MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

西野七瀬ファースト写真集『普段着』について

2020-06-20 00:56:12 | 美術

 いまだに写真集をどのような観点から評価するべきなのかが分からない。
 例えば、乃木坂46というアイドルグループのメンバーだった西野七瀬が2015年2月に出版したファースト写真集『普段着』の、アイドルの写真集として評判が良くない理由は、モノクロ写真が多用されたり、不必要と思われる余白をわざわざ入れたり、見開きで顔のアップの写真を載せているために折り目で顔が割れてしまっていたりするからである。
 しかし撮影を担った藤代冥砂はベテランのカメラマンで、アイドルの写真集の撮り方を知らないわけではない。

 例えば、白石美帆が2002年3月に出版した『白石美帆写真集 dear HONEY!!』はグラビアの写真集として見本のような出来で、藤代冥砂が携わっている。

 ところが藤代冥砂の全ての写真集をチェックしているわけではないのだが2003年5月に出版されたMEGUMIの『Pétunia』から急に作風が変わり、『普段着』と同じような写真構成で、2004年8月に出版された白石美帆の『Transit』も同様な作風である(それにしても白石に右腕を上げさせてMEGUMIに左腕を上げさせているところは藤代の意図を感じる)。

 それでは『普段着』が写真集として出来が良くないのかというとそうでもないと思える理由は、例えば、西野七瀬が漫画喫茶の個室で寝そべっているカットが写真集の最初と最後にあり、ちょうど写真集の真ん中でアパートの一室で同じポーズで西野が寝そべっており、前半が関西で、後半が関東で撮られた写真が掲載されていたり、あるいは同じカットが並べられても、片方の写真では西野が目をつぶっていたりする。
 つまり何度も見返して新しい発見がある写真集が良いものだと判断するのならば、写真家の「企み」が秘められた『普段着』は良い写真集だと思うのである。

 西野七瀬は1年半後の2016年9月にセカンド写真集『風を着替えて』を出版している。

 『普段着』と違い典型的なアイドル写真集で、ファンが期待していたものだったようで売り上げも良かったようなのだが、同時にカメラマンの「クリエイティビティ」とは何なのか考えさせられてしまうのである。

乃木坂46 西野七瀬ファースト写真集『普段着』メイキングムービー


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ある「ゾンビ映画」の思い出について

2020-06-19 23:45:55 | Weblog


(2020年6月11日付毎日新聞朝刊)

 お笑いコンビ「アンジャッシュ」の渡部建の複数女性との不倫問題の話を聞いた時、あるゾンビ映画を思い出した。驚かせるつもりで夫に内緒で妻が帰宅すると、リビングにいた夫はゾンビと化していて、女性を食い散らかしていた夫の周囲には多くの女性の遺体が転がっているというシーンである。佐々木希がどうするのかは分からないが、映画では妻は離婚せずに夫の治療に付き添うという結末だったと思うが、残念ながらこのゾンビ映画のタイトルが思い出せないのである。
 ところで渡部建は多目的トイレで短時間で終わらせて、相手女性に1万円を払って帰らせていたらしい。渡部建ぐらい稼いでいる人が1万円しか払わないというのはケチではないかという意見があるが、仮に5分で終わらせていたのであるならば、時給12万円だからアルバイトとしては良い方なのか?
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/dailysports/entertainment/20200612084


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『デッド・ドント・ダイ』

2020-06-18 23:37:51 | goo映画レビュー

原題:『The Dead Don't Die』
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレデリック・エルムズ
出演:ビル・マーレイ/アダム・ランバート/ティルダ・スウィントン/クロエ・セヴィニー
2019年/アメリカ

