原題:『まる』
監督:荻上直子
脚本:荻上直子
撮影:山本英夫
出演:堂本剛/綾野剛/吉岡里帆/森崎ウィン/戸塚純貴/おいでやす小田/濱田マリ/柄本明/早乙女太一/片桐はいり/吉田鋼太郎/小林聡美
2024年/日本
扱う画の作風に呼応する映画の作風について
今年観た『ブルーピリオド』(萩原健太郎監督 2024年)は突然美術に目覚めた高校生が東京藝術大学を受験して入学するまでが描かれる青春映画だったが、本作の主人公の沢田は40歳過ぎても目が出ず、名を馳せた現代美術家のアシスタントで糊口を凌いでいる。
興味深い点を挙げるならば、『ブルーピリオド』が具象画を扱っているのに対して、本作は抽象画を扱っており、それぞれの作風に呼応するかのように『ブルーピリオド』がストレートな青春映画であるのに対して、本作の主人公の沢田の人生はこじれにこじれている。
しかしこれは荻上監督の作風のせいでもあるのだろうが、美術に対する沢田の熱い思いが感じられないし、むしろ沢田のことを心配している矢島の方がよっぽど熱量がある。どんな形であっても自分の作品を評価してくれる人がいるのならば、年齢からしても意地でも食らいつくくらいでなければ成功はしないはずで、ラストで自分が描いた作品に〇を加えることで評価してくれるのであるならば、その意見を受け入れなければならないはずなのだが、素手で作品の真ん中に穴を開けて去ってしまうという沢田の行動は素直に肯えない。いや、別にそれでもいいのだが、それでは沢田は結局何をしたいのか観ている方は分からなくなるのである。最後にメイキングが流れる映画を初めて見たのだが、これは監督の自信の無さではないのか?
沢田の作品の展示会場に殴り込んだ矢島のTシャツに「RICH」と書かれていたのは皮肉として面白かった。