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『反逆』 (上) (下)巻 (講談社) – 1989 遠藤 周作 (著)

2019年08月21日 | 本と雑誌
 
反逆(上) (下) (講談社)  – 1989
遠藤 周作 (著)
『沈黙』(1966年)を再読してみたくなり、探してなかったので付近にあった「反逆」を借りた。
当たりだった。
内容は非常に濃いのに、名人の語りを聴くような調子のよさもあって
なかなか速読を許してくれない。
読み終えるのがもったいないと思うのに、面白くて一気に読んだ。
信長に対する反逆である。
松永久秀、荒木村重、高山右近、中川清秀、明智光秀、前田利家
村重を描きながらも、これらの人物像の見方にも新たな一面が浮かび上がる。
主人公は読む人によっては、村重や光秀だけではないだろう。
読んだその時々によっても、さまざまに読めると思う。
反逆の心をもつ者は複数なのがみそなのだろう。
これら反逆者、裏切り者だけでない
信長の残忍さ、秀吉の狡猾さが浮き彫りになるし
また、小説上あまり重要ではない人物一人一人の人生についても
読みどころがあって味わいが深い。
宣教師の中でも、その日本人観に好悪がわかれている。小説技術的にもうまいなあと思うところである。
 
先日読んだ、江藤淳『南洲残影』に、西南戦争の官軍の抜刀隊の活躍を歌った「抜刀隊」
を思い出していた。
 
我は官軍我敵は 天地容れざる朝敵ぞ
敵の大將たる者は 古今無雙の英雄で
之に從ふ兵(つはもの)は 共に慓悍决死の士
鬼神に恥ぬ勇あるも 天の許さぬ叛逆を
起しゝ者は昔より 榮えし例あらざるぞ
敵の亡ぶる夫迄は 進めや進め諸共に
玉ちる劔拔き連れて 死ぬる覺悟で進むべし
 
天の許さぬ叛逆を
起しゝ者は昔より 榮えし例あらざるぞ
(天の許さぬ信長の残忍さはどうなるのだろう)
 
図らずもまたしても、西郷つながりになるのだが、
この場合の叛逆者は
”古今無古今無雙の英雄”西郷隆盛だ。
西郷の無念と
松永久秀、荒木村重、高山右近、中川清秀、明智光秀、前田利家らの
無念。大久保の冷酷さと信長とを比べてみても詮無きことなのだろうか。
(「抜刀隊」と、現在でも演奏される『陸軍分列行進曲』の関係は
複雑なので検索して下さい)
 
小説でもそう思うところが多々あったが、これも日本的だなあ、と思うところだ。
 
下巻あとがきの最終章「取材の滴」で、小説ではいつの間にかフェードアウトした感の村重のその後や、その子、孫についても語られている。
これを先に読むといいかも知れない。いや後で読んだ方が。
主人公の一人に村重を選んだ巧みさと、その意味が今更ながらわかるような気がした。
 
 
 
「読売新聞」1989年1/26 ~ 1989年2/27日 連載

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