この日も暖かだった。
長谷寺の西参道の歓喜院横に小さな池がある。
二人の幼い子供を連れたお母さんが、子供と一緒に池に向かって、麩のようなエサをやっている。
鯉でもいるのかなぁと立ち止まった。
池の中ほどにある岩の上に、今上ろうとしている亀が目に入った。
首を伸ばし、手を踏ん張り、(足なのに手に思えた)尻尾と足で、「よいしょ。よいしょ。」とやっている。手伝ってやりたい感じだ。
乾いた岩の上は、格好の甲羅干しの場所に違いない。
「今日は、暖かいので、こうして上って来るのですよ。ほら、あっちの岩の上にも」
若いお母さんの指差す方を見ると、池のふちの石の上に二匹の亀がいる。
親子に違いない。
どこから、上ったのか、気持ちよさそうに、甲羅干しをしている。
「暖かいと、亀も嬉しいのでしょうね。こうして出てくるのですよ。」
お母さんは、きっと、いつも子供を連れてここに来ているのだろう。
近所の人か、お寺の関係の人か、優しい話し振りの人と、亀を見ながら、暫く話していた。
陽の暖かさと、人の温かさに心和むひと時だった。