Sightsong

自縄自縛日記

かみむら泰一+永武幹子「亡き齋藤徹さんと共に」@本八幡cooljojo

2019-09-08 10:47:40 | アヴァンギャルド・ジャズ

本八幡のcooljojo(2019/9/7)。

Taiichi Kamimura かみむら泰一 (ts, ss)
Mikiko Nagatake 永武幹子 (p)

この日の顔合わせは「亡き齋藤徹さんと共に」と付けられた。企画はcooljojoの長谷川さん。このcooljojoで、テツさんと永武幹子さんの唯一のデュオが行われたのは昨年のことである。またテツさんとのデュオを積み重ねていたかみむら泰一さんも、その前月にここでのデュオを演っている。それらは何か大きなもののせめぎ合いから予想外に創出された音楽だった。そしてこの日は、テツさんとの邂逅を意識しつつ、それぞれの自然体の音楽を提示するものとなった。

冒頭はショーロを2曲。ソプラノは弱弱しくはじまり、音を集めて濃度を高めてゆく。テナーもまた周辺の空気に溶けるようで、それが音のダンスとなった。ピアノとテナーとが相互に浮上した。3曲目は、先日亡くなった浜村昌子さんのアレンジによる「Skylark」。ピアノのイントロから消え入りそうに入ってくるテナーは、ゆっくりと、自身の時間意識の文脈に取り込んでいった。永武さんのピアノはその間隙から光を呼び込んでいるように聴こえる。

続いてセロニアス・モンクを2曲(テツさんと永武さんのデュオではモンクやエリントンが選ばれたのだ)。「Four in One」におけるかみむらさんのテナーはまったくアクロバチックに聴こえない、この有機的な積み上げ方がかみむらさんの音である。ピアノは和音をまるで束のように集めてふわりと大きな流れを創った。「Ugly Beauty」でもかみむら魔術は止まらない。あやしくよれる和音が蛇行する。

セットはミルトン・ナシメントの曲で締めくくられた。ピアノとソプラノとが作る音色の含み持つものの向こう側に、なにか愉しくしている人たちの姿がみえる。ピアノはきらきらとした反射光のようで、それが喜びの共有になった。

セカンドセットは、エリントンの「I Let a Song Go Out of My Heart」からはじまり、続いてなんとオーネット・コールマンの「Round Trip」。一緒にはじめたがいきなりずれていくテナーがオーネット的。永武さんは自身の流れやリズムをまずは創出するためか、左手でベースラインを作り、速度を可変的なものとし、右手で発展させた。

かみむらさんは、テツさんの音をはじめて聴いたときに「胸をわしづかみにされたようだった」と言った。そして即興。フラグメンツを撒いては自身の中に取り込んで一連の流れにしようとするかみむらさん、一方の永武さんは自身のフレーズによって別のかたちを作り上げていった。

続いて、テツさんの「エドガーの日常」。酒井俊さんが歌うときの伴奏で聴いたことはあったものの、永武さんのピアノ主体の演奏ははじめて聴く。これが清冽な湧き水のようで素晴らしい。こんな「エドガーの日常」があったのか。かみむらさんのソプラノは再び弱さを提示し、それゆえ音楽が強さを持っていた。

ジョビンの「A Felicidade」に続き、アンコールは「The Things We Did Last Summer」、テナーのかすれるヴィブラート。

Fuji X-E2、7Artisans 12mmF2.8、XF60mmF2.4

●かみむら泰一
クリス・ヴィーゼンダンガー+かみむら泰一+落合康介+則武諒@中野Sweet Rain(2019年)
徹さんとすごす会 -齋藤徹のメメント・モリ-(2019年)
かみむら泰一+齋藤徹@喫茶茶会記(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一+齋藤徹@本八幡cooljojo(2018年)
かみむら泰一session@喫茶茶会記(2017年)
齋藤徹 plays JAZZ@横濱エアジン(JazzTokyo)(2017年)
かみむら泰一+齋藤徹@キッド・アイラック・アート・ホール(2016年)
齋藤徹+かみむら泰一、+喜多直毅、+矢萩竜太郎(JazzTokyo)(2015-16年)
かみむら泰一『A Girl From Mexico』(2004年)

●永武幹子
酒井俊+青木タイセイ+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
古田一行+黒沢綾+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
蜂谷真紀+永武幹子@本八幡cooljojo(2019年)
2018年ベスト(JazzTokyo)
佐藤達哉+永武幹子@市川h.s.trash(2018年)
廣木光一+永武幹子@cooljojo(2018年)
植松孝夫+永武幹子@中野Sweet Rain(2018年)
永武幹子+齋藤徹@本八幡cooljojo(JazzTokyo)(2018年)

永武幹子+類家心平+池澤龍作@本八幡cooljojo(2018年)
永武幹子+加藤一平+瀬尾高志+林ライガ@セロニアス(2018年)
永武幹子+瀬尾高志+竹村一哲@高田馬場Gate One(2017年)
酒井俊+永武幹子+柵木雄斗(律動画面)@神保町試聴室(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)
永武幹子+瀬尾高志+柵木雄斗@高田馬場Gate One(2017年)
MAGATAMA@本八幡cooljojo(2017年)
植松孝夫+永武幹子@北千住Birdland(JazzTokyo)(2017年)
永武幹子トリオ@本八幡cooljojo(2017年)


タイガー・トリオ『Map of Liberation』

2019-09-08 10:15:48 | アヴァンギャルド・ジャズ

タイガー・トリオ『Map of Liberation』(RogueArt、2018年)を聴く。

Tiger Trio:
Joëlle Léandre (b)
Myra Melford (p)
Nicole Mitchell (fl, alto fl, piccolo)