「物質主義」から逃れられる可能性について

 ゾンビを扱ったコメディ映画のようなテイストだと思ってみていたら、ただのゾンビ映画ではなかった。結局、助かった人物を思い出してみるならば、主人公で警察官のクリフ・ロバートソンの幼馴染みで森の中に住んでいるホームレスのボブと青少年拘留所に拘束されているジェロニモとオリヴィアとステラの孤児たちと仏教を介して武士道を極めた挙句に宇宙人に連れ去られていったゼルダ・ウィンストンで、要するに居場所を持たない者たちが、「物質主義の遺物」であるゾンビの攻撃対象から免れられるのである(イギー・ポップがライブに出演するくらいのメイクでゾンビを演じられるところが笑える)。
 もう一つ気になるシーンはゾンビたちに囲まれたクリフと部下のロナルド・ピーターソンの会話で、ロナルドを演じたアダム・ドライバーが急に素になってジャームッシュが書いた台本通りに話していると言いだし、それを聞いたクリフを演じているビル・マーレイも素に戻って監督とは長い付き合いだが、自分はセリフを教えて貰っていないと文句を言いだすのである。敢えてフィクションを逸脱するこの演出は、作品のキャラクターのみならず、それを演じている役者でさえ死を逃れることはできないが、それを示す光の芸術である映画こそがゾンビという「物質」ではなく「幽霊」として機能するという暗喩のように映った。
 以上のことを踏まえてスタージル・シンプソンの「ザ・デッド・ドント・ダイ」の和訳を読んでみると意味がより分かると思う。

「The Dead Don't Die」 Sturgill Simpson 日本語訳

君や僕以上に死体が死ぬようなことはない
死体とは僕たちが所有しない人生の夢の中の
幽霊にすぎないのだから
いつだって彼らは僕たちの周囲を歩き回っているけれど
彼らは僕たちが歩んでいる愚かな人生や
僕たちが全員で蒔いて得た収穫物など
全く気にしていない
全ての街角に一杯のコーヒーが用意されているけれど
いつの日か僕たちが目覚める時
街角が無くなっていることに気が付くんだ

でも人生が終わり来世が始まっても
このいつもの世界で一人でも
まだ死体は歩き回っているだろう

多少馴染みのある街で
歩き回っている旧友たちがいる
君が電話で調べて一度訪れた街だ
誰も声をかけてこないから
君はさよならという言葉を貯蓄できるよ
僕たちは留守だという振りをするのは止めておこう
朝の通りは全く人気が無いように見えるし
街灯が照らされていて
夜に外に出ている人も見かけないだろうから

でも人生が終わり来世が始まっても
このいつもの世界で一人でも
まだ死体は歩き回っているだろう

二度と戻って来ないつもりで
恋人たちが旅に出る時
悲しみに見舞われるから
僕たちは彼らはみんないつでも
ずっと僕たちの周りにいるのだと自分たちに言い聞かせよう
逝ったとしても忘れることはない
想い出は残されているのだから

でも人生が終わり来世が始まっても
このいつもの世界で一人でも
まだ死体は歩き回っているだろう
人生が終わり来世が始まったとしても

Sturgill Simpson - The Dead Don't Die (Official Video)


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『ペット・セメタリー』(2019年)

2020-06-17 00:53:39 | goo映画レビュー

原題:『Pet Sematary』
監督:ケビン・コルシェ/デニス・ウィドマイヤー
脚本:ジェフ・ブーラー
撮影:ローリー・ローズ
出演:ジェイソン・クラーク/エイミー・サイメッツ/ジョン・リスゴー/ジェテ・ローレンス
2019年/アメリカ

共感できない「生物」について

 ホラー映画としてはよく出来ていると思うのだが、どうも登場人物に「感情移入」しにくい難がある。それはそもそも「墓地」という意味のタイトルが「Sematary(セマタリー)」で「Cemetery(セメタリ―)」と正確に綴られないところから来ているのかもしれない。
 例えば、グリード一家が飼っている猫のチャーチが亡くなって「ペット・セマタリー」に埋葬された後に生き返って戻ってくるのだが、元々性格が良かったチャーチが邪悪になってしまうことが、そういう設定だと言われてしまうと仕方がないのだが、グリード一家に非は無いのだから理解しにくい。
 同様に、主人公で医者のルイス・グリードが交通事故で運ばれてきた学生のヴィクター・パスコウの治療に携わるのだが、結果的に命は救えなかったが、ヴィクターがルイスに憑りつく理由もよく分からない。
 さらにラストで「生まれ変わった」3人が車の中にいるゲージ・クリードに近づいてくるのだが、ゲージはまだ幼児であるために観客は何も考えていない幼児の感情を捉えなければならないという困難にぶつかってしまうのである。
 エンドロールに流れる「ペット・セメタリ―」は元々ラモーンズが1989年版『ペット・セメタリ―』に提供した楽曲だが、スタークローラーがカヴァーしているヴァージョンは悪くない。以下、和訳。

