孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  民主派弾圧継続 スーチー政権与党解党 エスカレートする暴力 瀕死の経済

2023-04-01 22:59:12 | ミャンマー

(【3月27日 日経】3月27日、ミャンマーの首都ネピドーで「国軍記念日」の軍事パレードを閲兵する国軍トップ、ミンアウンフライン総司令官)

【国軍記念日 ミンアウンフライン総司令官は民主派弾圧継続姿勢を強調 総選挙延期の責任を民主派に押し付ける】
ここ1週間ほどで、軍事政権支配が続くミャンマー情勢に関して報じられたのは二つの出来事。

ひとつは3月27日の軍の記念日にあわせた式典におけるミン・アウン・フライン総司令官の演説で、民主派を「テロリスト」として激しく非難し、今後も弾圧の姿勢を示したこと、併せて「公平な選挙のためには国の安定が欠かせない」と総選挙先送りの責任を民主派に押し付けたことです。

****ミャンマー「国軍記念日」に大規模パレード クーデターを正当化、中露との連携鮮明****
ミャンマーの首都ネピドーで27日、「国軍記念日」の式典と大規模な軍事パレードが実施された。軍の権威を誇示し、2021年2月のクーデターによる政権奪取を正当化する狙いがある。

クーデターに反発する日本や欧米が式典参加を見送る中、中国とロシアは代表を派遣した。国軍は国内の民主派を弾圧しつつ、強権国家との連携を深める姿勢を改めて鮮明にした。

国軍記念日は1945年の対日蜂起を記念するもので、その式典は国軍が最も重視している。式典の演説で国軍トップのミンアウンフライン総司令官は、民主派が結成した挙国一致政府(NUG)をテロリストと断じ、「国を荒廃させようとしている」と批判。民主派勢力に「断固たる行動を起こす」と言及し、弾圧を強化する意向を示した。(中略)

国軍は、NUGが組織した「国民防衛隊」や、NUGに呼応する少数民族武装勢力の掃討作戦を進めている。クーデター後に国軍が殺害した市民は24日時点で3160人に達した。国軍にも損失が出ており、地元メディアによると、3月20~27日に国軍の兵士ら約140人が死亡した。

国軍は2月、クーデター直後に発令した非常事態宣言を来年2月1日まで延長し、今年8月までの実施を約束していた民政移管に向けた総選挙は実質的に先送りとなった。総司令官は27日の演説で、選挙には「平穏と安定が必要だ」と述べており、治安情勢の悪化を理由に選挙実施をさらに延期する可能性がある。

また、仮に選挙が実施されたとしても民主派は排除される可能性が高い。国軍は拘束中の民主派指導者、アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)を事実上非合法化した。NLD所属の元国会議員らは「国軍系政党が大勝する筋書きが決まっている」と反発を強めている。【3月27日 産経】
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式典には、国軍と関係を保っている中国やロシアの他、インドやASEAN加盟国など計10カ国の代表が出席したとのことです。

【スー・チー氏率いる「国民民主連盟(NLD)」を解党処分 形だけの総選挙へ】
もう一つの出来事は、期限までに政党としての届け出がなかったことを理由に、スー・チー氏が率いていた民主政党「「国民民主連盟(NLD)」を解党処分とすることを軍事政権が決めたことです。

****ミャンマー軍政、スー・チー率いる民主派政党を解党 総選挙は軍政支持派一色に****
<クーデターから2年、親軍派の政党だけが残る国に......>

ミン・アウン・フライン国軍司令官がトップを務めるミャンマーの軍事政権は3月28日、民主政府指導者だったアウン・サン・スー・チー氏が率いていた民主政党「「国民民主連盟(NLD)」を解党処分とすることを決めた。
これにより軍政が予定している総選挙にNLDは参加資格を失うことになり、「公正で民主的総選挙」は実質的に不可能となり、軍政支持政党だけによる不公平な一方的選挙となることが確定した。

そもそも軍政は2021年2月のクーデター直後からスー・チー氏を数々のいわれなき容疑で拘束するとともにNLD所属議員や関係者の摘発といった弾圧を続けてきており、28日の「解党処分」以前から総選挙への参加は実質的に不可能な状況になっていた。

それをわざわざ2023年1月に軍政が一方的に定めた新選挙法で政党としての届け出に期限を設けて「3月28日までの期間中にNLDから届け出がなかった」として政党要件を失い解党処分としたことは、軍政にとっては「既定路線」であくまで「公正で自由な選挙」を演出するためのプロセスに過ぎなかったといえる。

NLD関係者は「軍政の思惑には乗らない」として政党としての届け出を拒否、あくまで反軍闘争を継続する方針を貫いた形となった。

NLDなど40政党を解党
ミャンマーの軍政寄りの国営放送は28日、NLDを含めた40の政党が期限までの届け出をしなかったり、親軍という政党要件を満たさなかったとして29日を以って解党処分を受けることになったと伝えた。

その一方で総選挙には親軍派の「連邦団結発展党(USDP)」など、国政・地方政治合わせて63政党が届け出を済ませて参加することになったとことを軍政は明らかにした。

2023年8月に予定されていた総選挙は武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境周辺の少数民族武装勢力との戦闘激化による国内治安の著しい不安定化により軍政が2月に非常事態宣言を延期したことで実施時期が無期限延長となっており、いつ総選挙が実施されるかは不確定となっている。

軍政は全国で有権者名簿の策定・登録など総選挙の準備を進め、早期の選挙実施を目指しているが、作業に当たる地方行政機関や担当者がPDFから襲撃を受けるなどして順調に進んでいないのが実状という。

スー・チー氏が率いていたNLDは軍によるクーデターで大半の党員や関係者が逮捕されたこともあり、逮捕を免れた幹部や党員は国外に避難するか地下に潜伏して活動を続けている状態。「期限内に政党としての届け出をするように」と軍政が訴えたところで届け出に赴けば逮捕される可能性が高かったという。

総選挙を軍は不正としてクーデター
NLDはミャンマーの民主化の動きの中で1988年に結成された。その後、独立の父として国民の信頼と人気を集めるアウン・サン将軍の娘であるアウン・サン・スー・チー氏が指導者として迎えられ、民政移管後の2015年の総選挙で圧倒的支持を集め事実上の政権を担った。

2020年の総選挙でも同様に多くの支持を獲得して政権を継続。スー・チー氏は外国人と結婚したミャンマー人は国家元首に就任できないとの規定から国家最高顧問兼外相として国政を担ってきた。

しかし2020年の総選挙で軍の既得権益が脅かされることを危惧したミン・アウン・フライン国軍司令官が「選挙には不正があった」としてクーデターを起こし、スー・チー氏やウィン・ミン大統領らが逮捕され民主政府は崩壊してしまった。

その後NLDの関係者は2021年4月に反軍組織「国家統一政府(NUG)」を立ち上げスー・チー氏やウィン・ミン氏らを指導者としてNLD幹部や少数民族武装勢力関係者を加えて民主化運動を継続していたが、軍政はNUGを非合法組織としてNLDと同様にメンバーの弾圧に乗り出した。

現在スー・チー氏やウィン・ミン氏が逮捕されているためNUGは少数民族であるカチン民族出身のドゥワー・ラシ・ラ氏が大統領代行が就任している。

また軍による強権的弾圧や一般国民を含めた人権侵害事案が相次いだことから同年5月にNUG傘下に武装市民組織としてのPDFが立ち上げられ、各地で軍に対して武装抵抗を行うようになり、治安が極端に悪化し続けているという経緯がある。

不確定要素多く選挙実施には難問も
軍政はNLDなどの反軍政党を解党処分としたことでとりあえず次期総選挙には親軍政党だけの参加が決まり、USDPの圧倒的勝利は確実となっている。

こうした選挙を通じて軍政は「公正で自由な選挙」を内外にアピールする思惑だが、必ずしもその通りに運ぶかどうかについては前途多難な面も指摘されている。

まず一番の要素は治安の確保で、PDFや少数民族武装勢力との戦闘が激化している現状では親軍派の有権者や投票所の安全確保が課題となることに加えて、反軍姿勢の国民の投票ボイコットや反対票を「どう操作」して勝利を確定させるかという問題もある。

国際的な選挙監視団が受け入れられることは不可能だが、軍政と関係が深い中国やカンボジアなどが「選挙過程や結果にお墨付き」を与えることも予想されている。

いずれにしろ早期の選挙実施を目論む軍政が治安安定を目指して今後各地で反対勢力やシンパの国民への暴力を激化させる可能性がある。【3月29日 大塚智彦氏 Newsweek】
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【エスカレートする暴力】
こうした状況で、国軍による凄惨な暴力は相変わらずです。民主派の反撃もエスカレート。

****残虐非道なミャンマー国軍、民間人を生きたまま手足切断、斬首してさらし首に****
軍事政権による一般市民への圧迫や抵抗勢力への攻撃・殺害が続くミャンマーで、またとんでもない事態が起きた。20歳未満の少年ら若者5人が軍兵士らによって虐殺されたのだ。犠牲となった若者の中には15歳の少年も含まれているという。

発見された少年らのうち3人の遺体は手足が切断されたり斬首されたりしていたばかりか、集落内に「さらし首」にされた。

別の村落でも軍による住民への無差別攻撃によって市民ら16人が殺害され、さらに別の場所でも2人が少年らと同じように斬首されていた。

こうした軍による人権無視の攻撃・殺害は、今年2月に軍政が戒厳令の布告地域を拡大して以来、目立つようになっている。(中略)

地雷設置中に軍に拘束され殺害
独立系メディアなどの報道によると2月25日、サガイン地方域ミンム郡区ニャウン・ピンカン村付近で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」と軍による戦闘が勃発し、銃撃戦の末、PDF側は弾丸の不足を理由に退却を始めた。その際にPDF部隊が退却に使った道に地雷を仕掛ける作業をしていた少年と青年5人が軍によって拘束されたという。

その2日後となる27日朝、近くのパダット・テイン村付近で5人の遺体が発見された。うち3人が斬首されており、中には手足も切断された遺体もあったという。

少年らの頭部は民家の竹の塀上部や荷車の上などに「さらし首」状態で放置されていた。残された胴体部分などに銃で撃たれた形跡がみられないことからPDFでは少年らは生きたまま斬首や手首を切断されたという極めて残虐な方法で殺害されたとみている。(中略)

戒厳令拡大後に残虐行為増加
地元PDF関係者は軍によるこうした残虐な行為は2月2日に軍政が抵抗勢力による攻撃が激しい地域に対して戒厳令を拡大したことと無関係ではないとしている。

それまで中心都市ヤンゴンなど7郡区に出していた戒厳令を軍政は37郡区に拡大した。さらに2月22日にはサガイン地方域の3郡区への戒厳令布告を追加して、軍による統制を強めている。

戒厳令の拡大以降、軍による残虐行為が増加している。軍政はPDFメンバーや一般市民に対する「見せしめ」の効果を狙って斬首などの残虐な殺害を行っているようだ。

しかし軍による残虐行為が拡大するにつれ、PDF側の反撃もエスカレートしている。いわば戦闘残虐化のスパイラルが繰り返されている状況だ。

戒厳令が布告された地域では軍が行政権などを掌握している。各地のPDFは、軍が強権を行使して一般市民や抵抗する武装市民への違法な弾圧がこれまで以上にまかり通るようになる、と警戒を強めている。【3月18日 大塚 智彦氏 JBpress】
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【瀕死の国内経済 抜本的な対策がなければ年末には人口の約3分の1が危機的状態に】
一方、軍事政権支配のもとで経済は混乱・停滞し、市民生活は困窮していますが、経済指標で見ると22年度は好転しているとか。これには訳があるとのこと。

****アジアの今 ミャンマー経済瀕死、国内向け物資を輸出に つけは貧しい人へ****
国軍が武力で全権を掌握し2年が経過したミャンマーで一部の経済指標が好転している。

世界銀行が発表した2022年度(21年10月〜22年9月)の実質国内総生産(GDP)の成長率は3.0%。前年度のマイナス18.0%から大幅な改善となった。コメなどの輸出が堅調で、今年度も最大で4%を見込む。

しかし、これらはまやかしにすぎない。輸出が増えているのは、外貨獲得を急ぐ軍政が国内向けの物資を輸出に向けているからで、通貨チャットはクーデター前の半分以下に下がっている。

金などの貴金属を採掘し手っ取り早く外貨に換えるための乱開発は各地で行われ、早晩行き詰まるのは明らかだ。

国内経済は瀕(ひん)死(し)の状態だ。国連人道問題調整事務所によると、内戦や治安の悪化から家を追われ支援が必要な避難民は少なくとも450万人以上いる。抜本的な対策がなければ年末には人口の約3分の1に当たる1760万人が危機的状態に陥るとする。

