Hさんは某ビルのスナックに私を案内した。ママはHさんの顔を見るなり「久しぶりやね」と声を掛けた。水割りを飲みながら交互にカラオケを歌った。非常にマニアックな選曲だが、昔の歌には強い生命力があるし、歌詞の重みが違う。
歌の合間に遊里が賑わっていた頃の話を伺うことができた。
「私この仕事をする前は近くの●●に勤めてたんよ。で、そこから夜の袋町がごった返してるんがよう見えた。それが朝になると嘘のように静かになって…だからおかしな町やと思うてたわ(笑)」
「不夜城ってやつですね」
「そうよ。それが今や、この有様。今日は閑散としてたやろ。まあ平日はもっとマシよ」
「確かに袋小路を行き交う客をあまり見なかったです。やっぱり家で飲む人が多くなったんでしょうか?」
「不景気やからね。でも一番の原因は飲酒運転の罰則が厳しくなったからと違うやろか」
「どの飲み屋でも同じ意見を聞きますな。昔は少々の飲酒運転はやったもんだが、今は絶対無理ですからね」
「飲酒で捕まったら一生の終わりや(笑)」
気さくなママの話は非常に面白かった。長居をしても良かったのだが、年配の常連客が入って来たのでHさんは「次行こう」と言って席を立った。