都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖
都月満夫の短編小説集
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」>
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」
河内の国 、交野郡寝屋というところに備中守藤原実高という大変裕福な「寝屋の長者」と呼ばれている人が住んでいました。
長者の屋敷は、東西十二町、南北四町、田畑は一千二百余町もありそれは立派なものでした。
備中守実高の奥方は、摂津の国鳴海の里の芦屋長太夫の娘で照見といって十六才で長者のもとに嫁いできました。
ふたりの夫婦仲は大変良く幸せな毎日を送っていましたが、どうしたわけか子どもに恵まれませんでした。
大和の国初瀬寺(長谷寺)の観音さまに、お参りを続けていたある夜、枕元に観音さまがあらわれ女の子を授けるが、鉢を被せるよう告げられたところで目を覚ましますと、目の前にはお告げどおり鉢がありました。
それからしばらくして、奥方照見の方はお告げのとおり女の子を授かり名前を「初瀬」と名付けて大切に育てていました。
ところが初瀬姫が十四才になったとき、照見の方が病で臥せる日々が続きます。初瀬寺の観音さまにお参りを続け母の病が直りますよう、懸命にお祈りをしますが、なかなか良くなりません。
やがて母照見の方が死を迎える前に初瀬姫を枕元に呼び寄せ、観音さまのお告げのとおり鉢を被せ、そして静かに息を引き取ります。
備中守実高も初瀬姫も寂しい日々を過ごしますが、父実高は後添いを迎えることになりました。
名前は浅路といい、器量はいいのですが心根の大変悪い女で実高との間に娘が生まれると、次第に初瀬姫をいじめるようになり、遂には初瀬姫を屋敷から追い出してしまいます。
屋敷を追い出された初瀬姫は行くあてもなく歩き続けていると大きな川の堤に出ました。
亡き母のもとに行こうと川に身を投げますが、なぜか鉢を被った首から上は沈みません。
川に流されていると通りがかりの船に引き上げられますが鉢を被った異様な姿に驚き、川岸に投げ出されてしまいます。
気を取り直し再び、足の向くまま歩いていると、道を通る人々は鉢かづきの姿に驚き、逃げて行きます。
そんな時、山陰三位中将に助けられ、湯殿番として働くことになりました。
幼いころより下働きなどしたことはなかった鉢かづき姫ですが、一生懸命に湯殿番として働いていました。
そんなある日、いつものように湯殿番をしていると、山陰三位中将の四番目の息子(宰相)から声をかけられ色々な話をするようになりました。まだ独身の宰相は心優しい人で鉢かづき姫とは次第にお互い心ひかれていきました。
やがて二人は夫婦の約束をしますが、鉢を被った見た目にもみすぼらしい姿の鉢かづき姫に兄や兄嫁たちが反対します。
どうしても一緒になれないのなら、二人で屋敷を出る覚悟をしていましたが、そこに兄や兄嫁たちから、嫁くらべをして勝てば二人の結婚を認めようという話が出されます。
宰相は引き下がるわけにもいかず、その場は了承してしまいます。
嫁くらべの日までもういく日もありませんので今から琴や歌などの教養を教えることもできません。
二人は覚悟をきめて、こっそりこの屋敷を出ようと手に手をとったその時、今までどうしてもとれなかった姫の鉢が頭からぽろりと落ちました。
するとどうでしょう、その鉢からはそれは、それは驚くばかりのたくさんの金や着物などの宝物が山のように出てきました。
鉢のとれた姫はというとどこに出しても恥ずかしくない美しさと優しさを兼ね備えたたとえようのない顔立ちです。
二人は早速身支度を整え嫁くらべの場にのぞみました。その姿を見たまわりの者の驚きは、姫の姿かたちだけではありません。
琴をひいても、歌を詠んでも、文字を書いても、誰ひとりかなう者はいませんでした。
鉢かづき姫は宰相と結婚し、夜毎二人の幸せに溢れる声が帳の奥から、漏れ聞こえたのです。やがて3人の子どもに恵まれ、長谷観音に感謝しながら幸せな生活を送りました。
あるとき、鉢かづき姫が長谷寺の観音さまにお参りをしたときのことです。 本堂の片すみで、みすぼらしい姿のお坊さんに会いました。 そのお坊さんの顔を見て、鉢かづき姫はびっくり。
「まあ、お父さまではありませんか」
「姫、姫か!」
二人は抱きあって、数年ぶりの再会を喜びました。すっかり落ちぶれて、あたらしい奥さんにも見捨てられたお父さんは、鉢かづき姫を追い出した事を後悔して、旅をしながら鉢かづき姫を探していたのです。
「すまなかった。本当にすまなかった」
泣いてあやまるお父さんに、鉢かづき姫はにっこりほほえみました。
「いいえ。いろいろありましたが、今はとても幸せなのですよ」
それからお父さんは鉢かづき姫のところにひきとられ、しあわせに暮らしました。
したっけ。