比較的産業の集積するヤンゴン管区でも、4人に1人が1年以上も給与収入がない状態が続いている。

生活の糧を失った住民の一部は最大河川エーヤワディー川に出て、浮遊する空き缶やプラスチックを拾う作業に従事している。リサイクル業者に売って現金を得るためだ。おかげで川がきれいになったと皮肉のような話が伝えられている。

農村では戦闘による巻き添いを恐れ、離農する人が続出している。生産量そのものは確実に減っており、輸出もいつまで続くか分からない。

こんな状態でも、国軍と前最高指導者のアウンサンスーチー氏派の国民防衛隊(PDF)の双方は戦闘を止めようとしない。意の通りに動かない住民に対しては、スパイの汚名を着せ殺害するなど行動はエスカレートする一方だ。つけの支払いはいつも、社会の底辺にある彼らに向かう。【3月24日 産経】
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いつまで続くぬかるみぞ・・・・。

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ミャンマー軍事政権  民兵武装で民主派弾圧を強化 その国軍司令官から麻生副総裁へ「血まみれの勲章」

2023-03-03 23:28:11 | ミャンマー

(2月20日、記念撮影するミンアウンフライン国軍総司令官(中央)と麻生氏とともに勲章を授与された渡辺秀央氏(左から2番目)ら=ミャンマー国軍報道官室提供【2月22日 日経】)

【国軍、「国家に忠誠を誓う」人々に銃器と弾薬の所持を認める 民兵武装化で暴力拡大の懸念】
ミャンマーでは軍事政権・国軍と民主派及び少数民族武装勢力の戦いが続いており、国軍は2月1日、非常事態宣言の期間の半年間延長を発表。2日には国内37郡区に戒厳令を発令し、抵抗する人々への弾圧を強化する構えを見せています。

更に国軍は「国家に忠誠を誓う」民間人の銃所持を認め、武装民兵を動員することで対応を強化するようです。

銃所持が認められるのは“国家への忠誠心があり、善良な人格者であることなどが条件”とされていますが、要するに国軍の命令に従い、その手足となって民主派狩りに参戦する支持者のことで、反軍デモに参加する可能性もある一般市民が許可を申請しても認められないと推測されます。

****「国家への忠誠」あれば民間人に銃の所持認める布告 ミャンマー国軍、民主派と戦う民兵に武装させる狙いか****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍が、「国家に忠誠を誓う」人々に銃器と弾薬の所持を認める原則を1月31日に布告したことが分かった。民主派の抵抗勢力と戦う親国軍の民兵組織などを合法的に武装させる狙いがあるとみられる。

国軍傘下の内務省が作成したとされる文書によると、ネウィン政権時代の1977年に制定された武器の所持に関する原則に修正を加え、復活させた。昨年12月に開かれた「閣議」で承認されたという。

38口径以下の拳銃やレボルバーなど5種類は免許で所持が可能。民兵組織などは許可を得れば、自動小銃や短機関銃も所持できるようになる。サイレンサーや望遠鏡機能を持つ照準器の使用は認められていない。

許可証の申請者は18歳以上で、国家への忠誠心があり、善良な人格者であることなどが条件。また、当局から地域の治安維持や犯罪の抑止などへの参加を要請された場合、従わなければならないという。

最大都市ヤンゴンの関係者は「(親国軍の民兵組織)ピューソーティーや武器を持ちたい退役軍人らを合法的に武装させる狙いだ」と指摘。「一般市民が許可証を申請しても『不適』と判断されるだろう。国軍への抗議デモでは、スリングショット(ゴム銃)ですら没収されている」と語った。【2月14日 東京】
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軍事クーデター以降、民主派市民が親軍派の行政幹部らを襲撃する事件が相次ぎ、国軍側も民兵組織を結成していますが、その「武装」強化を図るもののようです。

ミャンマー国軍の非人道的・無慈悲な暴力はかねてより批判されているところですが、規律も何もない武装民兵となるとそうした一方的暴力が更に拡大しそうです。

【国外に逃れた人々の悲惨な結末 一方で海外で遊ぶ司令官家族】
国軍の弾圧・暴力から逃れる人々はタイなどに逃げていますが、国外に逃げても苦難は終わりません。その一方で国軍司令官の家族は・・・

****シンガポールで遊ぶミャンマー国軍トップの家族写真が拡散… 国民は「なぜこんなことが許されるのか」と激怒****
国軍の弾圧を逃れ、タイに密入国。その後、自殺したものと思われるミャンマー人の遺書が、ミャンマー内で拡散されている。そこには「ご飯をください」「水をください」という悲痛な叫びが書き連ねられていた。

昨年、ミャンマーとタイの国境にあるタイ側のメーソートを訪ねた。街の人の話では、国境の山を歩いて越え、タイに密入国するミャンマー人は1日100人をくだらないという。国軍に追われた人たちだ。タイ側に逃げれば身は安全だが、密入国の身では働くことはできない。自殺したのはそんなミャンマー人なのか。

2年前のクーデターでミャンマーの人たちの生活は一変した。仕事がなくなり、将来への夢も消えた。貯えもなくなりつつある人が多い。しかし生きなくてはならない。国軍に対抗する民主派の軍隊、国民防衛軍(PDF)で銃をもつか、国外脱出の道を選ぶか。

それを見すかすかのように、1月1日、国軍はパスポートの発給を停止した。システムの更新が対外的な理由だが、
「軍事政権になると多くの若者が国外へ逃げようとする。それは国軍も織り込みずみ。パスポート発給のための賄賂で国軍幹部が儲けようとしている前兆」 そう考える市民は多い。(中略)

流出した「国軍トップ」家族の写真
そんなミャンマーで国軍トップのミンアウンラインの家族の写真がSNSで拡散された。妻や息子や娘、家族たちの楽しそうな姿。場所はユニバーサル・スタジオ・シンガポールだった。ミャンマーからチャーター機で向かったという。

ミンアウンラインだけでなく、息子や娘も経済制裁を受けている。シンガポールは経済面の制裁には加わっているが、彼らの入国まで制限していない可能性は高い。

しかしシンガポールで撮られた写真は、パスポートすら手にするのが難しい国民感情を逆なでする。国軍の武器調達にかかわるミャンマー人がタイで逮捕されたが、その取り調べから、ミンアウンラインの隠し財産も発覚してきているという。

「経済制裁を受けた国軍関係者は何種類ものパスポートをもっています。私たちはなかなかパスポートがつくれないのに、彼らは簡単につくることができる」 船員になって国外に出ようと考えているRさん(24)はいう。

2月24日にパスポートをつくるためのQRコードの申請は再開された。しかし申し込みが殺到しているのか、なかなかつながらないという。

ミンアウンラインのシンガポールでの写真が掲載されたSNSには、こんな文章が添えられたいた。
「どうしてこんなことが許されるのだろう? この一家はミャンマー人のすべての苦しみに責任があります。 何百万もの人々がホームレスになっているのは、この一族の権力と富に対する欲のせいだ。 どうして彼らが贅沢を楽しむことが許されるのだろうか?」【3月3日 下川裕治氏 デイリー新潮】
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【麻生自民党副総裁に「血まみれの勲章」 中露要人、テロリスト仏教僧と同列】
アメリカ・EUはミャンマー国軍支配の軍事政権への制裁を課していますが、EUは2月20日、ブリュッセルで開かれた外相理事会でイランへの追加制裁に加えて、国軍によるクーデターから2年が経過したミャンマーに対する追加制裁も決めています。

EUの発表によると、人権侵害が続くミャンマーへの追加制裁では、閣僚を含む9個人と7団体が対象に加わったとのことです。

一方、周知のように日本は上記のような欧米の制裁とは一線を画し、既存のODA事業を継続するなど軍事政権との関係も一定に維持する独自の対応をとっています。

そうした日本の対応は軍事政権に“高く評価”されているようで、自民党の麻生太郎副総裁と日本ミャンマー協会会長の渡辺秀央・元郵政相に名誉称号と勲章が授与されました。

****麻生太郎氏、クーデター首謀者から勲章 ミャンマー国軍の後ろ盾のロシア、中国要人と同列に****
クーデターを主導したミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官から、麻生太郎元首相と日本ミャンマー協会長の渡辺秀央元郵政相が名誉称号と勲章を贈られた。

有権者に選ばれた政権を武力で転覆させ、抗議する市民を多数殺害している人物からの表彰を受け入れるとは、常識的感覚からして信じ難い。苦境にあるミャンマー市民に理解される振る舞いだろうか。

◆国軍擁護の発言重ねる渡辺秀央元郵政相にも勲章
ミャンマーの国営紙によると、ミンアウンフライン氏は20日、麻生氏と渡辺氏に名誉称号と勲章を贈った。首都ネピドーでの授与式に出席した渡辺氏に「両国と両国民、両国の軍隊が友好関係と協力を強化することができた」と謝意を表明。渡辺氏は「生涯、ミャンマーの発展と国軍の地位のために努力する」と約束した。麻生氏は欠席したが、渡辺氏を通して謝意を伝えたという。

渡辺氏が会長の日本ミャンマー協会は、ミャンマーが民政移管した2011年、交流促進の目的で設立された。麻生氏を最高顧問に据え、ミャンマーに進出する日系企業が会員に名を連ねる。

渡辺氏は11〜16年の国軍出身のテインセイン大統領時代、大規模な経済特区を日本が開発する話を取り付け、存在感を示した。一方で、国軍系企業と共同で商業施設を建設する計画を進めるなど、国軍との関係を深めた。21年2月のクーデター後もミャンマーに度々渡航し、国軍擁護の発言を重ねている。

ミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は昨年11月と今年1月、それぞれ渡辺氏と麻生氏への表彰の話を報じた。イラワジによると、ロシアのショイグ国防相、中国の孫国祥特使、仏教僧ウィラトゥ師らも表彰対象とされた。

ロシアと中国はクーデター後の国軍の後ろ盾。ウィラトゥ師も国軍に近く、イスラム教徒少数民族ロヒンギャへの差別発言を繰り返してきた。麻生氏らは人権面で問題のある国や人物と同列視された格好だ。

◆林芳正外相「政府としてコメントする立場にない」
日本政府はクーデター後、民主的な政治体制への復帰を求め、国軍支配を認めていない。受章はその立場と反する。取材に対し、麻生氏の事務所は「ミャンマーがいかなる状況で顕彰したのかなど詳細を知らず、答えられない」と回答。渡辺氏が会長を務める日本ミャンマー協会も「本人が不在」としてコメントを出さなかった。

22日、衆院予算委で立憲民主党の源馬謙太郎議員が表彰について質問。林芳正外相は「個人として勲章を受章したと承知しており、政府としてコメントする立場にない」と述べるにとどめた。

◆「国民の苦難を顧みない日和見主義者として歴史に残る」
ミャンマーの人権団体によると、クーデター後の国軍の弾圧で死亡した人は3000人を超え、拘束された人は約2万人に上る。

ミャンマー出身のナンミャケーカイン京都精華大特任准教授は「蛮行に走る国軍が与えた称号に名誉などあると思うか。両氏はミャンマーで(第2次世界大戦のミャンマー占領時の首相)東条英機と肩を並べて伝えられていくだろう」と非難する。

クーデター前、与党「国民民主連盟(NLD)」政権下で経済開発を担当し、渡辺氏とも交流したチョーワンナ氏は「彼は両国の友好関係を壊した。ミャンマー国民の苦難を顧みない日和見主義者として歴史に残るのは間違いない」と切り捨てる。

民主派が作った「挙国一致政府(NUG)」のチョーゾー大統領府報道官は「戦争犯罪と人道に対する罪をはたらいた犯罪者」とミンアウンフライン氏を糾弾。「ミャンマー人は日本に対し、ロシア軍へのウクライナ人の抵抗を支援するように、国軍への抵抗を支援するように望んでいる」と訴え、「血まみれの勲章」を拒むように求めた。
【2月25日 東京】
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日本政府は欧米の課す制裁には参加せず、軍事政権とも一定の関係を維持することで、平和的解決に向けた働きかけを続けることを目指していたはずですが、そうした独自外交の成果として何が得られたのか、国民への武力弾圧を続ける軍事政権から“勲章を授与される”ような関係にあることをどのように考えているのか・・・「政府としてコメントする立場にない」では済まない問題だと思いますが、アジアのことなど関心がない日本で大きな問題になることはないようです。

