ギル・エヴァンス+リー・コニッツ『Heroes & Anti-Heroes』(Verve、1980年)。
Gil Evans (p)
Lee Konitz (as, ss)
ギルのピアノは何ともフシギである。押し過ぎず、ブルースやコードに安易に逃げることがない。もちろん単なる伴奏ではありえない。気が付くと、妙なフレーズを弾いていて、「ふっ」と、艶っぽい和音をみせる。これはたまらない。
そしてリー・コニッツ。このジャズ・サックスのパイオニアが、キレキレのかみそりのようであったのは、せいぜい60年代までのことだ。そして名盤として高く評価される録音もその頃までのものが多い。コニッツの音は、やがて息をふくみ持ち、ふわりとして幅広なものに変貌していく。わたしはそのコニッツも、かみそりコニッツと同様に好きだ。ここでも、すべての手練手管を手に入れた達人が、悠々と、淡々と、実に味わい深いソロを取る。このユルさは、映画でいえば、ジャン・ルノワールである。
ギル・エヴァンスとサックス奏者とのデュオといえば、スティーヴ・レイシーとの『Paris Blues』が有名であり、ストイックな者同士の交感といった趣きがあった。一方、この盤にも、掬っても掬いきれないほどの魅力がある。大きな音で聴くと、ふたりの息遣いや企図が迫ってくるようで、その魅力が倍増。
●参照
ギル・エヴァンスの映像『Hamburg October 26, 1986』
ギル・エヴァンス『Plays the Music of Jimi Hendrix』
ギル・エヴァンス+ローランド・カーク『Live in Dortmund 1976』
ビリー・ハーパーの新作『Blueprints of Jazz』、チャールズ・トリヴァーのビッグバンド(ギル・エヴァンス『Svengali』)
リー・コニッツ+ルディ・マハール『俳句』
今井和雄トリオ@なってるハウス、徹の部屋@ポレポレ坐(リー・コニッツ『無伴奏ライヴ・イン・ヨコハマ』)
ジャズ的写真集(2) 中平穂積『JAZZ GIANTS 1961-2002』