去年中国の杭州で買っておいたDVD、孫周『秋喜』(2009年)を観る。18人民元(200円ちょっと)だった。
ただし、杭州ではなくもっと南の広州が舞台となっている。水の町、尖った藁帽子はベトナムの川の民のようだ。
1949年10月1日、共産党が中華人民共和国の建国を宣言する。広州ではまだ国民党が支配し、青天白日の旗が掲揚されていた。権力者(孫淳:世界のナベアツに似ている)は迫りくる人民解放軍に怯え、猜疑心の権化と化す。彼は共産党のスパイを捕えては拷問して仲間を聴き出したり、ちょっとでも疑わしい者があればまとめて処刑する。もうひとりの主人公(郭暁冬)は共産党のスパイだが、国民党に忠誠を誓う部下の振りをし続ける。方や裏切り、方や疑いの視線を向ける奇妙なふたりの関係。
タイトルになっている秋喜(チュウシ)は、その共産党のスパイのもとで、彼の正体を知ってか知らずか、使用人として働いている。『南京!南京!』(>> リンク)で気の強い売春婦を演じていた江一燕である。秋喜の父は、自分の船に共産党員を乗せたというだけで処刑された。何かにすがりたいような、あやうい女性であり、この映画ではイノセンスの象徴であるように扱われている。
国民党が台湾に逃れなければならない日が来る。前日、権力者は射撃場で部下=スパイを騙して銃を撃たせる。的の向こうには、縛り付けられた秋喜がいた。そして当日、権力者は広州にとどまり、部下=スパイと対峙する。お前と俺とは表裏だと嘯きながら。イノセンスを暴力的に排除することで、それを言う権利ができたかのように。
昔のリアルな広州(勿論、見たことはない)が見ものであり、興味深い描写は少なくないが、傑作というわけでもない。何しろ「広州解放60周年」を記念した映画であり、国民党のひどい描写が目立ち過ぎている。その意味で、プロパガンダ映画であると言うこともできる。
それよりも、主人公の国民党と共産党の男ふたりを、微妙に情を通じ合わせる「表裏」として、その間にイノセンスを置いた寓意のようなものが気になった。中台関係について何か意を込めたのだろうか。