上り始めはあんなに真っ白だった周囲も、陽射しが出てすっかり暖かくなった。
2枚着ていた長袖の上着も、1枚は脱いだ。
それでも、続く上り、陽射しなどで、結構きつくなっていた。
出発前から車酔いもあって、妻にはめまい症の症状が少し出てしまったようだった。
とりあえず、岩に腰を下ろして少し休憩し、水を飲んだ。
じっと動かず回復を待ってみるなどした。
幸い10分ほどしたら少し回復したので、また歩き出した。
でも、また気分が悪くなって少し休む。
こんなことを、3,4回繰り返した。
妻のリュックを、私の体の前部に掛けて、ゆっくろゆっくり上り坂を進んで行った。
この辺りからは、目の前には一切経山の大穴火口の噴煙がよく見えた。
そして、振り返ると、隠れていた吾妻小富士の山頂も見えようとしていた。
天気がよくなって遠くが見えたのはいいが、体力を消耗するから、多少くもってもらった方がいいなあ。
そんながんばる私たちに、また新しいごほうびの花が出現。
ハクサンチドリが、すっくと立っていたのだ。
飛んでいる鳥がたくさん付いているように見える。
まさに「千鳥(チドリ)」の名にふさわしい。
鳥のよう、といえば、少し遠方のオオシラビソの大きな実は、カラスのような鳥が枝に止まっているように見えた。
これも面白い。
妻の体調を気遣いながら、いつ戻ることになってもよい気持ちではいたが、せっかく来たのだから、見たものを楽しむことはしていた。
それは、具合の悪い妻も同じではあった。
少しずつ上って行くと、少しずつ増えてきたのが、ツマトリソウの花。
そして、下で見たときにはコイワカガミの花の時期は終わっていたのに、上っていくにつれ、まだ花がついているものが見られるようになってきた。
それは、マイズルソウも同じ。
可愛い花が付いたものが見られるようになった。
ツマトリソウでは、この辺では珍しい花も見た。
その名の由来になったのは、花びらの先端に褄取りに似ている、淡い紅色の縁があるからだというが、これはいかにも、だった。
ようやく酸ヶ平の避難小屋が見えてきた。
もうすぐ上りが終わる。
妻も少し元気になってきた。
足元の花たちは、おそらくコケモモの花たち。
小さいけれども、たくさんついている。
ようやく上り終了。
ここは、酸ヶ平分岐点。
右へ行けば、一切経山の山頂にたどりつき、そこからは「魔女の瞳」の五色沼が見られる。
だけど、私たちの目的地は一切経山山頂ではなく、鎌沼だから、このまま直進する。
この辺は、いくつか池塘が見られるが、また白い雲に包まれてきた。
木道の下には、青い小さな花がいくつも見かけられた。
これは、ミヤマリンドウ。
オヤマリンドウが咲くのは、もう少し後になるだろう。
池塘の近くに、コバイケイソウが咲き始めていた。
ところで、酸ヶ平分岐点を過ぎてから、まったく人に会わなくなった。
時間は、午後3時近い。
日帰りには少し遅くなってきたということかな?
妻や娘に体調を聞くと、「まだ大丈夫」と言うので、少し安心した。
午後3時1分、目的地の鎌沼に到着。
途中アクシデントがありながら、1時間半余りの時間で着くことができた。
それにしても、辺りには、誰の姿もないなあ…。
「クマ出没」なんて看板を見かけて、ちょっと心細くもあったのであった。
(つづく)