ON  MY  WAY

60代を迷えるキツネのような男が走ります。スポーツや草花や人の姿にいやされ生きる日々を綴ります(コメント表示承認制です)

「どうして花より難しい人を育てられましょうか!?」~菊の季節は終わったけれど~

2010-12-07 18:50:09 | 「育」業
菊の季節も終わりを告げた。
菊の花を見るたび、ある用務員さんの言った言葉を思い出す。

30代の前半に勤めた学校では、1人1鉢の花栽培を行っていた。
私のいた5・6学年部では、当時の中学生がよく行っていたように、菊を育てることにした。
 苗を植えたときの講師をしてくださった地域のAさんは、
「面倒くさく考える必要はありません。
 皆さんは、水やりを一生懸命やってくれればそれでよいのです。
 でも、一生懸命と言っても、水をやりすぎると根腐れを起こします。
 だから、表面の土が乾いてきたら、水をやるのがいいのです。
 その時には、葉っぱに水がかからないようにします。
 どうか、水やりをがんばってください。」
と、子どもたちに言って、帰っていった。
 その数ヵ月後、菊の花が咲いた。
 どの鉢も、用務員さんが手入れをしてくださり、1本仕立てにした菊が咲きそろった。
 文化祭の廊下や教室に、その鉢植えの菊が飾られた。
 ここまで育つ途中、用務員さんが、菊の鉢が置いてある3階の教室のベランダによく通ってくださっているのを私は見ていた。
 体育などで教室が空いている時や放課後などに、よく世話をしてくださっていたのだった。
「いつもお世話をしていただき、ありがとうございました。」
と、私は、用務員さんにお礼を言った。
 用務員さんは、私をちらっと見ながら、不機嫌そうに言った。
「先生、よく見てみなさい。
 隣のクラスの菊は葉っぱもつやつやしているし、背丈も大きいよ。
 でも、先生のクラスの菊は、どれもこれも葉っぱはまちまちだし、背丈も花も小さい。
 なぜだか、わかるかね?」
「……………?」
「水やりだよ、先生。
 隣の組の先生は、Aさんの言ったとおり、子どもたちに一生懸命水やりをさせたんだ。
 だけど、あなたの組は、あんまり水をやっていなかったね。
 だから、途中で枯れたのもあった。
 花なんか、水さえくれていれば、まず枯れることはない。
 先生は、子どもらに水やりちゃんとさせたかね?
 させてないでしょ!?
 菊がかわいそうだから、私は、時々水をくれていたんだよ。
 まったく、水やりさえ満足にできなくて花も満足に育てられない先生が、どうして花より難しい『人間』を育てることなど、できましょうか!!?」
 用務員さんの言った言葉は、私の心に大きく響いたのだった。

 菊の季節になると、毎年思い出す。
 菊の季節が何度終わっても、教育に携わっている身にとって、忘れることはできない記憶である。
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