数年前に書籍名が気に入って購入した夘月妙子のマンガ『人間仮免中』(イースト・プレス、2012.5)を一気に読む。下書きのようなラフなタッチのマンガだが、ぐいぐい引きこまれていく。統合失調症の持病を抱えながら、自殺未遂・妄想・殺人願望などに耐え、日々の壮絶な日常を淡々と描いた自伝的力作だ。
舞台やAV女優をしながらも、病気と闘いながら25歳年上の彼氏「ボビー」と運命的に出会う。この60歳代のボビーの寛容力・愛情が作者も読者も救う。彼もそれなりの人生の奈落を経験したからこそ作者のサポートに徹していく。すぐに結婚するのかと思いきやなかなかゴールにはたどり着かない。
これは、エリートコースとは違った底辺の人間でも、日々を生きることの意味を実感していく作者の成長のドラマでもある。それは「生きることがネタ」だとするいのちの居直りだ。人間ギリギリの状態になってもそれを記憶し表現していく姿が、本書の半分を占める入院生活にも貫かれる。治療と精神薬に頼りながらも、たんたんとした日々のなかにあえてネタを見つけていくこだわりが読者を飽きさせない。
妄想に翻弄される過酷な病気と彼氏のサポートから、「人に護られる暮しをしていくありがたさ」とか「人の愛情のなんたるか」とかを獲得していく作者の葛藤の歩みは、ミーイズムに陥りがちな「自己中」からの脱皮の歴史でもある。「生きてるだけで最高だ!」の意味の奥行きを感じさせる赤裸々な作者の闘いに乾杯!!