【マレーシアのアンワル首相 ミャンマー問題で機能不全のASEANに苦言 「正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」】
ミャンマー軍事政権に対しては内政不干渉を原則とするASEANも内部に温度差を抱えており、有効な対応をとれない機能不全を示していますが、マレーシアのアンワル首相はこうした現状に苦言を呈しています。

****マレーシア、フィリピンと南シナ海問題で対中強硬姿勢で一致 ミャンマー対応ではASEANに苦言****
<中国をめぐり機能不全に陥ったASEANの進む道は>
マレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、3月1日に訪問先のフィリピンのマルコス大統領と会談し、両国が直面する南シナ海での中国の一方的な海洋権益主張に共同で対処することで意見を交わした。(中略)

ミャンマー問題も背景には中国が......
一方、東南アジア諸国連合(ASEAN)の抱えるもう一つの問題、ミャンマーについても中国が大きな影を落としている。

それというのも中国がミャンマー軍政の最大の後ろ盾になっており、中国へ配慮するASENAの一部加盟国が、ミャンマー軍政への強硬策に反対しているからだ。

こうしたなか、アンワル首相は、マニラ首都圏ケソン市にあるフィリピン大学で3月2日に講演し、ASEANに対して「不干渉は無関心ではない」とミャンマー問題で一致団結できない現在の状況に苦言を呈した。

マレーシアはフィリピン、シンガポール、インドネシア、ブルネイと並んでミャンマー軍事政権に強硬な姿勢を取り続けている。これが、軍政に融和的なタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムとの間で溝が生じており、域内の連合体であるASEANとしてまとまりを欠く状況が続いている。

ASEANは2023年の議長国が対ミャンマー強硬派のインドネシアになったことから、強力な指導力でミャンマー軍政に現状打開を迫る好機とみられていたが、完全に膠着状態に陥っているミャンマー問題の解決にインドネシアが苦慮。

このためアンワル首相率いるマレーシアがイニシアチブを発揮することへの期待が高まり、これを受けて同じ強硬派のフィリピンとの連携強化を模索するため今回のフィリピン訪問となった。

原則違反に沈黙すべきではない
アンワル首相はフィリピン大学から名誉博士号を授与されたことを受けて同大で講演し、最近のASEANの対ミャンマー強硬派と融和派による分断の危機に触れて「不干渉と無関心は違うものである」と述べた。

これはASEANの掲げる原則である「満場一致」と「内政不干渉」を盾にミャンマー問題への積極的関わりに二の足を踏んでいる融和派各国に対し「内政不干渉という原則があるが、そのコンセンサスに基づく意思決定は民主的価値、人権、基本的自由の尊重というASEANの基本的価値観に反する違反については沈黙すべきではない」として、何らかの行動が急務となっているとの立場を改めて示した。

マレーシアは反軍政勢力招待も模索
またアンワル首相は「ASEANは現在一連の会議や首脳会議から軍政代表を排除することぐらいしか具体的対策を講じていない」と述べて、手をこまねいている状態の強硬派にも苦言を呈した。

マレーシアは2021年2月のミン・アウン・フライン国軍司令官によるクーデター直後から軍政に厳しい姿勢を表明し、ASEANの会議に軍政代表ではなく、民主主義復活を求めて抵抗を続けるアウン・サン・スー・チーが率いた民主政府や少数民族関係者などからなる「国民民主連盟(NLD)」の関係者を招請するべきだとの強硬策を提示した。さらに実際にマレーシアのサイフディン外相(当時)がNLD関係者と接触したこともあったという。

このNLD関係者のASEAN会議への参加というマレーシアの提案は融和派などの反発でコンセンサスを得ることができず現在に至るまで陽の目をみていない。

つまりASEANは軍政であれNLDであれ「ミャンマー代表」の不参加が続いており、当事者を欠いた場での対応協議が続いており、それが事態の膠着状態の一因となっているとの見方もある。

新しいアプローチ模索の動き
アンワル首相はマルコス大統領との会談でミャンマー問題について「危機打開のため新しいアプローチを模索するべきだ」と述べたとしているが、この「新しいアプローチ」が具体的になにを示しているのかは明らかになっていない。

インドネシアが現在進めている打開策は、2021年4月にミャンマー軍政のミン・アウン・フライン国軍司令官も参加したASEAN緊急首脳会議(インドネシア・ジャカルタで開催)で合意した議長声明「5項目の合意」に基づき、その履行を軍政に迫るというものだ。

しかしこのうち「武力行使の即時停止」と「全関係者とASEAN特使の面会」に2項目に関して軍政が強硬に反対しており今日に至るまでなんら進展をみせていないのが現状だ。

マレーシアのサイフディン前外相はASEAN外相として初めて「5項目の合意」の破棄を含めた見直しを提案したこともある。

このためアンワル首相の「新しいアプローチ」は、インドネシアがこだわる「5項目の合意」にはもはや依拠せずにミャンマーとの打開策を模索する方法を指している可能性もある。

アンワル首相はフィリピン大学での講演をフィリピン独立運動の英雄ホセ・リサールの言葉を引用して締めくくった。
「正義は文明的人間の最も大切な美徳である。正義は弱き者の間に不正義が蔓延する野蛮な国々を抑え込む」【3月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ミャンマー  国軍のクーデターから2年 状況は「悪化の一途」 困難な抵抗、薬物に逃避する若者も

2023-02-01 23:17:55 | ミャンマー

(買い物客でにぎわうミャンマー・ヤンゴンの市場=1月29日(共同)【2月1日 産経】 一見、平穏な市民生活が営まれているようにも見えますが・・・・)

【「悪化の一途」 「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」】
昨日・今日、国際面で最も多く目についたニュースはミャンマー情勢に関するもの。何か変化があった訳ではなく、国軍によるクーデターから2年経過という「節目」にあたっての記事です。

2年が経過しての状況は一言で言えば「悪化の一途」。欧米によるミャンマー軍政批判に慎重な日本政府が言うのですから間違いないでしょう。

****悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念=松野官房長官****
松野博一官房長官は1日午前の記者会見で、ミャンマーで軍がクーデターを起こしてから2年が経過するなか「ミャンマー国軍は国際社会の声に聞く耳を持たず、暴力行為は止む兆しがない」と指摘、「悪化の一途をたどるミャンマー情勢を深刻に懸念している」と述べた。(後略)【2月1日 ロイター】
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クーデター勃発後の2021年4月にミャンマー国軍が拘束。5月に解放され、日本に帰国することを余儀なくされたジャーナリストの北角裕樹氏は「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」と。

****ミャンマー国軍によるクーデターから2年「状況は10年前に逆戻り。いや、それよりひどい」ジャーナリスト・北角裕樹氏が解説****
(中略)ミャンマー経済は、2011年の軍事政権による民政移管後、概ね順調な拡大を続けていた。北角氏は「民主化が進んで夢があり、明るい未来があった。しかしクーデター後の混乱で、立て直せない状態にある。商店には日常が戻ってきていると聞いているが、ダメージを負っているのはとくに貧困層だ。物乞いをしなくてはいけない人もいると聞いている」と厳しい経済状況について触れた。

国軍の弾圧で民間人の死者はおよそ2900人、拘束中の政治犯は1万3000人を超え、いまも各地で民主派との武力衝突が頻発している。

言論活動については「今は政府・国軍の批判は出来ない。するとしたら地下活動でしか出来ない。ジャーナリストが他の仕事を持ちながらヤンゴンに潜伏し、インターネットで配信するという方法になる」と述べた。

また「ミャンマーの90年代は圧政の時代だったが、『今はそれに輪をかけて厳しい』とミャンマー人が言っている。いまは内戦状態で、国民が敵・味方に分かれて戦っており、いつ密告されるかもしれず喫茶店でも話が出来ない」と、心休まらずピリピリとした緊張状態に置かれた国内の様子について指摘した。【2月1日 ニッポン放送NEWS ONLINE】
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国軍は「力による支配」の体制を固めており、8月までに行うとされていた総選挙もその実施は不透明になっています。仮に実施されたとしても国軍に都合の悪い勢力の参加は許されず、国軍支配を正当化するための形式的儀式でしかないでしょう。

****ミャンマー支配を固める国軍 クーデターから2年****
ミャンマーで国軍がクーデターにより全権を掌握してから1日で2年となる。国軍は8月までに総選挙を行う意向を示すが、公正な選挙が行われる可能性は低い。

民主派への弾圧や少数民族武装勢力との戦闘を続けながら、国軍は形式のみの「民政移管」で親軍政権を樹立し、支配を固めようとしている。

国軍は2021年2月1日、国家顧問兼外相のアウンサンスーチー氏(77)や与党、国民民主連盟(NLD)の幹部らを拘束し、全土に非常事態を宣言。憲法はその期間を最大2年と規定しており、31日に期限を迎えた。終了後は半年以内に総選挙を行う必要がある。

国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙に不正があったとしてクーデターを起こし、総選挙実施はその直後から表明していた。ただ、国民的人気があるスーチー氏には度重なる刑事訴追で身柄拘束を続け、政治生命を断つ動きを進める。スーチー氏が受けた刑期は計33年に及ぶ。選挙制度も改め、組織票を持つ国軍系政党に有利な比例代表制を導入する予定だ。

民主派は総選挙をボイコットする考え。NLD元国会議員は産経新聞の取材に「すべてが国軍に有利な環境で行われる選挙に参加する意味はない」と述べた。

国内では民主派がつくる挙国一致政府(NUG)が結成した「国民防衛隊」と国軍の戦闘が続き、NUGに呼応する少数民族武装勢力も攻勢を強める。不安定な治安状況を名目に、国軍トップのミンアウンフライン総司令官は選挙延期の可能性も示唆している。

市民団体によると、クーデター以降の弾圧の死者は2901人、逮捕者は1万7525人。国連の集計で住居を追われた市民は120万人を超える。NUG関係者は「最大の課題は国際的関心が薄れていること。国際社会はミャンマー市民が日々殺されていることを踏まえ、国軍の横暴をさらに糾弾すべきだ」と訴えた。【1月31日 産経】
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【スーチー氏の近況】
スーチー氏の近況は詳しくは報じられていませんが、“スーチー氏は首都ネピドーにある刑務所内の約20平方メートルのバンガローに収容されたままだ。スーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)の男性幹部によると、暑さが厳しく、水が汚いことから皮膚アレルギーの症状が出ているという。”【2月1日 共同】

その政治的影響力はほぼ封じ込められている状況のようです。「前世代の人」との評価も。もっとも、もし解放されれば、再び民主派の中核となる存在でしょう。

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スーチーさんと市民による武装勢力とは完全に分離されています。スーチーさんが彼らや彼女たちを指導している状況にはありません。

市民の武装勢力はもちろん、軍に反対する一般市民はスーチーさんたちの解放を求めていますが、あくまで「市民の権利と義務」を意識して行動しています。スーチーさんは民主化のシンボルでしたが、すでに前世代の人だという認識があるようにも感じます。【2月1日 フォトジャーナリストの宇田有三氏 日系メディア】
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【せめてもの「沈黙のストライキ」】
国軍支配に抵抗する民主派勢力は外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。
そのことは、国軍の厳しい支配下で積極的な抗議は出来ない状況にあり、そうした方法しかとれないという現状を示してもいます。

****ミャンマー“クーデター”から2年 民主派勢力、抗議の意志示す「沈黙のストライキ」呼びかけ****
ミャンマー軍がクーデターを起こしてから、1日で2年です。軍による武力弾圧が続く中、民主派勢力は1日、抗議の意志を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。

ミャンマー軍が全権掌握の根拠としていた非常事態宣言は、先月31日で期限を迎えました。軍は憲法にのっとり、8月までに総選挙を行い、民政移管する意向を示していますが、民意を反映した選挙になるかは疑問視されています。

一方、民主派勢力は1日、外出を控えて軍への抗議の意思を示す「沈黙のストライキ」を呼びかけています。軍の徹底した武力弾圧で、表だった抗議行動はできなくなっています。(後略)【2月1日 日テレNEWS】
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「沈黙のストライキ」すら、国軍の圧力のもとで行うのは非情な決断と覚悟を要します。

【薬物に逃避する若者も それを黙認する国軍】
もちろん武装闘争に身を委ねているような若者らの意思は固いものがあります。
“右手を失った男性「(Q.後悔は?)命をかけて戦っている仲間を思えば、右手くらいなんでもない。ただ、母に伝えた時、母は泣きました。そのことは悲しかったです」”【2月1日 TBS NEWS DIG】

しかし、普通の一般市民にとっては、出口の見えない泥沼状況は耐えがたいものがあり、一部には「薬物」に逃避するような状況もあるようです。また、そうした状況を軍が黙認・誘導しているとも。