「Pet Sematary」 Starcrawler 日本語訳

空で風雨により変色した弧を描く板の下
古代の悪鬼と暴君が
音をさせずに地面から這い出てくる
死の匂いが辺りに立ち込め
夜になると寒風が吹きつけるが
誰も気づかないし誰も気にしない

私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない
私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない

ヴィクターの後を追って神聖な場所に行こう
これは現実で私は逃げることはできない
臼歯や犬歯がカタカタ鳴っている
墓石の間で亡霊たちが嘆いている
月が明るい夜に
誰かが泣いている
何かが間違っているに違いない

私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない
私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない

満月の夜
辺りは静まり返っている
突然私は悪寒に襲われる
ヴィクターはニヤニヤ笑うと肉体が腐り果て
骸骨たちが踊り出し
私はこの日を呪う
狼たちが遠吠えする夜
聞き耳を立てれば
あなたは私の叫びを聞くことができる

私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない
私はペット・セメタリ―で葬られたくない
私は二度と人生を生きたくない

私は二度と人生を生きたくない
私は二度と人生を生きたくない
私は二度と人生を生きたくない

Starcrawler - Pet Sematary

Ramones - Pet Sematary (Official Music Video)


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『ジョジョ・ラビット』

2020-06-16 00:52:42 | goo映画レビュー

原題:『Jojo Rabbit』
監督:タイカ・ワイティティ
脚本:タイカ・ワイティティ
撮影:ミハイ・マライメア・Jr.
出演:ローマン・グリフィン・デイヴィス/トーマシン・マッケンジー/スカーレット・ヨハンソン
2019年/アメリカ

「現実味」が薄くなる要因について

 前半こそ主人公で10歳のヨハネス・"ジョジョ"・ベッツラーと彼の空想上の友人であるアドルフ・ヒトラーの掛け合いを興味深く観ていたのだが、ユダヤ人の少女のエルサ・コールの出現から少しずつ話がおかしくなっていっていると思う。
 例えば、エルサが隠れているジョジョの家に突然、ゲシュタポのディエルツ大尉たちが訪れ、家宅捜査され、直後に現れたヒトラーユーゲントのジョジョの教官であるクレンツェンドルフ大尉の計らいでバレずに済んだのだが、ジョジョの母親であるロージーはエルサを匿った罪で絞首刑に処せられてしまう。
 ドイツ軍が敗退し、ロシア軍が占拠を始めてもジョジョたちは教師のフロイライン・ラームに戦いを強いられ、一時はロシア軍に拘束されたジョジョは何故か再びクレンツェンドルフ大尉が機転を利かせてユダヤ人扱いされたためにすぐに追い出されて助かり、直後にクレンツェンドルフ大尉は銃殺されるのだが、ジョジョがドイツ人かユダヤ人かの判断がいい加減すぎると思う。
 エルサは自分にはネイサンというフィアンセがいるとジョジョに言っていたのだが、これはエルサの嘘で、ジョジョはジョジョでエルサにドイツは戦争に勝利したという嘘をつくのであるが、何故すぐにバレる嘘をつくのか理解に苦しむ。
 つまりジョジョが見る幻影であるヒトラーと同じくらいに現実に「現実味」が感じられないのである。そもそも冒頭はザ・ビートルズの「抱きしめたい」の、ラストはデヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」のドイツ語ヴァージョンが流れるのだが、セリフがドイツ語ではなく英語なのに、何故曲だけはドイツ語ヴァージョンを使用しているのか。それが本作の「現実味」の薄さではないだろうか。


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『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』

2020-06-15 00:33:20 | goo映画レビュー

原題:『The Peanut Butter Falcon』
監督:タイラー・ニルソン/マイケル・シュワルツ
脚本:タイラー・ニルソン/マイケル・シュワルツ
撮影:ナイジェル・ブルック
出演:シャイラ・ラブーフ/ダコタ・ジョンソン/ジョン・ホークス/ザック・ゴッサーゲン
2019年/アメリカ

クライマックスがファンタジーになってしまう原因について

 暮している養護施設で主人公のザックがプロレスラーのソルト・ウォーター・レッドネックを知るのは昔のVHSヴィデオであるがためにレスラー本人は当の昔に引退しているというストーリー展開がインド映画の『燃えよスーリヤ!!』(ヴァーサン・バーラー監督 2019年)に似ているところは興味深い。
 しかし本作の残念な点は、それまでリアリズムに徹していたのに、肝心のクライマックスの場面でファンタジーになってしまったところで、『カッコーの巣の上で』(ミロス・フォアマン監督 1975年)と『真夜中のカーボーイ』(ジョン・シュレシンジャ―監督 1969年)を上手くミックスしていると思っていたのだが、最後にしらけてしまった。ファンタジーでも挟まなければ主人公たちは挫折するしか選択肢がないのかもしれないのだが。


