年寄りの漬物歴史散歩

 東京つけもの史 政治経済に翻弄される
漬物という食品につながるエピソ-ド

福神漬物語 19

2009年11月14日 | 福神漬

明治42年11月11日大阪朝日新聞
○薩可林(サッカリン)問題
▲有害ならず 東京帝国医科大学 林医学博士談
いま仮に『サッカリンは有害であるか?』との問題を出されると『有害である』と答えることは出来ない。但しこれは程度問題にして平素から多量に飲用すれば人身すなわち胃腸を害し腎臓を害するは事実なり。されど未だにこれがため中毒した者または他の病気を引き起こした者等実際に聞いたことはない。ドイツにおける甘味素取締規則(ジュース・スットプ)はサッカリン並びにドユルチンその他腹中に入り変性せず原型のまま排泄されるものにして栄養無き物はすべてその飲用を禁止しているけれど、有害なるがゆえにこれを禁止すると言う条文はない。これはいわゆる使用程度の如何に関するがゆえわが国の社会衛生上多少とも消化機能を害しかつ栄養分なきものとしてこれを飲食物の使用に禁じたるはけだし当然の処置であるけれど醤油のごときものに混入される時はたとえば一斗樽の醤油を家族5人にて3~4ヶ月間に使用するにつき体内に入って栄養とならないが害を及ぼすようなことはないことは明らかである。
▲ 有害無害の断定
サッカリンの有害無害については前後3日にわたり専門家の説を糺して記載した通りであるが何れの諸説も大同小異にしてサッカリンは決して有害物となるものでないがその容量が多ければ消化機能に多少の害を与えるという。学者の頭が国法という観念を離れて露骨に薬物その物のみの解釈を与えることに躊躇するむきがあるのは遺憾であるけれどこれはやむなき事情もあるべし。要するに政府が産業保護と一般衛生取締の必要上法を以ってこれが使用を禁止しているものを密かに使用するごときは罪悪なれど酒・醤油・菓子のごとき物に甘味を助けるために使用するとしても直ちに害を与えるものではないことは明らかである。

明治42年11月13日大阪朝日新聞
○ 日本醤油の処分如何
薩可林(サッカリン)のかどを以って封印差押えられた日本醤油の処分に関し警察部において二説あり、ひとつはサッカリン含有が希薄であるならば有害でなく故に現在混入している醤油に対して新たに他の醤油を混入しサッカリンが科学的に反応を起こさない程度に希薄すれば衛生上何の危害がないようにすれば廃棄処分を命ずるに及ばずといえる。もう一つは例え希薄にしても衛生上無害といえどもサッカリンの混入していることが明白なるものは法律命令に照らし純然たる不正品であるので程度の如何によらず廃棄させるものである。いわんや人工甘味質取締規則には量の多少に関係なく絶対に使用を禁止している物である。両説もそれぞれ理由があるために未だ不正醤油の処分を断行すること出来ず。従って日本醤油会社は新規販売を差し止められこのままむなしく日々を経過している。醤油醸造を中止している有様なのでこれはひとり衛生警察上の問題にとどまらず約2万石の醤油を廃棄し、かつ今後日本醤油醸造会社をほろぼすことは経済上及び国家の収入にも多少の影響あることなので大阪税務監督局にては二~三日前局員を派遣して実地調査して実際警察部の試験に相違がないのを確かめたものでその処分に関して別に一説あって、すなわち化学反応が出ないほどに希釈すれば分析技術上サッカリンの存在を証明することが出来ず当然自由に販売して差し支えはなくかつ化学反応なきまで希薄することによって衛生上有害物となり、しかも経済上価値ある醤油を無意味に廃棄することは国家経済上の損失を招くことになるという議論となった、これはかってホルマリン混入の酒について警察部と協議して同様の処分をした前例があったと言える。
明治42年11月14日大阪朝日新聞
○飲食物の危険
所長会議のため来阪の内務省衛生試験所技師田原薬学博士を13日大阪衛生試験所に訪ねて飲食物に関する談話を聞いた。
▲飲食物と公徳
最近、醤油中にサッカリンを発見したところから、サッカリンの有害無害について種々な説もあるようだがそんなことは詮議だてをする必要はない。人間の生命をつなぐ飲食物は純良なるが上に純良なるものを選ぶようにせねばならぬ。全体が染め粉で色を付けてサッカリンで甘味を付けたようなものは例え無害であっても栄養上何の効果もないから、贋造物(にせもの)というのが至当であって現にロシアなどでは国内でサッカリンの製造を禁止している。日本の政府が禁止したのは単に公衆衛生上から見て当を得た話で禁を破っても使用する者が多い今日で公然と許すとなればすべての物に乱用して始末に終えぬ。ようは商人の公徳如何によるが競争が激しくなればなるほど贋造物が出やすいからやはり厳重に取締る外はない。
▲飲食物科学者
欧州には飲食物科学者というものがある。その者は薬剤師と同じように綿密な試験を受けて飲食物巡視員に採用され絶えず巡視しているから滅多に怪しいものは販売されない。また、衛生試験所も至る所にあって個人が使用せんとする飲食物の試験を願って出るものや商人の販売品を試験しこれに証明を与える。されば商人は自家商品の価値を保つために進んで試験所の監督を受けるようにしている。スキさえあれば不正手段を用いようとする日本商人はとても差が大きくて同じ扱いはできない。

内務省衛生試験所技師田原薬学博士はこの事件の前の年「味の素」の無害の証明書を発行している。味の素の創始者鈴木三郎助の食に関する販売政策は今でも先進性がある。すでに当時サッカリンの取締りが盛んに行なわれており、政府の税収確保のために取締っていたのは明白であったため、予め無害の証明を取る必要があった。

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