****ミャンマー軍事クーデターから2年 軍と民主派の戦闘が泥沼化…市民生活に影 若者の一部に「薬物」まん延も****
ミャンマーで軍事クーデターが起きてから2月1日で2年です。軍と民主派の戦闘が泥沼化する中、電力事情の悪化で停電が続くなど、生活に影を落としています。市民の間に閉そく感が広がり、一部の若者たちの間では「薬物」がまん延。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。
   ◇◇◇
ミャンマーの国境地帯。クーデターに反対する若者たちは、今も軍と激しい戦闘を続けています。一方、最大都市ヤンゴンの車通りはクーデターの直後より戻ってきた印象も。市場にはたくさんの食材が並び、都市部では日常が戻りつつあるように見えます。

しかし、世界銀行によると、ミャンマーでは経済の落ち込みで、貧困ライン以下で暮らす人が2017年(24.8%)から1割以上増え、全人口の約4割に達しているということです。

鶏肉店の店員 「客は3分の2に減った。みんな、お金がないのだと思う」

さらに、市民生活に影を落としているのが、電力事情の悪化による停電です。毎日4時間ほど停電が続く地区もあるといいます。幹線道路では信号機も停電し、商店が立ち並ぶエリアでは至る所で発電機が使われていました。

店のオーナーは、「少しイライラします。電気が止まると(発電機の)ガソリンを買いに行くので、その分、仕事が増えます」と話すなど、市民の間に閉そく感が広がっています。
   ◇◇◇
民主化への道筋が見えない中、抑圧された環境は若者たちを追い詰めています。

かつて抗議デモに参加していた25歳の女性が見せてくれたのは、カラフルな照明が輝くナイトクラブの映像です。1年あまり前、友人に誘われて、初めて訪れた時のものだといいます。

女性(25) 「たくさんのテーブルにパイプや皿を置いて、堂々とドラッグをやっている人たちがいたんです」
話の途中、彼女が突然バッグから取り出したのは、黄色いプラスチック製のパイプ。彼女も薬物を常習するようになっていました。若者の一部でまん延しているのは通称“K”。幻覚作用のある「ケタミン」です。

女性(25) 「ここ(ナイトクラブ)は、ヤンゴンで楽しめる唯一の場所です。私たちはどこへ行っても自由ではありませんから」

無法地帯となっているナイトクラブですが、当局は見て見ぬふりをしているといいます。また、国連薬物犯罪事務所(=UNODC)によると、ミャンマーでは去年、麻薬の原料となるケシの栽培面積が3割以上増えたとの報告もあります。

“黙認”の理由について、別の20歳の女性は「(軍事政権は)若者が政治に興味を持たないよう、注意をそらそうとしています」と話しました。
   ◇◇◇
混迷が深まるミャンマー。国外に逃れようとする若者も後を絶ちません。

29日、ヤンゴンにあるアパートの一室を訪ねると、肩を寄せ合って座る女性たちの姿がありました。国外で職を得るために、英語の勉強をしているのです。地方から出てきた20歳から35歳までの女性9人が、共同生活をしています。パスポートが発行されたら、一刻も早く国外に出るためです。

出国を目指す女性(20) 「母と祖母の体調があまりよくありません。もし、お金があれば2人の治療ができます。稼げるなら“悪い仕事”(売春)以外、何でもやります」

クーデターから2月1日で2年。混迷からの出口はいまだ見えません。【1月31日 日テレNEWS】
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若者が政治に無関心になるように、国軍は意図的に麻薬を流している・・・といった話もよく聞かれるそようです。

【制裁に参加しない日本 結果的に資金が国軍へ】
「力による支配」を強める国軍に対し、欧米は制裁強化で対抗しています。制裁の効果があがっているとは言えない状況ではありますが。

****米と同盟国、ミャンマーに追加制裁発動****
米国は31日、同盟国の英国、カナダ、オーストラリアと協調してミャンマーへの追加制裁を科す。ロイターが入手した米財務省の声明で分かった。(中略)

声明によると、米政府はミャンマーの選挙管理委員会、ともに国営の鉱業関連企業2社、エネルギー関係当局者、現・元軍人に対して制裁を科す。カナダとオーストラリアは1月31日に追加制裁を科した。

財務省の声明によると、今回の米国の制裁では国営のミャンマー石油ガス会社(MOGE)のマネージングディレクターと副マネージングディレクターを対象にする。人権擁護団体は、軍事政権の重要な収入源となっているMOGEに対する制裁を要求してきた。

財務省によると、Myo Myint Ooエネルギー相も対象となる。同氏は国内外のエネルギー部門でミャンマー政府を代表し、石油・ガスの生産と輸出に関わる国有企業を管理している。【2月1日 ロイター】
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日本はこうした欧米の制裁には参加せず、民主派と同時に国軍ともパイプを維持する対応をとっていますが、日本も制裁に参加するように促す声もあります。

****「日本も制裁参加を」=ミャンマー危機で国連報告者****
ミャンマー国軍によるクーデターから2年になるのを前に、同国の人権問題を調べる国連のアンドルーズ特別報告者が31日、報告書を公表した。その中で日本に対し、国軍関係者らへの制裁網への参加や、軍関係者の即時国外追放を促した。

報告書は、ミャンマー国軍が設置した最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」について「正統な政府ではなく、承認されるべきではない」と強調。国連加盟国に対し、承認につながる行動を慎み「SACを外交的に孤立させる」よう求めた。

日本や韓国など、ロシアのウクライナ侵攻で制裁を発動しながら、ミャンマー危機では制裁を見送っている国に対しては「直ちに制裁を科すよう勧告する」と訴えた。【2月1日 時事】
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日本はクーデター以降、経済制裁を強める欧米諸国と一線を画し、対話を探ってきましたが、国軍の強硬さは増す一方です。また、「対話」と言いながらも成果はほとんどなく、日本が手を引いたあとの中国の影響力拡大を経過しているのが本音とも。

新規ODAは停止していますが、既存のODAは続行されており、その資金が国軍支配化の企業に流れており、結果的に国軍支配を資金的に支援している形にもなっています。

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国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、橋梁事業などを手掛ける横河ブリッジが、ミャンマー国軍傘下のミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)に対し、約130万ドル(約1億7000万円)を支払っていたことが判明したと発表した。

松野長官は、バゴー橋建設事業について「交通や物流のボトルネックを解消し、ミャンマーの経済発展を支え、国民生活の向上を促すことを目的とした事業」と説明、「ミャンマー国軍の利益を目的として実施しているものではない」と述べた。【2月1日 ロイター】
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一方的に事業を中断すれば契約違反になる可能性があるとのことで継続されている事業ですが、国軍支配に苦しむミャンマー国民を納得させる理由ではないようにも思えます。

****ミャンマー “非常事態宣言 6か月間延長” 国営メディア****
ミャンマーの国営メディアは、軍が2年前のクーデターに伴って発令していた非常事態宣言を6か月間延長すると伝えました。非常事態宣言は、軍による統治を正当化し、民主派勢力を抑え込む根拠とされてきました。【2月1日 NHK】
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ミャンマー  軍事政権下での治安悪化の様相  なぜ国軍兵士はこれどほに残虐になれるのか?

2023-01-26 23:32:57 | ミャンマー

(炎・黒煙は市民の軍への抵抗運動 【2021年4月12日 伊藤和子氏「市民を虐殺するミャンマー国軍。日本政府・企業は軍と国民、どちらに立つのか?」YAHOO!ニュース】

【国軍が警察を民主派への弾圧に使う構造になり、警察の治安維持機能は喪失】
軍事政権支配が続くミャンマーでは治安が悪化し、日本人の被害も報じられています。
現地日本大使館は、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。

****ミャンマー 日本人刺されけが 経済落ち込み治安悪化****
ミャンマーの最大都市ヤンゴンで14日、日本人男性1人が刃物のようなもので刺されてけがをしました。現地の日本大使館によりますと男性は、病院に搬送されて手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーにある日本大使館によりますと、ヤンゴンで現地時間の14日午後9時ごろ日本人男性2人が路上を歩いていたところ複数の男に襲われ、このうち1人が刃物のようなもので刺されて、病院に運ばれました。
男性は胸のあたりにけがをしたということですが、手当てを受け、命に別状はないということです。

ミャンマーでは軍によるクーデター以降、経済が落ち込み都市部では強盗が数多く起きるなど治安が悪化していることから、日本大使館では現地にいる日本人に対して、夜間だけでなく日中の時間帯でも安全に注意するよう呼びかけています。【1月16日 NHK】
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治安悪化の背景にあるとされる経済の悪化は、軍事政権の統治能力の不十分さを示すものでもありますが、治安悪化はそれだけでなく、軍事政権のより直接的な行為・姿勢の結果だとする見方もあります。

ひとつは、国軍の影響下にある警察は、強盗などの一般犯罪より、民主派弾圧を目的とする組織となってしまっているということ。

国軍が警察を支配下に置き、民主派への弾圧に警察を使う構造になり、警察の治安維持機能は失われてしまっているという指摘も。

ミャンマーでは路線バス強盗がしばしば起きており、犯人たちは突然バスに乗り込み、凶器をちらつかせて乗客から金品を奪うとのことですが、警察はこういう犯罪にほとんど対応していないとか。

あまりに出来過ぎた話なので実際の話ではないと思われますが、下記のような話がミャンマー国内SNSで拡散しています。

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強盗が乗っているバスの乗客の若い女性が、バスの窓から国軍に抗議する民主派の人々のサインである3本指を突き出し、近くにいた警官にアピールした。

普段は強盗には反応しない警察がこの「3本指」に反応してバスに乗り込み、バス強盗犯はそれを見て逃走、女性は助かった。
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“出来過ぎた”話ですが、出来過ぎにしても現地の実情を反映した話でしょう。

【国軍は恩赦で釈放された元犯罪者で民兵組織強化 恩赦で治安悪化】
治安悪化のもう一つの要因は、軍事政権が行っている「恩赦」 1月4日にも独立記念日似合わせて7千人ほどの恩赦が行われるとの発表がありました。

国軍は恩赦で釈放された人たちを手なずけ、国軍を支持する民兵組織」の増強を図っているとの指摘も。

民兵組織は、国軍が手を下したとわかると問題になるような、残忍な攻撃や略奪などを担うことでも知られています。

国軍が恩赦を使って元犯罪者を暗躍させ、市民の不安を煽っているという意図的行為なのかどうかは知りませんが、もし、元犯罪者による民兵組織強化ということが事実なら、恩赦そのものがほとんど軍事政権による犯罪的行為になります。

【軍事政権支配による経済・社会混乱によってケシ栽培増加】
軍事政権支配による経済・社会混乱の結果は、ケシ栽培増加という形でもあらわれています。

****ミャンマーでケシ栽培が大幅増、軍政移行が背景=国連報告****
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が26日公表した報告書によると、軍政下のミャンマーで昨年、麻薬の原料となるケシの栽培が33%増加し、6年連続の減少から反転した。

UNODC当局者は、この増加は2021年2月にクーデターで軍政となって以降の政治・経済混乱と「直結している」と指摘。

地域担当者は「軍政移行以来、経済、治安、統治の途絶が重なり、紛争地帯を中心とするへき地の農民はケシ栽培に戻る以外ほとんど選択肢がなくなっている」と述べた。

UNODCのミャンマー担当者は、「選択肢がなく経済が安定しなければ、ケシの栽培は今後も拡大する公算が大きい」と述べた。

ケシ栽培は、中国、タイ、ラオスと国境を接する東部シャン州で最も増加した。【1月26日 ロイター】
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【民主派との戦闘で村を焼き払い、避難民増加】
一方、国軍は民主派との戦闘で村を焼き払っており、避難民が増加しているとの訴えが。

****ミャンマー、村焼き払い避難民増 民主派が訴え****
ミャンマー国軍によるクーデターから2月で2年となるのを前に、在日ミャンマー人や支援者らが21日、東京で記者会見した。

民主派が組織した国民防衛隊の一員として国軍と戦闘を続け、北部ザガイン地域の司令官を務める男性がオンラインで現地から出席し「村は焼き払われ国内避難民が苦しい生活を送っている」と訴えた。国軍の空爆に「市民が巻き込まれている」と批判。「対抗するための武器が足りず苦戦している」と明かした。
 
国内避難民は増加傾向でUNHCRによると昨年11月時点で140万人を超えた。支援団体「ミャンマーの平和を創る会」はクラウドファンディングで寄付を募っている。【1月21日 共同】
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【ミャンマー国軍兵士はなぜこれほどまでに市民に残虐になれるのか?】
ラカイン州でのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する虐殺・レイプ・放火でもそうですが、ミャンマー国軍の暴力行為はしばしば指摘されるところです。