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『囚われた国家』

2020-06-14 00:40:11 | goo映画レビュー

原題:『Captive State』
監督:ルパート・ワイアット
脚本:ルパート・ワイアット/エリカ・ビーネイ
撮影:アレックス・ディセンホフ
出演:ジョン・グッドマン/ヴェラ・ファ―ミガ/アシュトン・サンダース/アラン・ラック
2019年/アメリカ

近未来のレトロな道具の意味について

 事件の発端は2019年のアメリカイリノイ州シカゴで、ドラモンド刑事が家族と共に車で地球を占領するエイリアンから逃走を計るもののエイリアンに見つかり妻と共に殺されるが、後部座席に座っていたガブリエルとレイフは逃げ切り、9年後の2027年7月に弟で21歳になったレイフを中心としたレジスタンス運動が始動することになり、彼らの父親の元同僚で62歳の警視長のウィリアム・マリガンが中心となったシカゴ警察が彼らの陰謀の壊滅に尽力することになる。
 ところが不思議なことにレジスタンス運動は緑色に発光するコンピューターの文字、新聞に掲載される広告、伝書鳩、公衆電話、ブラウン管のテレビ、レコードプレーヤー、オープンリールのテープレコーダーなど2027年にしてはレトロな物で満ち溢れており、これは製作費の問題というよりも『ブレードランナー』(リドリー・スコット監督 1982年)で描かれる2019年のロサンゼルスのような猥雑さを表現したかったのではないだろうか。いつまで経っても人はクリーンな世界よりも猥雑な社会により深い悲しみを見出してしまうからである。
 ビーコンの「ベター・オア・ワース」を和訳しておきたい。

「Better or Worse」 Beacon 日本語訳

この手の嘘は絶対に機能しない
僕たちは功罪のいずれにしてもサインを見た

時間はたくさんあったのに決して学ぼうとしなかった
僕はいかなる運命になろうと線を引いたんだ

君が呪いを打ち壊そうとしたことを僕は知っている
僕たちは好むと好まざるとに関わらず複雑に絡み合っている

功罪はいずれにしても
いかなる運命になろうとも

もしも僕たちが静かに立ちすくんだままならば
そのことに関して道は開けない
君がそれをどこで見つけるのかは分からないが
君なら見つけられると思う

もしも僕たちが静かに立ちすくんだままならば
そのことに関して道は開けない
もしも僕たちが静かに立ちすくんだままならば

Beacon - Better or Worse


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「シンス」の威力について

2020-06-13 00:28:36 | Weblog


(2020年6月11日付毎日新聞朝刊)

 京都土産として有名な「八ツ橋」を巡って老舗「井筒八ッ橋本舗」が「創業元禄2(1689)年」を謳って営業している老舗「聖護院八ッ橋総本店」を文献に無いことから「元禄年間に八ッ橋は存在していなかった」として不正競争防止法に違反しているなどとして訴えたのだが敗訴してしまった。
 久留島群一裁判長は「歴史の古さが消費者の行動を左右する事情とはいえない」とし、さらに創業年の根拠として、近世箏曲の開祖である八橋検校(やつはしけんぎょう)を由来とする聖護院の説は「全てにわたり誤りであるという確実な証拠はない」と指摘した上で、消費者にとっては「江戸時代に創業したとの認識をもたらす程度」とし、表示が商品選択を左右するとまではいえないと結論付けたのであるが、「井筒八ッ橋本舗」は文化2(1805)年創業としており、この100年以上の違いは消費者の行動を左右する大きな事情になると思う。
 例えば、外国人観光客が荷物がいっぱいの中、お土産として自国に持って帰ろうと八ツ橋ひと箱を購入する場合、最初に選ばれる方は他の老舗よりも100年以上長く営業を続けることができた味ではないだろうか。創業に関しては包装紙にはそれぞれ「since 1689」「since 1805」と英語で書かれていることを見逃すべきではないと思う。
 組合に加盟するある業者が「今はみんなが大変なとき。一致団結して八ツ橋全体を盛り上げていくべきではないか。それぞれが歴史ある老舗なので、互いにいい商品を作って切磋琢磨する方が建設的だと思う」と述べているようだが、これ以上八ツ橋を改良する余地がないから裁判沙汰になっているのである。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/jiji/nation/jiji-200610X241


