原題:『大人ドロップ』
監督:飯塚健
脚本:飯塚健
撮影:相馬大輔
出演:池松壮亮/橋本愛/小林涼子/前野朋哉/渡辺大知/美波/香椎由宇
2013年/日本
「大人ドロップ」の味について
2013年7月から8月にかけて、主人公の高校3年生の浅井由は人間関係に悩んでいた。だから昼食になると一人教室から出ていき、おそらく「パシリ」としてパンを買いに行かされているハジメを別の教室で待って2人だけで一緒に弁当を食べている。
そんな、明らかに自分よりもイケていないハジメがクラスメートの入江杏を好きになったと言い、デートをセッティングしたのであるが、イヤホンによる「作戦」は杏にとってはふざけているようにしか見えず、仲直りする機会が無いまま杏は和歌山県の方へ引っ越してしまう。
幻影の中で浅井由が杏とハルとハジメに「大人になれ」と言われる理由は、杏に対する想いが自分の本心からのものなのか、あるいはハジメに対する対抗心からなのか分かっていなかったからであろうが、その対抗心は父親が母親と離婚し、愛人と結婚したものの、父親が癌を患っているという杏の境遇による同情心へと変わり、浅井由はますます自分の本心が掴めなくなる。
その解決方法は「別れる」というものだった。身の丈に合ったものを選ぶというよりも、抱えきれないものを抱えてはいけないということが大人になる嗜みであるのならば、「大人ドロップ」は子供には美味しいものとは言えないであろうが、もちろん私たちはいつまでも子供でいられるわけではないのだから、それはそれでいいのだけれど、ラストで大人になった浅井由と杏が再会した際に、杏から「ハルと結婚したの?」と訊かれた浅井が「まさか」というあいまいな答えをした理由は、自分はまだ杏と一緒に食べた「子供」の肝油ドロップの味を忘れてはいないという暗黙のメッセージを伝えたかったように聞こえるのである。