そのあたりの国軍兵士の残虐性などの実態について、国軍を脱走した元軍医が下記のように証言を。

****あるミャンマー脱走軍医の告白──酒と麻薬の力を借りて前線に赴く兵士とその残虐性****
<軍に洗脳され、アルコールと薬物に依存する兵士は、普通の精神状態ではできないような残虐行為にも手を染める。軍による兵士の搾取も横行している>

ミャンマー(ビルマ)で2021年2月1日に軍事クーデターが起きてから、間もなく2年。同国では、国軍と少数民族武装勢力、民主派の軍事部門である国民防衛隊(PDF)による内戦が続く。

市民に対する国軍の苛烈な弾圧が頻繁に報じられ、民間人を巻き込んだ空爆や村落への放火、女性や子供に対する銃撃など、国際人道法を無視した暴力が横行している。

なぜ国軍兵士は、これほどまでに無辜(むこ)の市民に残虐になれるのか。

クーデター後に国軍を脱走し、今はタイ領内のミャンマー国境付近で潜伏生活を送る元軍医(30代前半)に昨年12月、現地で取材。国軍内部で体系化されているという洗脳の手法や、兵士に対する搾取、国軍総司令官ミンアウンフラインの知られざる素顔を聞いた。(聞き手はジャーナリストの増保千尋)

◇ ◇ ◇
(中略)
――クーデター前にも国軍に失望したことはあったか?
軍では多くの人権侵害が横行していた。私が最も許せないのは、戦闘によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した兵士に何の治療も施さないことだ。彼らは酒と麻薬の力を借りて、前線での任務を継続している。

この国では70年以上、内戦が続いていて、多くの兵士がPTSDを抱えている。だが、病院で治療を受けられるのは、精神に異常をきたしたと明らかに分かる人だけだ。

今は国中で戦闘や殺し合いが起きているから、PTSDになる人も増えている。私の見立てでは、脱走兵の5、6割がPTSDに苦しんでいると思う。

ほかの脱走兵に聞いたところによれば、精神的な不調を抱えながら前線に立つ兵士のほぼ全員が酒と麻薬を服用しているという。兵士たちは国境警察から麻薬を入手しているそうだ。酒と麻薬を摂取すれば恐怖心が薄れ、村を焼くといった、普通の精神状態なら決してできないような行為も抵抗なくやれるという。

――だから国軍兵士は、一般市民にも暴力を振るうことができるのか?
兵士たちが一般市民にあそこまで残虐になれるのは、軍内部で洗脳されているからだ。民主化運動を率いる国民民主連盟(NLD)が政権を取ればこの国は破滅に向かい、仏教が脅かされ、他国に支配されると、彼らは上官に長年言われ続けてきた。

兵士たちの多くはこの話を信じ、自分たちは祖国を守っていると思っている。実際には、全く正反対のことをしているというのに。

彼らは(戦闘から離脱した兵士、捕虜、武器を持たない一般市民の人道的な取り扱いを定めた)国際人道法について何も知らないし、兵士としての倫理観も持ち合わせていない。彼らはただ、上官に盲目的に従うように訓練されている。

戦場で彼らに善悪の判断がつくとは思えない。村に火を放ち、子供を殺しても、それは国軍兵士にとっては特別なことではないのだろう。
私が救出した脱走兵の中には、軍に在籍していた当時、なぜPDFや少数民族と戦わなければならないのか、理解していなかったという人もいた。彼らはただ、命令に従っていた。特にイデオロギーを持たない兵士も多い。

それに兵士の生活は非常に貧しく、厳しい。任務は過酷で、休みもない。追い詰められると、兵士たちは前線に行きたがる。そこで死に瀕しているときに、彼らは幸福すら感じると言っていた。もうこれ以上、過酷な任務に耐えなくてもいいからだ。

一方、国軍の中には悪賢い人たちもいる。軍が権力を握っている限り、自分たちは富を手に入れられると考えるたぐいの人たちだ。そういう欲深いやからは、自分の財産と地位のために、できる限り長くこの内戦が続いてほしいと願い、やはり軍の命令に従う。つまりミャンマー国軍は、愚か者と強欲な者で成り立っているということだ。

――そうした洗脳が有効なのは、兵士たちが社会から隔絶されているからか。
そのとおりだ。クーデターの前も後も、兵士たちの行動は厳しく制限されているし、簡単には除隊できない。兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。

さらに、兵士たちは自由にSNSを使えない。見ることのできないメディアがある一方、軍のプロパガンダ番組は強制的に視聴させられる。

――兵士を洗脳する方法が体系化されているということか。
非常に体系化されている。兵士たちは今、民主化運動に参加する市民こそ「売国奴」で「テロリスト」で、彼らを銃撃することは英雄的な行為だと教え込まれている。

07年に僧侶たちが反政府デモ(サフラン革命)を起こしたときも、同じような洗脳の手法が使われた。兵士たちは非常に若い頃から洗脳されている。彼らは、「劣悪なプログラムで動くロボット」みたいなものだ。

(中略)
――兵士はどんな出自の人が多い?
貧しい地方出身者で、ちゃんとした教育を受けていない人が多い。中には読み書きできない人もいる。クーデター後は人員不足から、国軍は犯罪者をリクルートしている。刑に服するか、軍に入隊するかを選ばせるのだ。100万から200万(約6万~12万円)の支度金と引き換えに、入隊する人もいる。これはほとんど人身取引だ。

――脱走する兵士は増えている?
増えている。除隊の許可を得るのは、不可能に近いからだ。腕や足を失っても、退役の年齢を過ぎても、何らかの仕事をさせられる。除隊できても、満足な年金をもらうこともできず、多くの退役兵が困窮する。
脱走する兵士が増えているせいで、国軍の兵力は急速に落ちている。(民主派が樹立した)国民統一政府(NUG)が脱走兵に対し、金銭的・法的支援や安全な場所を提供している。食料などを支給してくれる民間の団体もある。

だが、私たち兵士は軍で人質のような生活を送ってきたし、洗脳もされているから、脱走後の暮らしは大変だ。ここで軍の追っ手やタイ警察に見つかったら、ミャンマーへ連れ戻される懸念もある。

――ミンアウンフラインに会ったことはあるか?
3回ほどある。初めて彼を見たのは、軍医学校の卒業式のときだった。総司令官になる前から、彼の悪名は知られていた。

多くの将校が、陰で彼を「猫のふん」と呼んでいた。一見、人当たりはいいが、実は狡猾な彼の人柄にちなんで付けられたあだ名だ。猫のふんは柔らかいけど、非常に不愉快な臭いがするからだ。彼を初めて見たとき、あだ名どおりの印象を持った。

その後、配属された病院で2回ほど彼に会った。彼が来ると兵士たちは、「業者が仕事を探している」と冗談を言った。病院を訪れると彼はいつも、物資発注や、老朽化した建物の修復、新しいビルの建設をするように指令を出したが、こうした仕事は全て彼の親族が所有する企業が受注したからだ。

彼はさまざまな方法で私腹を肥やしていた。兵士は(共に国軍系の巨大複合企業である)ミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)の株を無理やり買わされる(両者ともミンアウンフラインを含む国軍幹部が経営に大きな権限を持ち、その利益は軍事作戦などの資金源になっている)。

また、彼が関与する生命保険会社にも強制的に加入させられる。死亡後に家族が給付金を受け取ることは非常に難しいが、誰もそれに文句を言えない。彼が設立した私立病院で、国軍に所属する医療従事者を無償で働かせていたこともある。彼の悪行をあなたに全て伝えたら、本が1冊出版できるだろう。

――ミャンマー国軍と日本の政財界には深いつながりがある。それを実感したことはあるか?
ミャンマー国軍は旧日本軍を手本につくられたと聞いているが、現在の編成などは英軍のそれに近い。国軍は日本の政治家と深くつながっていると思う。

例えば軍事クーデター後も、日本の防衛省は国軍兵士を招聘し、軍事訓練を行っていた(昨年9月に停止を発表)。安倍晋三元首相も、国軍とよい関係を築いていたと聞いている。

私の目からは、日本はミャンマーの状況を傍観しているように見える。おそらく日本政府は、NUGと国軍のどちらが政権を握るかにこだわりはなく、ただミャンマーと外交的、経済的な関係を保持したいのだろう。

その事情は理解できるが、日本には軍事政権にもっと強く圧力をかけてほしい。ロシアや中国とは違い、日本政府は私たちを支援してくれるはずだと、今も多くのミャンマー市民が信じている。

――ミャンマーの未来に何を望む?
私たちが国軍と戦う意思を貫ければ、自分たちにふさわしい政府を手に入れられるだろうし、そうでなければ、これからも軍事政権が続くのだろう。2年間戦い続けて簡単には勝利できないと悟った。これからも多くの戦いが必要だろう。

だが、私たちは優勢に立ちつつある。たとえ負けるのだとしても、私は歴史における「正しい側」でありたい。いつかきっと私たちが勝利し、民主的な政府を樹立できると信じている。【1月26日 Newsweek】
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国軍を脱走してほかの脱走兵の手助けをしている人物の証言ですから、一方に偏っている可能性はあります。

“酒と麻薬”(アフリカなどの武装勢力でも聞く話です)や“洗脳”(どこでもやっている話でしょう)より印象的だったのは、“兵士の家族も基地に住まわされ、抑圧される。下士官の妻は、上官の妻のメイド代わりにこき使われる。任務に就いているときは、家族を基地に置いていかなければならないから、人質代わりでもある。”ということ。

国軍に好意的な解釈をすれば、兵士だけでなく、その家族の面倒をみている・・・ということになるのかも。

“メイド代わり”“人質代わり”なのか、“家族まで面倒をみている”のか・・・どっちが真実に近いのか?

ミャンマー国軍兵士の精神構造については下記のような指摘も。

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「イラワジ」は報道の中で「ヒエラルキーの末端、下部にいる兵士個人は、軍隊内で奴隷のように虐待を受けている」として軍少佐の「兵士は何らかの理由で自分より高い階級の人を常に恐れている」という言葉を引用し、軍隊内部における下級兵士の精神状態を説明している。

そして「軍の内部で残忍に扱われた兵士がそれを自分たちより弱い立場の民間人に向けることはなんら不思議ではない」としている。つまり「恐怖の論理」が残虐行為へと向かわせるというミャンマー軍独特の性質に原因が求められるというのだ。【2022年7月21日 大塚智彦 現代】
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ミャンマー  軍事政権、ロヒンギャ排斥を煽る“怪僧”ウィラトゥ師を表彰 民主派若者の悲痛な叫び

2023-01-04 23:04:38 | ミャンマー
(ミャンマーの首都ネピドーで、ミンアウンフライン国軍総司令官(右手前)から称号を授与されるウィラトゥ師(左手前)【1月4日AFP】)

【スー・チー氏裁判結審 選挙前に民主派一掃を狙う】
ミャンマーでは軍事政権によるアウン・サン・スー・チー氏に関する19件すべての裁判が結審しました。禁固刑は合計で33年。今年8月までに行われる予定の「民主的選挙」前にスー・チーら民主派勢力の一掃を図る軍事政権の狙いがあるとのこと。

****ミャンマー、スー・チーの裁判が結審 禁固刑合計33年で政治生命絶つ狙いか****
<軍政主導の「民主的選挙」前にスー・チーら民主派勢力の一掃を図る?>

ミャンマーで軍事政権の強い影響下にある首都ネピドーの裁判所は12月30日、2021年2月1日の軍によるクーデターが起きるまで民主政府の実質的指導者だったアウン・サン・スー・チー氏に対し汚職などの容疑5件について禁固7年の実刑判決を言い渡した。

これでスー・チー氏の裁判は19件すべての審理が結審したことになり、言い渡された禁固刑の合計は33年となった。

ミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍事政権は2023年8月までに「民主的選挙」を実施することを発表しており、年内にスー・チー氏の裁判をすべて終えて、2023年からは選挙実施に専念したいとの軍政の意向が12月30日の「全ての裁判で結審、判決」に反映したとみられている。

クーデター発生当日にネピドーの自宅で身柄を拘束されて以来、スー・チー氏は自宅軟禁下に置かれ、その後ネピドー郊外の刑務所に収監となり、19件の容疑で訴追され被告の身となっていた。この間1度だけ法廷でのスー・チー氏の写真が公開されたものの、消息や動向は弁護士を通じて伝えられるだけだった。

そして刑務所収監後は刑務所内の特別法廷で裁判が続き、独房での様子が断片的に漏れてくるだけだった。健康問題には変化ないものの、自宅軟禁時に一緒だった馴染みのお手伝いさんや愛犬の「同行」は許されず、孤独な日々を送っていたという。