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『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』

2020-06-12 00:58:48 | goo映画レビュー

原題:『三島由紀夫VS東大全共闘 50年目の真実』
監督:豊島圭介
撮影:月永雄太
出演:三島由紀夫/芥正彦/木村修/平野啓一郎/内田樹/小熊英二/瀬戸内寂聴
2020年/日本

女性が一人しか出てこないドキュメンタリー映画について

 個人的には三島由紀夫の動いている姿は1970年11月25日に陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地に突入して決起を呼びかけるも失敗し、割腹した事件の時のニュース映像で見ただけで、何故マイクのようなものを用意しなかったのかと疑問が湧き、そういうことに疎いまま準備もせずに蜂起したのかと思っていたのであるが、本作を観て三島が自分のマイクのみならず相手の学生に対しても気をつかってマイクを回していることに驚かされる。
 そもそもメディアへの露出も多く、映画の主演もしているくらいだからマイクの重要性など知り尽しているはずで、そうなると市ヶ谷での演説の仕方が謎なのである。
 冒頭で三島は挨拶代わりにフランスの小説家のフランソワ・モーリヤックの『テレーズ・デスケルウ』を引用し、途中でも嫌いといいながらジャン=ポール・サルトルの『存在と無 - 現象学的存在論の試み - 』を引用し、博識を披露しながらユーモアも忘れないスマートさで、さらに言葉足らずの東大生の発言を自ら補いながら自分の意見を述べるという紳士振りで、それは抽象観念を振り回すだけの芥正彦に対しても同様で、「解放区」を巡る三島と芥の解釈は「持続」を徹底的に無視する芥に対して、あくまでも「生活」を重視する三島とは全く折り合うことがないのだが、これこそノーベル文学賞受賞候補者だった稀代のスーパースターという貫禄で、当時同期の小説家として名を馳せていた石原慎太郎だったら相手を攻めることは強くても攻められることに弱かったからそもそもこのようなオファーを受けることはなかったであろう。今ならば誰に当たるだろうか考えてみるのだが、だいぶ離されているものの辛うじて北野武といったところだろうか。
 そのような三島ならば陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地においてもこのような「ワンマンショー」を演じられたはずで、芥正彦は三島の割腹自殺に関して「本懐を遂げたのでしょう」と他人事のように語っているが、小説家が片手間で行なった「パフォーマンス」を劇作家でアートパフォーマーでもあるらしい芥正彦が一度でも三島を越えるパフォーマンスを演じたことがあるのだろうか。本作を観ることでますます「三島事件」は謎めいてくるのであるが、天皇陛下がキーワードになることは間違いないと思う。


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『弥生、三月 -君を愛した30年-』

2020-06-11 00:33:10 | goo映画レビュー

原題:『弥生、三月 -君を愛した30年-』
監督:遊川和彦
脚本:遊川和彦
撮影:左光朗
出演:波留/成田凌/杉咲花/岡田健史/小澤征悦/黒木瞳/岡本玲/奥貫薫/橋爪淳
2020年/日本

フィクションでさえ逃れられない「コロナ禍」について

 1970年3月31日に同じ病院で生まれた主人公の山田太郎と結城弥生の、1986年3月から2020年3月までの交流が描かれている。例えば、『Fukushima 50』(若松節朗監督 2020年)は事実に基づいた物語である以上、大いに現実が反映されていることは理解できるが、フィクションである本作も決して現実から逃れることはできない。例えば、サンタ(=太郎)の息子のあゆむが教師として勤めている学校でトラブルに巻き込まれ、福島から転校してきた生徒をいじめた生徒を叱責したことに対して逆に謝罪させられる羽目になっているのであるが、それは2020年3月29日の話で、現実においては福島よりも「コロナ差別」が問題になっているからである。
 主演の波留と成田凌は16歳から50歳までを演じている。成田はとても50歳には見えないが、波留はなんとなくやつれた感じは出ているものの、「50歳」があれほど乗り遅れたバスを走って追いかけられるとは考えにくいとしても、そもそも本作はほぼファンタジーというような作風で、だた波留の熱演だけを堪能できればそれで満足できる作品ではある。


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