書店でもよく名前を見かける堂場瞬一。
だが、彼の書いた小説はまだ読んだことがなかった。
今回、手に取った1冊は「コーチ」という名の本だった。
「コーチ」なんて書名を見ると、どんなスポーツ小説かと思った。
ところが、警察小説というのだから、…?!?!
伸び悩む若手刑事たちのもとに
警視庁本部から送り込まれる
謎の男、向井光太郎
そのアドバイスで成長した刑事たちが挑む
女子大生殺害事件と彼の過去が交錯する。
そんなふうに、帯には書いてあった。
面白そうだな、とりあえず読んでみようかな、と思った。
本書は、2部構成になっている。
警視庁の人事部署から、あちこちの所轄署に派遣されるのが人事課所属の向井という男。
派遣先では、期待されながら、行き詰まっている若手刑事たちがいる。
彼らにコーチ役として派遣されるのが向井だった。
1部(前編)では、捜査中のミスで女性ゆえに悩む女性刑事、有名な俳優の取り調べに苦戦する刑事、尾行に失敗する大柄な刑事らが登場する。
適切な助言を与える向井によって、それぞれの事件が解決し、彼ら一人一人に自信がよみがえっていく。
そして、2部(後編)では、彼らが同じ職場に異動になり、向井との関わりを語り合って、彼が刑事課ではなく人事課にいることに疑問を抱き、彼の過去の謎を探る。
ある事件を通じて、その3人が向井と共に殺人事件にかかわっていく。
「コーチ」という題名からすると、前編だけでもよいとも思うが、後編があるから、そこで起こる事件と向井のもつ謎に関わりが生まれている。
どのような仕事であっても、若いときには何度も壁に当たり、挫折感に打ちひしがれ悩み苦しむものだ。
それは、警察でもそうだということを描きながら、コーチの大切さを示していく。
それだけで終わらないのが、この「コーチ」。
そのコーチに対する「生徒たち」からの、ある種の恩返しの要素も入れながら、後編のストーリーが展開していくことに、この小説の面白さがあった。
その後、堂場瞬一氏は、警察小説やスポーツ小説を書いているということが分かった。
なるほど。
それゆえにこんな小説が書けたのだな、と納得したのであった。