また裁判所が弁護団に対して「法廷での被告の様子を海外メディアなどの部外者に公表することを禁ずる」と命じたため、スー・チー氏の健康状態を含めた状況はほとんど外部に伝えられることはなくなってしまった。

弁護団は以前、スー・チー氏は訴追されたすべての裁判で「事実無根である」として容疑を全面的に否定していることを明らかにしていた。

このため公判でスー・チー氏は無罪を主張したものの、軍政の意向を反映して公平、公正な裁判とはかけ離れた審理が進められた。その結果スー・チー氏は訴追されたすべての裁判で有罪となり禁固刑という実刑判決を受けた。

軍政は2023年に「民主的選挙」を計画しているが、スー・チー氏や民主政府の与党でスー・チー氏が率いていた「国民民主連盟(NLD)」関係者らの参加を阻止し、スー・チー氏の政治生命を完全に絶ち、民主派勢力の動きを封じ込めたい考えだ。今回の禁固刑の判決もこうした軍政の意向が色濃く反映された結果になったといえる。

抵抗勢力との戦闘激化
軍によるクーデター発生から間もなく2年を迎えるミャンマーだが、国内の治安は依然として不安定は状態が続いている。

これは国境周辺を拠点とする少数民族武装勢力やクーデター発生後に民主派が組織した反軍政組織「国民統一政府(NUG)」が組織した武装市民勢力「国民防衛軍(PDF)」が各地で軍と戦闘を続けていることが主な要因だ。

軍政は力による抵抗勢力掃討に力を入れるあまり、無実、非武装、無抵抗の一般市民が多数戦闘に巻き込まれ、暴行、拷問、虐殺といった人権侵害が多数発生する事態になっている。【12月30日 大塚智彦氏(フリージャーナリスト) Newsweek】
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【軍事政権 ロヒンギャ排斥を煽る“怪僧”ウィラトゥ師を表彰】
軍事政権は一方で独立記念日に大規模な恩赦も行うとのこと。イメージアップのためでしょうか。政治犯が対象になるかは不明です。

****ミャンマー軍事政権、独立記念日で7000人恩赦 政治犯含むか不明****
ミャンマーの国営放送MRTVは4日、軍事政権が同国の独立記念日に際して7012人に恩赦を与えると報じた。

報道によると、殺人や性的暴行で有罪判決を受けた者や、爆発物、不法結社、武器、麻薬、汚職など関する罪で収監された者は今回の恩赦い含まれないとしている。政治犯が対象になるかどうかは明らかでない。(中略)

ミンアウンフライン国軍最高司令官は独立記念日の演説で「あらゆる圧力、批判、攻撃の中で(ミャンマーに)積極的に協力してくれた国や組織、個人に感謝の意を表したい」と述べた。

「われわれは中国、インド、タイ、ラオス、バングラデシュといった近隣諸国と緊密に連携している。国境の安定と発展のために協力する」と表明した。【1月4日 ロイター】
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個人的に注目したのは、軍事政権が“ある人物”を表彰したことです。

****ミャンマー国軍、「仏教徒のビンラディン」を表彰****
ミャンマー軍政は3日、宗教的憎悪をあおり「仏教徒の(ウサマ・)ビンラディン」とも称される高僧ウィラトゥ師に、称号を授与したと明らかにした。

国軍の情報部門によると、ウィラトゥ師に授与したのは「ミャンマー連邦のために優れた功績を残した」人物に贈られる「ティリピャンチ」。

4日の英国からの独立75年を前に行われた授与式典には、ミンアウンフライン国軍総司令官が出席した。式典ではウィラトゥ師のほか、数百人が称号や賞を授与された。

ウィラトゥ師は、特にイスラム系少数民族ロヒンギャに対する反イスラム的な国粋主義で知られている。 【1月4日 AFP】
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「仏教徒のビンラディン」とも称される“怪僧”ウィラトゥ師については、5年ほど前に何回か取り上げたことがある、イスラム系少数民族ロヒンギャ排斥の指導者です。


“怪僧”ウィラトゥ師は軍事政権・ミンアウンフライン国軍最高司令官とも太いパイプを持つ差別主義者ですが、彼が民衆から支持されるにはそれなりの背景もあります。

****ロヒンギャを弾圧する側の論理****
(中略) ラカイン州はミャンマー南西部を南北に走るアラカン山脈によって、最大都市ヤンゴンから地理的に分断されている。1785年にビルマ人に侵略されるまでアラカン王国という独立国家が栄えていたこともあり、ラカインの文化はミャンマーの多数派であるビルマ人のものとは人きく異なる。
 
ラカイン州はロヒンギャのホームランドだが、6割以上は仏教徒のラカイン人だ。ラカイン人もまたミャンマーの少数民族で、中央政府からの差別や搾取に長年苦しんできた。それ故、ラカイン州の貧困率は78%と全国平均37.5%(世界銀行2014)を大きく上回っており、国内で最も高い。(中略)

イスラム教徒への嫌悪感
そんなラカイン人が不満のはけ口にしているのが、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する差別だ。

ロヒンギャの祖先は英国植民地時代にベンガル地方からミャンマーにやって来たと言われているが、70年代後半から不法移民として扱われるようになった。現在は無国籍の状態にあるため、教育や医療、福祉といった基本的な公共サービスにアクセスできず、多くの大が貧困と差別、そして断続的な武力弾圧に苫しんでいる。
 
ラカイン人は普段は礼儀正しく親切だが、ロヒンギャの話題になると急に嫌悪感をむき出しにする。(中略)
 
ミャンマー市民にロヒンギャに対する憎悪を植え付けるのに一役買っているのが、13年に発足した強硬派の仏教徒集団「国家と宗教保護のための委員会(通称マバタ)」だ。マバタの前身は「969運動」と呼ばれた反イスラム団体で、それを扇動してきたのが「ミャンマーのウサマ・ビンラディン」の異名を持つ怪僧アシン・ウィラトゥ(50)である。(中略)

利権に群がる軍と中国
(中略)なぜ、ウィラトゥやマバタはこれほどまでにミャンマーの人々を魅了するのだろうか。シットウェにマバタの僧院を構える仏教僧ウーナンダバータ(51)は、「マバタが地域のセーフティーネットの役目を負っているからだ」と話す。(中略)
 
マバタは貧困者、少数民族被災者、女性に対する支援を積極的に行っている。食糧を施すだけでなく、学校建設に無償教育の提供、女性の積極的な雇用など、その内容は多岐にわたる。
 
ミャンマーで広く信仰されている上座部仏教は、修行の妨げになるという理由から、世俗的な活動を禁止している。ある仏教研究者によれば、戒律の厳守を重んじるミャンマーの仏教界において、僧侶たちが「俗世間の人々」のために奉仕活動をするのは珍しいという。(中略)

ラカイン人には、ビルマ人に対する根強い不信感もある。ラカイン州は、天然ガスや石油などの天然資源が豊富な地域だ。ところが、地理的な遠さやロヒンギャ問題のせいで、民主化前から軍部と深く結び付く中国以外に外資の進出は進んでいない。
 
ラカイン州のリ党であるアラカン国民党(ANP)の書記長フタンアウンチョーによれば、天然資源から生じる利益は中国と中央政府が独占しており、地元ラカイン人にはほとんど還元されていない。

ミャンマー政府とスーチーに対するラカイン人の評価は辛辣だ。フタンアウンチョーもこう不満を吐露した。「われわれは独立以来、ずっと差別に苫しんできた。アウンサンスーチーが返り咲いたときにやっと状況がよくなると思ったが、全く期待外れだった。政府はラカインの開発から得た利益を地元住民に還元すべきだ」
 
その一方で、マバタは信者に貧困の原囚と解決方法を明示してくれる。原因とはイスラム教徒であり、彼らを排斥することが貧困から抜け出す道なのだと。
 
そして、こうしたマバタの活動を支える潤沢な資金の源は、大勢の在家者によるお布施以外に軍部にもある。
ロイター通信によれば、ウィラトウは軍部出身の元宗教相サンシンに重用されてマバタの勢力を拡大した。また、ミャンマー紙イラワジは、ウィラトウと国軍司令官ミンアウンフラインとの間に太いパイプがあると報じている。(中略)

さらに、掃討作戦が起きたロヒンギャの居住地の近くには、中国の投資金融グループ「中国中信集団(CITIC)」が港や経済特区を建設しようとしている。

ミャンマー政府は17年9月、掃討作戦で空いたロヒンギャたちの居住地を「再開発」する目的で管理すると発表した。
 
ミャンマーの宗教対立の原因を「民衆を扇動する過激な仏教僧」と「少数民族を弾圧する無慈悲な多数派」のせいにすることは簡単だ。だが、マバタやウィラトゥもこの搾取構造の駒の1つにすぎないのではないか。

無垢な市民の妄信によって反イスラム運動は拡大し、ロヒンギャ危機は臨界点に達した。解決には、マバタやラカイン人といった表舞台の人間だけでなく、水面下で暗躍する「悪」を追及する必要がある。

そしてマバタの僧侶や市民もまた、自らに問いただすべきではないだろうか。自分の頭で考えることを放棄し、悪の甘言を信じ続けた罪はどれはどの重さなのかと。【2018年11月20日号 Newsweek日本語版】
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いずれにしても、“少数民族ロヒンギャを排斥することが貧困から抜け出す道”と扇動する“怪僧”ウィラトゥ師と実際に虐殺・レイプ・放火でロヒンギャを国から追い出した軍事政権・・・実にわかりやすい組み合わせです。

もっとも、軍事政権にとっては利用価値次第で、前軍事政権下の2003年には、暴動をあおったとして逮捕、投獄されています。

また2019年のスーチー政権下では、集会でスーチー氏について「化粧することや着飾ること、ハイヒールで歩くことしか知らない」などと侮辱発言して逮捕状が出され、1年以上逃亡していましたが、2020年11月に出頭しています。

【手製の武器で戦う民主派若者 「世界はウクライナほどミャンマーに関心を持ってくれない」】
最後に、ミャンマーの現状について、武力闘争で軍事政権に抵抗する民主派若者の声。

****泥沼のミャンマー内戦 若者の悲痛な叫び「ウクライナほど関心を持ってくれない」****
軍事クーデターが起きたミャンマーで、内戦が泥沼化している。空爆など暴力をエスカレートさせる軍。手製の武器で対抗する民主派。「世界はウクライナほどミャンマーに関心を持ってくれない」。ミャンマーの人たちは、忘れられていくことに危機感を抱いている。

■双子の弟を殺害された男性「世界は見て見ぬふりをしている」
2021年に起きたクーデターのあと取材で出会い、いまも連絡を取り合っている20代のミャンマー人男性がいる。男性はいま、母親を最大都市ヤンゴンに残し、父親とともにタイの国境地帯に避難している。民主派勢力に食料や寄付金を届ける活動を続けているという。

男性の双子の弟はクーデターの直後、軍への抗議デモに参加し、治安部隊に射殺された。その2か月後、男性は取材に対し「若者には誰でも夢を持って生きる権利があります。何かが間違っています」と、涙をこらえながら語っていた。あれから1年8か月。自らとミャンマーの現状について、SNSでメッセージを送ってくれた。

「クーデターで日常は完全に変わってしまいました。人々は恐怖と不安におびえながら、軍政下で生き延びようとしています。離ればなれになった母親には無事でいてほしいです。困難を抱えた生活の中では、“生きている”と感じられない時があります」

「いま、ミャンマーで起きているのは、軍と国民の内戦です。軍は自らの権力を維持するために、同胞を殺すことをためらいません。私たちが終わらせない限り、虐殺は今後も続くでしょう」

男性もほかのミャンマー人と同様、軍への抵抗を「革命」と呼ぶ。「ミャンマーの現実を世界は見て見ぬふりをしています。世界はウクライナの問題ほど、ミャンマーで続いている革命に関心を持ってくれません」。忘れられていくことに強い危機感がにじむ。

■増え続ける死者と国内避難民
ミャンマー軍に焼き打ちされた村(Irrawaddy)ミャンマーではいま、内戦が泥沼化している。民主派の武装勢力「国民防衛隊」は、少数民族から軍事訓練を受けてゲリラ戦を展開。一方の軍は、空爆や村の焼き打ちなど無差別攻撃を繰り返し、無抵抗な市民の犠牲者は増え続けている。

現地の人権団体によると、軍の武力弾圧による死者は2600人を超えた。国連機関によると、ミャンマー全土でクーデター以降、110万人以上が住む家を追われ、国内避難民となっている。

