日出づる海日沈む海 (1978年) - 1978/9
安達 征一郎 (著)
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奄美大島から屋久島めざして三艘の小舟が帆走していく。
そこは、うねりて止まぬ海の難所、七島灘 。
円い水平線の大海原に花が咲くわけはもとよりないが、
しかし空から花びらが湧いているようであった。
それは第一章「蝶わたる」冒頭から、なんと海をわたるモンシロチョウの大群だった。
アサギマダラが海をわたるらしいことは近年、インターネットによるマーキング調査の話題で知るようになったが。(トンボも集団で海をわたるらしいこもはネットで知った)
この小説ではおびただしい数のモンシロチョウが集団で空を飛んだり、海面におりて片方の翅で帆走する様子が詳しく描写されている。
青い空が背景で、うねり止まない大海原が舞台で、証明はぎらつく太陽だ。
積乱雲や風や鳥は何にたとえれば・・・。
舞台の上、無量の蝶の神秘的な行動がつづくなかで、三艘のサバニの中の一人が産気づき出産が始まる。
のっけから度肝をぬかれるような場面展開で最後まであきることがない。
文体にもリズムがあって、時々出てくる、おもろそうしの歌は
歌詞も意味はあまりわからなくても、そのリズムに乗って読めてしまう。不思議だ。
その意味で、著者によるあとがきの次の試みは最後まで成功している。
私はこの長編小説を書くにあたって、筋を作り、場面に工夫をこらし、劇的な展開を心掛け、性格を際立たせ、そしてうねりて止まぬ海洋という大景の中で、この飾り気のない自由人の群れを躍動させることに腐心した。
この『日出づる海 日沈む海』は1980(昭和53年下期)年第80回直木賞候補になった。
藩政時代の薩摩への怨みがベースにある「怨の儀式」第70回直木賞候補の(昭和48年/1973年下期)とは、対照的といってもいいほど健康的で、海洋小説とは、こういうものだろうなと思わせる。最後のヤマトンチュー幾三は高倉健さんに演じてもらいたいほどすがすがしい。
奄美も日本も海に囲まれた島々からなっているのに、どうしてこのような小説がない(すくない)のだろう。
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