベウミウシ

また別の水槽では、アマモを育てている。希少な寿司だねのギンポがアマモの間を縫うように泳いでいた。訊ねてみると、今年も富津干潟からアマモをもらってきて、三番瀬で生育実験を行っている。何年か前、何ものかによってアマモが取り去られたことがあった。

垂直護岸や猫実川河口あたりを貴重な生態系とみなすかどうか(牡蠣礁など)については、この団体は否定的だ。それよりも三番瀬本来の砂干潟を再生させることを重要視している。


アマモとギンポ

ところで、科学映像館が教育映画『潮だまりの生物』(1950年代、学研)を配信している(>> リンク)。フィルムが劣化してはいるが、干潮時の岩礁の潮だまりにいる生き物が次々と登場し、とても親しみがわく。ただし、魚や海老の映像は、水槽で撮ったものだろう。場所は特定されていないが、おそらくは関東から九州の太平洋岸のどこかだろう。

ここにもアメフラシやウミウシが登場する。最初に見た人は肝を潰しただろうな。他にも次のような生き物が登場する。

●フクロノリ(今では「キシリトールガム」などに抽出物が利用され、歯の再石灰化に役立つ)
●イワヒゲ(海藻)
●ヒジキ(海藻)
●ケガキ(貝)
●イシゲ(海藻)
●アラレタマキビ(貝)
●キクノハナ(平たい菊の花のような形でへばりついた貝)
●ウノアシ(鳥の足のような形でへばりついた貝)
●ヨメガカサ(傘のような形でへばりついた貝)
●カラマツガイ(やはり傘のような形)、その卵
●クロフジツボ(最後に潮が満ちてくると蓋を開けて蔓脚を出す)
●カメノテ(フジツボと同じく固着生物)
●イワガニ
●ショウジガニ
●トゲアシガニ
●ヒライソガニ
●イソクズガニ(甲羅が海藻で覆われている。糸満で見たケブカガニを思い出す)
●イソスジエビ
●ヤドカリ
●ヨロイイソギンチャク(鎧のように小石や貝殻が付いている)
●モエギイソギンチャク
●ケヤリムシ(ゴカイの仲間。花のようにゆらゆらしている)
●メジナ(魚)
●キヌベラ(赤、青、緑の魚だが、勿論、白黒映画)
●アゴハゼ(魚)
●カエルウオ(底に棲む魚)
●ゴンズイ(ナマズの仲間)
●ウツボ
●タコ
●ヤツデヒトデ
●アカウニ(棘の間から管足を出し、岩に吸いつかせて歩く様子)
●ウミウシ
●アメフラシとその卵(紫色の駅を出す様子) 

これでも17分間の映画に登場する生き物のすべてではない。まさに生物多様性、岩礁干潟ならではだ。

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』
『かえるの話』(ヒキガエル、アカガエル、モリアオガエル)
『アリの世界』と『地蜂』

●三番瀬
日韓NGO湿地フォーラム
三番瀬を巡る混沌と不安 『地域環境の再生と円卓会議』
三番瀬の海苔
三番瀬は新知事のもとどうなるか、塩浜の護岸はどうなるか
三番瀬(5) 『海辺再生』
猫実川河口
三番瀬(4) 子どもと塩づくり
三番瀬(3) 何だか不公平なブックレット
三番瀬(2) 観察会
三番瀬(1) 観察会
『青べか物語』は面白い

●岩礁干潟
糸満のイノー、大度海岸


2010年と1995年のルートヴィヒ美術館所蔵品展

2010-04-17 09:37:57 | ヨーロッパ

所用で横浜に出かけた帰りに、そごう美術館「ピカソと20世紀美術の巨匠たち」を観た。ドイツ・ケルンにあるルートヴィヒ美術館の所蔵品の展示である。今年ケルンの美術館近くまで足を運んだのだが、立ち寄る時間はなかった。

ピカソ、ノルデ、エルンスト、シャガール、クレーといった天才たちの作品であり、もはや手法的な新鮮さはなくても素晴らしい作品群だ。ジャズ・ドラマーでもあったA・R・ペンクの作品も1枚ある(ペンクを観る機会は多くない)。

特に大好きなマックス・エルンスト「月にむかってバッタが歌う」はフロッタージュによる終末的な作品で、つい駆け寄ってしまう。1995年に東武美術館で開かれた「20世紀美術の挑戦―ルートヴィヒ美術館展」で観て以来だ。もちろん、何度観ても嬉しい。旧東ドイツの批評家たちは、核爆発後、最初の生き物として無数の蟻や蠅が満ち溢れるというヴィジョンを読み取っていたという。


前回図録では「月にむかってきりぎりすが歌う」となっている。バッタ?きりぎりす?

帰宅して、前回図録を棚から出して眺める。ピカソ、クレー、シャガールなどの作品は、前回のときと共通するものが多い。ただ、今回は、マレーヴィチ、ロドチェンコ、フィローノフといったロシア・アヴァンギャルドの作品がほとんど来ていない。特に長らく幻の画家と言われたパーヴェル・フィローノフの絵はほとんど観る機会がないだけに、ひたすら残念だ。私はこれを含め、2008年に開かれた『青春のロシア・アヴァンギャルド』(Bunkamura ザ・ミュージアム)(>> 記事)との2回しかフィローノフ作品の現物を観たことがない。


前回図録より、フィローノフ「顔」

それにしても15年前か。池袋は、西武、東武と美術館が両方消えてしまい、かなり親しみのない街になってしまった。


チラシをとってあった