科学映像館が、『チビ丸の北支従軍 支那事変』という1分ほどのフィルムを配信している。(>> リンク)
玩具のような手回し映写機で観賞するためのものであったらしく、音声は入っていない。タイトル画面の直前には、このような玩具フィルムを大量に作っていたらしいライオンフィルム社の宣伝がある。
「ライオン活動寫真映寫機
どこでも評判のよい
堅牢無比の映寫機
綺麗で鮮明に寫るフヰルム
家庭の電燈から愉快で簡單に映寫出来ます」
支那事変とは盧溝橋事件に端を発した日中戦争のことであるから、このフィルムは1937年以降に製作されたということになる。そして冒頭に示される地図は満洲国の版図であり、日本軍は河北省秦皇島の山海関あたりに描かれている(山海関の東ゆえ関東軍と称した)。もちろん占領支配していた朝鮮半島も同じ色で塗りつぶされている。
肝心のアニメは、敵国の兵隊をさっくりと真っ二つに斬るなどひどい代物だ。当時こんなものが子ども向けのプロパガンダに使われていたのかと思うと、悲しい気持ちにとらわれてしまう。貴重な記録だと言うべきだろう。
一方で、砲弾に情けない顔が描かれており、シュールでもある。「チビ丸」という名前からも、戦時中に映画用のセル画を描いていた杉浦茂の手によるものかと思ったが、それは根拠のない憶測だ。作品も、杉浦茂が漫画映画に関わった終戦間際というよりも、もっと前に作られたに違いない(それも憶測)。『日本漫画映画の全貌』という本にも、ライオンフィルム社のことは触れられておらず、まったくわからない。
●科学映像館のおすすめ映像
○『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
○『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
○『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
○『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
○ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)
○『たたら吹き』、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(製鉄)
○熱帯林の映像(着生植物やマングローブなど)
○川本博康『東京のカワウ 不忍池のコロニー』(カワウ)
○『花ひらく日本万国博』(大阪万博)
○アカテガニの生態を描いた短編『カニの誕生』
○『かえるの話』(ヒキガエル、アカガエル、モリアオガエル)
○『アリの世界』と『地蜂』
○『潮だまりの生物』(岩礁の観察)
○『上海の雲の上へ』(上海環球金融中心のエレベーター)
○川本博康『今こそ自由を!金大中氏らを救おう』(金大中事件、光州事件)
○『与論島の十五夜祭』(南九州に伝わる祭のひとつ)
○『チャトハンとハイ』(ハカス共和国の喉歌と箏)
○『雪舟』
○『廣重』
○『小島駅』(徳島本線の駅、8ミリ)
○『黎明』、『福島の原子力』(福島原発)
○『原子力発電の夜明け』(東海第一原発)
○戦前の北海道関係映画
○山田典吾『死線を越えて 賀川豊彦物語』
なるほど、桃太郎という既存のコードに乗ったわけなのですね。確かに1930年代初頭にはセルアニメが試行されていましたし、日本のアニメ技術は進展を見せていたのだなと思います。