幽玄にも祝祭的にも聴こえる音楽。

音価の長いニコール・ミッチェルが時間の流れを支配しているように思えていたのだが、いやそうでもない。三者が三様に出てきて、互いに尊重しあって、その都度時間の流れを創出している。それゆえ響きも一様ではない。ジョエル・レアンドルの融通無碍な音も、マイラ・メルフォードの強さの出し入れも良い。

●マイラ・メルフォード
マイラ・メルフォード(Snowy Egret)『the other side of air』(2017年)
マイラ・メルフォード+マーティ・アーリック@The Stone(2015年)
マイラ・メルフォード Snowy Egret @The Stone(2015年)
マイラ・メルフォード『Live at the Stone EP』(2015年)
ロイ・ナサンソン『Nearness and You』(2015年)
マイラ・メルフォード『Snowy Egret』(2013年)
マイラ・メルフォード『life carries me this way』(2013年)
『苦悩の人々』再演(2011年)
マイラ・メルフォード『Alive in the House of Saints』 HAT HUTのCDはすぐ劣化する?(1993年)
ブッチ・モリス『Dust to Dust』(1991年)

●ニコール・ミッチェル
ニコール・ミッチェル『Maroon Cloud』(2017年)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/9/30)(ミッチェルへのインタビュー)
マーク・ドレッサー7@The Stone(2017年)
マーク・ドレッサー7『Sedimental You』(2015-16年)
ニコール・ミッチェル『Mandorla Awakening II: Emerging Worlds』(2015年)
ニコール・ミッチェル『Awakening』、『Aquarius』(2011、12年)
ジョシュア・エイブラムス『Music For Life Itself & The Interrupters』(2010、13年)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/7/1)
「JazzTokyo」のNY特集(2017/5/1)

●ジョエル・レアンドル
イレーネ・シュヴァイツァーの映像(2006年)


呉充功『隠された爪跡』、関東大震災96周年/韓国・朝鮮人犠牲者追悼式

2019-09-08 09:19:01 | 韓国・朝鮮

1923年の関東大震災直後、多くの朝鮮人や中国人がデマに扇動された民間人によって虐殺された。かれらが殺された場所のひとつである荒川河川敷では、毎年追悼集会が開かれている。今回はじめて足を運んだ(2019/9/7)。

集会に先立って、呉充功『隠された爪跡』(1983年)の上映があった。

映画に出てくるアボジは、震災の直前に植民地朝鮮から仕事を求めて渡ってきており、虐殺事件を目の当たりにした。もとより朝鮮では、コメ不足の日本に送るための朝鮮米を増産させ、農民をさらに貧窮に追いやった。日本に来た多くの労働者たちにとって、自由渡航とはいえ、それは積極的な選択による自己責任を伴う自由などではなかった。東京のここ墨田区でも、亀戸や向島では工場労働者の需要があった(それが亀戸事件にもつながっている)。

映画で示される当時の状況は、悪い冗談のように現在に重なってくる。上からのデマ、植民地主義のために在日コリアンを「不逞」扱いしていた官吏、虐殺への直接的・間接的な関与、市民が率先してのヘイトと行動、後日の隠蔽工作。荒川河川敷では犠牲者の遺骨を掘り起こす作業がとらえられているが、実は、遺骨はその前に既に軍によって別の場所に遺棄されていたのだった。

エンドロールには地域別の犠牲者がリストアップされる。わたしの自宅の近くでも3人。時間も土地もすべてつながっている。

(ところで、荒川を撮った場面では、2回、板橋文夫「グッドバイ」が流された。これが収録された『渡良瀬』は映画製作前年の1982年である。)

映画の上映後、河川敷まで歩いて移動。件当時の四ツ木橋は既に撤去されている。追悼式の会場はそれがあった場所の少し下流にある木根川橋の下である。また旧四ツ木橋の少し上流には新四ツ木橋がある。平和運動の大木晴子さんとも久しぶりにお会いできて、いろいろお話をした。

ここで、李政美さんが歌い、竹田裕美子さん(アコーディオン)、矢野敏弘さん(ギター)、Swing MASAさん(アルトサックス)が伴奏した。ぢょんみさんの歌声は透き通るようで濡れた情がある。彼女の名曲「京成線」では、「低い鉄橋の/その下には/埋もれたままの/悲しみ眠る」と歌われている。

MASAさんの地を踏みしめるブルースも素晴らしい。MASAさんを東京で観る機会はさほど多くないが(あとで話すと、呼ばれればね、と)、もっと多くの人に体感して欲しい。

Fuji X-E2、XF60mmF2.4

●関東大震災
伊藤ルイ『海の歌う日』
藤原智子『ルイズその旅立ち』
『ルイズその絆は、』
亀戸事件と伊勢元酒場
加藤直樹『九月、東京の路上で』
藤田富士男・大和田茂『評伝 平澤計七』
南喜一『ガマの闘争』
田原洋『関東大震災と中国人』
植民地文化学会・フォーラム「内なる植民地(再び)」
山之口貘のドキュメンタリー(沖縄人の被害)
平井玄『彗星的思考』(南貴一)
道岸勝一『ある日』(朝鮮人虐殺の慰霊の写真)
『弁護士 布施辰治』(関東大震災朝鮮人虐殺に弁護士として抵抗)
野村進『コリアン世界の旅』(阪神大震災のときに関東大震災朝鮮人虐殺の恐怖が蘇った)

●李政美
板橋文夫+李政美@どぅたっち(2012年)
李政美『わたしはうたう』(1997年)

●Swing MASA
山谷夏祭り(ジンタらムータ、Swing MASA、中川五郎)(2017年)
Swing MASA 爆音JAZZ(JazzTokyo)
(2016年)