現地では何が起きているのか。激しい戦闘が続く北西部ザガイン管区の「国民防衛隊」3人がオンラインで取材に応じ、前線の生々しい状況を証言した。

■手製の武器で応戦する「国民防衛隊」
国民防衛隊の大隊長 ※本人の希望でモザイク不要インターネットが辛うじてつながるというジャングルの小屋で、37歳の大隊長は、1953年製の小銃を手元に置いたまま「戦闘は昼夜を問わず発生する」と話し始めた。

「寝ていた午前2時ごろ、軍の部隊が突然現れて戦闘になることがある。これまでに62人の隊員が犠牲となった。軍の攻撃に(抵抗のサインである)3本指を立てたことで、頭を撃ち抜かれた仲間もいる」

「軍はいま、ロシア製の軍用ヘリコプターで、近くの基地から15分ほどでやってくる。上空から見えるものすべてを撃ってくる。人間を人間と思っていない」

大隊長は手製の武器の写真を見せてくれた。大部分が木製の小銃とビニールテープが巻かれた手りゅう弾。「我々は軍と同じレベルで戦いたいが、武器や弾薬が不足している」

クーデターの前は学生だったという22歳の隊員は、国民防衛隊に入った理由について「市民を拷問する兵士を見て、独裁者を倒さなければならないと思った」と話した。

「死ぬのは怖くない。独裁政権から解放されないことのほうが怖い」と強がる隊員だが、家族は心配していないのかと尋ねた時、はにかみながら「ケガをした時は、無性に家が恋しくなる」と明かした。

■声なき声に耳を傾けて
クーデターから間もなく2年。国際社会は事態打開の糸口すら見つけられていない。

ミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は2022年12月の社説で、軍事政権と関係を深めるロシアや友好関係を維持する中国とインドを名指しし、「この軍政の寿命は短く、付き合うと裏切られると分かっているはずだ。ヒトラーと友達になるようなものだ」と皮肉った。

その一方で、アメリカの議会がミャンマーの民主派勢力に非軍事的な支援を可能にする法案を可決したことを「心強い」と歓迎した。「これまでミャンマーに関わってきた欧米の友人たちは、抑圧されたミャンマー国民を見捨てず、長年の友人として立ち上がり、支援するべきだ」と強調する。

ミャンマーの人たちは国際社会の言動を注視している。ロシアのウクライナ侵攻の陰に潜む、声なき声に耳を傾けてほしいと訴えている。【12月31日 日テレNEWS】
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「ならず者国家」ミャンマー軍事政権との付き合い方

2022-10-14 23:04:44 | ミャンマー
(外務省前でデモをする在日ミャンマー人の人たち=東京都千代田区で2022年8月19日【8月19日 毎日】)

【改善が見えないミャンマー情勢】
ミャンマー情勢については、9月21日ブログ“ミャンマーで弾圧を受けるロヒンギャの現状 ミャンマー国内では民主派・国軍戦闘で市民に犠牲も”で、北西部ザガイン地方域にある村の僧院学校が軍のヘリコプターから空爆を受けて児童11人が死亡した事件などを取り上げました。

その後も状況は好転していません。
国軍による軍事政権はスー・チー氏への罪状を積み重ねています。

****スーチー氏と豪人元経済顧問、公務秘密法違反罪で禁錮3年=関係筋****
9月29日 軍事政権下のミャンマーの裁判所は29日、国家顧問兼外相だったアウンサンスーチー氏と同氏の元経済顧問であるオーストラリア人のショーン・ターネル氏に公務秘密法違反の罪で禁錮3年の刑をそれぞれ言い渡した。(後略)【9月29日 ロイター】
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どのような「国家機密」を漏らしたのかは明らかにされていません。
更に・・・

****アウンサンスーチー氏に新たに「禁錮3年」の判決 刑期は合わせて26年****
(中略)12日、ミャンマー国軍が設置した特別法廷は実業家の男性から合わせて55万ドル、日本円で約8000万円を受け取った汚職の罪でアウンサンスーチー氏に禁錮3年の判決を言い渡した。これまでに14の罪で有罪判決が下されていて、刑期は合わせて26年に上っている。

スーチー氏は去年2月のクーデター以降拘束が続いているが、関係者によると、この日の法廷で健康状態に問題はなかったという。スーチー氏は、訴追されている他の複数の容疑での裁判手続きもあり、拘束はさらに長期化する見通しだ。【10月12日 ABEMA Times】
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ミャンマーで抗議デモを撮影中に拘束された久保田徹さんについても、禁固刑が。

****ミャンマーの裁判所が久保田徹さんに有罪判決 扇動罪で禁錮3年、電子通信に関する罪で禁錮7年****
ミャンマーで抗議デモを撮影中に拘束されたドキュメンタリー制作者の久保田徹さんに対し、現地の裁判所は、扇動罪で禁錮3年、電子通信に関する罪で禁錮7年の有罪判決を言い渡しました。量刑は合わせて禁錮7年とみられます。

ドキュメンタリー制作者の久保田徹さんは今年7月、最大都市・ヤンゴンで軍への抗議デモを撮影して、治安当局に拘束されました。

その後、入国管理法違反や扇動罪などで訴追されていて、ミャンマー当局は、久保田さんはデモの場所や日時について、参加者と連絡を取っていたと主張していました。(中略)

久保田さんをめぐっては、他にも、観光ビザで入国し取材したとして、入国管理法違反でも裁判が続いています。
現地の日本大使館は早期の解放を求めていますが、拘束の長期化が懸念されています。【10月6日 日テレNEWS】
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****ミャンマーで拘束の久保田さん、新たに禁錮3年 刑期計10年に****
クーデターで全権を握ったミャンマー国軍の統制下にある裁判所は12日、入国管理法違反の罪で、最大都市ヤンゴンで治安当局に拘束されたドキュメンタリー映像作家、久保田徹さんに禁錮3年の判決を言い渡した。久保田さんは既に電子通信に関する罪などで禁錮7年の実刑判決を受けている。刑期は合わせて10年になる見通し。

国軍は久保田さんが観光査証で入国したにも関わらず、取材活動をしていただけではなく、自らも国軍支配に反発する抗議デモに参加していたと主張している。【10月12日 産経】
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一方、ユニセフによれば、激しさを増す国内の国軍・親軍事政権派民兵と民主派武装組織の間の戦闘で、家を追われる国内避難民は100万人を超えているとのこと。

****ミャンマー、クーデター以降の国内避難民100万人超に ユニセフ****
国連児童基金(ユニセフ)によると、ミャンマーで昨年起きた軍事クーデター以降の国内避難民が100万人を超えた。

6日のユニセフ発表によると、民主化指導者アウンサンスーチー氏率いる政権を転覆させた昨年2月1日のクーデター以降、先月までに101万7000人が国内避難民となっている。

国内避難民の半数以上は、国軍・親軍事政権派民兵と民主派武装組織の間で激しい戦闘が行われている北西部ザガイン地域の住民だという。

同地域では先月も国軍が学校を攻撃し、少なくとも11人の児童が死亡した。軍は、潜伏していた民主派勢力を標的にしたものだと主張している。

国連人道問題調整事務所は、クーデター以降、ミャンマー全土で民家など1万2000棟以上が焼かれたり破壊されたりしたと推計している。

危機打開に向けた外交努力も停滞している。東南アジア諸国連合は昨年、軍事政権と民主派勢力の対話や人道支援提供の促進を目指すことなどで合意したが、軍事政権側はほとんど履行していない。 【10月9日 AFP】
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【国軍とASEANの関係も悪化】
上記記事最後にあるように、ASEANとミャンマー国軍の関係も悪化しています。

****ASEAN首脳会議不参加 ミャンマー国軍、反発か****
昨年2月のクーデターで実権を掌握したミャンマー国軍が、来月にカンボジアの首都プノンペンで開かれる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議や一連の定例首脳会合に参加しない方針を示したことが5日、ASEAN外交筋への取材で分かった。

外交筋によると、議長国のカンボジアが「非政治的な代表者」の派遣を求め、国軍側は反発した。国の代表者に当たらないと判断したとみられる。

ASEANのミャンマー問題特使を務めるカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相は8月、人道状況の改善などに進展がない限り、国軍側が主要会議に出席するのは難しいとの考えを表明した。【10月5日 共同】
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ASEANがミャンマーの和平実現に向けて国軍と合意した5項目がほとんど履行されておらず、ASEAN内部には11月のASEAN首脳会議までに合意を見直す必要があるとの声も出ていることは、前回ブログで取り上げたところ。

【ミャンマー関与で対応が分かれる欧米日ブランド】
こうした状況で、ミャンマーとの関係、距離の取り方に苦慮するのはASEANだけでなく、また関係国だけもなく、民間企業の同じです。

****軍政下ミャンマー製品、西側ブランドの対応二分****
H&MやZARA、ユニクロは調達を続ける一方、英テスコなどは撤退

欧米日の小売業者の間では、ミャンマー製の衣料品を購入するかどうかで対応の違いが鮮明になっている。同国は昨年、軍部によるクーデターが起きるまで、衣料品輸出国として世界屈指の急成長を遂げていた。

欧州のアパレル大手プライマークはミャンマー国内の25工場からレインコートやパーカなどの衣料品を購入していたが、先月、撤退を表明した。縫製労働者の安全性と権利を確保するのが困難なことを理由に挙げた。この決定は、アルディ・サウス・グループやC&A、テスコといった他の欧州小売り大手の撤退に続く動きだ。
 
これに対し、スウェーデンのアパレル大手ヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)や、「ZARA(ザラ)」などを展開するスペインの同業インディテックス、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(ファストリ)などは残留している。

H&Mの広報担当者は、「ミャンマーとの貿易を継続すべきかどうかについて、相反する判断や異なる視点」があるとしつつも、同社は撤退する考えがないと述べた。H&Mは「ミャンマーの多くの人々が国際企業に頼って生計を立てている事実に留意している」と述べた。

インディテックスとファストリはコメントを控えた。インディテックスは7月、ミャンマーの供給業者と密接に協力し、人権の保護に注力していると述べた。

こうした議論の核心をなすのは、ミャンマーの低賃金を利用すると同時に同国の貧困層に役立つ雇用を維持するか、それとも労働者虐待(一部の労働者や権利団体は軍事政権下で悪化していると主張)を理由に同国から撤退するかという難しい選択だ。

このジレンマは、ビジネス全般でグローバル環境のリスクが増していることを浮き彫りにする。例えば、ロシアによるウクライナ侵攻以降、多くの欧米企業がロシア事業の停止や閉鎖を決めている。

英人権団体エシカル・トレーディング・イニシアチブは、ミャンマーの縫製労働者3120人にインタビューを行い、9月に報告書を公表した。それによると、長時間労働や言語的・身体的・性的ハラスメント(嫌がらせ)といった労働法違反が疑われ、また労働者は不満を訴える手段がほとんどないと指摘された。

軍事政権は民主主義的な制度を抑え込もうと、労働組合の指導者を逮捕したり、労働者の権利促進を目指す企業や職業別組合、NGO(非政府組織)などを脅迫したりしているという。

ファストファッションのブランドは通常、衣料品工場を自ら建設・運営することはなく、独立した工場に発注している。それらの工場は大抵、アジアの発展途上国にあり、縫製労働者は1日わずか数ドルの報酬で雇われることもある。

相次ぐ産業災害を受け、各ブランドはここ数年、より詳細な検査を実施するなどして、下請け工場の安全性向上と労働基準の強化を推進している(2013年にはバングラデシュで複数の縫製工場が入った複合ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、1100人の労働者が死亡。ファストファッションの評判も傷ついた)。

ミャンマーでは、軍事クーデター以前からすでに労働者に賃金や退職手当が満額支払われない問題が生じていた。だが人権団体によると、国軍が権力を掌握した後の不安定で抑圧的な政治環境が状況をさらに悪化させたという。

今年9月には、元駐ミャンマー英国大使で、衣料品の国際ブランドなどの投資家に助言する非営利団体(NPO)「責任あるビジネスのためのミャンマー・センター(MCRB)」の代表を務めるビッキー・ボウマン氏が、入国管理法違反の罪に問われ、禁錮1年の判決を受けた。英国の外務・英連邦・開発省は、事件が解決するまでボウマン氏を支援し続けると述べた。

過去1年8カ月の間にノルウェーの通信会社テレノールや仏エネルギー大手トタルエナジーズ、米石油大手シェブロンなど、多くの企業がミャンマーからの撤退を決定した。

カーゴショーツやランニングシューズなどを販売するアルディ・サウスは、2021年9月に撤退を決めた。ビジネスの予測不能性や人権擁護の難しさが理由だという。欧州のファストファッションブランドC&Aもやはり政治情勢を理由に挙げた。英スーパー大手のテスコは、世界の労働組合の助言に従って撤退すると述べた。

一方で、アパレル大手は同国にとどまるべきだと主張する市民団体や労働者団体もある。軍事政権に利益をもたらす炭化水素や通信などの産業とは異なり、アパレル業界が同国に投じる多額の資金は、人件費やその他の生産コストに回されるからだという。

「もし彼らが購入をやめたら、最もしわ寄せを受けるのは衣料品業界の労働者だろう」。ミャンマーの労働組織である労働組合共同委員会(CCTU)のイェ・ナイン・ウィン事務局長はそう話す。

前出のエシカル・トレーディング・イニシアチブの報告書では、欧州ブランドが撤退した場合、失業するか収入が減少する労働者は32万人に上ると試算された。この報告書はブランドが残留すべきか撤退すべきかについては立場を明確にしなかった。

西側ブランドの一部はクーデター後、衣料品の購入を一時中止したが、数カ月後には再開した。国連の貿易統計によると、2022年上半期の欧州連合(EU)・米国・日本向けの衣料品輸出は、前年同期比で29%増、クーデター前年の20年比でも12%増だった。世界銀行によると、ミャンマー経済は19年比で13%のマイナス成長に落ち込んでいるが、衣料品の力強い回復はそれと好対照をなす。

世界銀行は7月の報告書で、2021~22年にミャンマーの通貨チャットが下落したことで、同国製衣料品の価格競争力が強まったと指摘。

ただ、チャット安は――クーデター以降、対米ドルで30%余り価値が下落した――、物価高騰を引き起こす要因ともなった。先月公表された国連開発計画(UNDP)の最新調査によると、就労中の縫製労働者の約半数が、物資不足のために食事の量が減ったと回答している。【10月6日 WSJ】
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欧米ブランドのアパレル需要がミャンマー国内の労働者の雇用と生活を支える、撤退すればそれが失われる・・・悩ましい問題ですが、企業がその点をどこまで真剣に考慮しているかはやや疑問も。

企業が一番気にかけているのは、残留することで得られる経済的利益と、残留することで軍事政権支配に結果的に協力しているとの国内外からの批判・・・この両者の兼ね合いでしょう。

【「独自のパイプ」外交で軍事政権関与を続ける日本政府】
歴史的にも、経済的にもミャンマーと深いつながりがある日本はかつての軍政時代から、米欧とは一線を画した「独自のパイプ」を活かす関与外交を行ってきました。日本側には、そのことがミャンマー民主化を後押ししたとの自負もあるのでしょう。(スー・チー氏は旧軍政下の軟禁時から、日本の経済支援はミャンマー民主化のためにならないと否定的でしたが)

今回軍事政権にも欧米が制裁を発動したのに対し、日本政府はミャンマーへの新規ODAは当面、原則見合わせるが、制裁としては打ち出さないという微妙な対応。制裁を避けているのは、現地利権を中国に奪われるのを警戒してのこととも言われています。

日本は2019年度に1893億円を拠出するなど、ミャンマーにとって最大の援助国です。
確かに日本による新規ODAの原則停止は、米欧が課している国軍幹部らの資産凍結といった制裁と比べてもインパクトがあります。

首相官邸関係者は「ミャンマーにも米欧にも、強力なカードとしてアピールできる」と指摘。政権幹部も「外交上のレバレッジ(テコ)になる」と語っていました・・・・が、現実には「外交上のレバレッジ」「独自のパイプ」が発揮されて軍事政権の対応に改善が見られるという話も聞きません。

****日本ODAへの批判****
2021年2月1日のミャンマー国軍によるクーデターを機に、日本の外交姿勢に対してミャンマー国民の間で厳しい批判が巻き起こった。

欧米諸国が国軍やその関連企業に対して標的制裁)を発動したのに対し、日本は厳しい措置をとらず、むしろ「独自のパイプ」をいかして国軍幹部への働きかけを重視したからである。つまり、日本の姿勢はミャンマー国軍に宥和的過ぎるとの批判であった。

なかでも日本がミャンマーに供与しているODAについて、クーデター後も実施中の案件を継続し、完全には止めなかったことは厳しく批判された。さらに、ODAによる建設事業の一部が国軍関連企業に発注されていたことがわかると、ミャンマー国民の不信は増幅した。ミャンマー国民の批判や不信は、国軍関連企業とビジネスをしていた日本企業にも向けられた。

(少なくとも一部の)日本のODAや日本企業のビジネスは、ミャンマー国軍に資金を与えたのではないか。そして、その資金は武器購入に充てられ、クーデター後の市民弾圧に使われたのではないか。こうしたミャンマー国民の疑念は、そもそも10年前に日本が、国軍が依然として影響力をもつ政治体制であったミャンマーへのODA供与を再開したこと自体が間違っていたのではないか、という疑問まで生むに至っている。(後略)【2021年10月 工藤 年博氏「ミャンマー・クーデターが突きつける日本の政府開発援助(ODA)の課題」 JETRO】
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既存のODAについては未だ継続している日本ですが、ODA事業はさまざまなビジネスを行う国軍を利する懸念がある他、建設される道路等のインフラが、国軍の軍事作戦に利用される恐れもあります。

いったん国軍支配のミャンマーに流入した資金・物資が、その後、提供した日本の意図とは異なる使われ方をする・・・というのは想像に難くないところです。

****国軍が兵士輸送に使用、日本寄贈の旅客船****
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は10日、日本がミャンマーに供与した旅客船を、同国軍が西部ラカイン州での国軍兵士の移動などに使ったことが判明したと声明を発表した。  

輸送に使われた旅客船は「キサパナディ1」と「キサパナディ3」。日本の無償資金協力で2017年から順次、供与された計3隻のうちの2隻だ。船舶の供与は、地域住民の交通の利便性や航行安全の向上が目的とされていた。  

HRWによると、ラカイン州政府の運輸大臣が、国軍統制下にある運輸・通信省傘下の内陸水路運輸(IWT)の同州での担当部署に対し、州都シットウェ―ブティダウン間の航行を指示。9月14日に100人以上の兵士と物資を輸送したという。  

ラカイン州では、国軍と少数民族武装勢力アラカン軍(AA)との戦闘が激化している。HRWは、日本から支援目的で供与された船が軍事目的に使われたことで、日本が国軍に加担したことになると批判。日本政府は、あらゆる外交手段を駆使して国軍に圧力をかけるべきだと主張した。【10月13日 NNA】
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資金だけでなく「人」のつながりも。

****ミャンマーで死刑執行 日本はまだODAを続けるのか****
(中略)日本政府は死刑執行を非難する共同声明に加わったが、全般的なミャンマー軍への態度は曖昧だ。「軍との独自のパイプを維持する」と言い、いまだに士官候補生を防衛大学校に受け入れ、ODA案件を完全に停止していない。  

「留学している士官候補生にシビリアンコントロールを学ばせる」と言うが、軍という究極的上意下達組織において、彼らが戻ってから市民の迫害・殺害を拒否できるとは考えられない。また、日本は対ミャンマーODAにおいてトップドナーである。これを止めることは軍への大きな圧力となるはずである。【8月4日 NEWS SOCRA】
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シビリアンコントロール云々は悪い冗談のようにも。
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ミャンマーで弾圧を受けるロヒンギャの現状 ミャンマー国内では民主派・国軍戦闘で市民に犠牲も

2022-09-21 23:14:00 | ミャンマー
(空爆で破壊された学校とみられる映像(ロイター)【9月20日 読売】)

【将来の夢も希望も持てないロヒンギャの現状】
ウクライナ情勢に国際社会の目が行く一方で(ウクライナ問題についても、“支援疲れ”等の慢性化現象はありますが)、その他の問題が忘れられる危険も。

ミャンマー国軍の民族浄化的な殺戮・暴力・放火・レイプなどでミャンマーを追われたイスラム系少数民族ロヒンギャの問題もそのひとつ。

****八方ふさがりのロヒンギャ難民 弾圧による大量避難から5年*****
バングラデシュにあるロヒンギャ難民キャンプの学校で、モハマド・ユスフさんは毎朝、ミャンマー国歌を歌っている。

仏教徒が多数を占めるミャンマーで国軍が少数派イスラム教徒ロヒンギャを迫害し、大規模な難民流出が始まってから8月25日で5年を迎えた。少なくとも数千人が軍に殺害されたとみられ、ユスフさん一家をはじめ、74万人以上がバングラデシュに逃れた。

不衛生なキャンプで暮らすユスフさんら大多数のロヒンギャの子どもは、教育を受ける機会をほとんど与えられてこなかった。子どもたちに教育を受けさせれば、帰還がすぐには実現しそうにないと認めることになりかねないとバングラデシュ政府が懸念したためだ。

昨年のミャンマーの軍事クーデターによって、ロヒンギャ帰還の見通しはいっそう遠のいたとみられており、バングラデシュ政府は今年7月にようやく、国連児童基金(ユニセフ)に対し、ロヒンギャの子ども13万人に教育を受けさせる計画を許可した。いずれは難民キャンプにいる子ども全員に教育の機会が提供される見込みだ。

だが、バングラデシュ政府は今なお、ロヒンギャ難民の帰還を望んでいる。そのため授業はミャンマーのカリキュラムに沿ってビルマ語で行われ、さらに毎日始業の際にミャンマーの国歌を子どもたちに歌わせている。

オランダ・ハーグの国際司法裁判所では、ミャンマー国軍のロヒンギャへの弾圧がジェノサイド(集団殺害)に当たるかどうかを審理する裁判が行われている。

だが、ユスフさんはミャンマー国歌を大事にしていると言う。
「ミャンマーは私の祖国です」とユスフさん。「この国にひどい目に遭わされたわけじゃない。ひどいことをしたのは、権力を持った人たちです」 妹はミャンマーで亡くなり、同胞は虐殺されたと話す。「それでも、自分の国なのです」と続けた。 夢は航空関係のエンジニアかパイロットになることだ。「いつか世界中を飛び回りたい」と話した。

■「時限爆弾」
キャンプでは計100万人近いロヒンギャ難民が暮らしており、約半数は18歳未満だ。

バングラデシュ軍の元将軍マフズル・ラフマン氏は、同国政府が長期的な計画の必要性に「気付いた」のは、教育を受けていない若者がキャンプにいるリスクに着目したためだと指摘する。

キャンプの中では薬物を密売するギャングがうろつき、治安はすでに深刻な問題になっている。この5年間に起きた殺人事件は100件以上。武装勢力や犯罪集団は、キャンプ生活にうんざりしている若者の勧誘にも力を入れている。

ラフマン氏は、すべての子どもが「時限爆弾になりかねない」とAFPに語る。「教育も受けられず、夢も希望もないキャンプで育つと、どんな怪物になってしまうのか見当もつかない」

■ミャンマーにとどまったロヒンギャの苦難
一方、5年前にバングラデシュに逃れる道を選ばなかった人もいる。母親からミャンマーにとどまるよう懇願されたマウンソウナインさん(仮名)もその一人だ。

故郷と呼ぶ場所に今も住んでいるが、将来の計画を立てることはすっかり諦めたと話す。また弾圧で破壊されるかもしれないからと、雨期ごとの家の修理はやめてしまったため、自宅は荒れるがままになっている。

ミャンマーに残る約60万人のロヒンギャは、キャンプに収容されているか、あるいは村にとどまっている場合もミャンマー軍や国境警備隊に翻弄され、いつまた生活が一変するか分からない。

大半は市民権を与えられず、移動や医療、教育に関して制限を受けている。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチはロヒンギャに対するこうした処遇を、かつての南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)になぞらえて非難している。

ロヒンギャの人々は「常にこの国から出ていくことを考えています」とマウンソウナインさん。「でも、出ていくことも許されません。拘束され、移動も止められてしまうからです」

■「夢も希望も持てない」
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、昨年のクーデター以降、「無許可での移動」を理由に身柄を拘束されたロヒンギャは、子ども数百人を含め、約2000人に上る。

イスラム教徒が大多数を占めるマレーシアも、ロヒンギャ難民の主要な逃避先となっている。密航業者に命を預けて一か八かで危険な旅に出る人も多い。今年5月には、ミャンマー南西部の海岸に14人の遺体が打ち上げられた。国連難民高等弁務官事務所は、ロヒンギャ難民との見方を示している。

昨年、国軍が再び権力を握ったことで、ロヒンギャの人々が市民権を取得し、制限が緩和される希望はさらに薄れた。

国際医療援助団体「国境なき医師団」に所属し、ミャンマーでの活動の代表を務めているマルヤン・ベサイェン氏は、キャンプで暮らしている人々にとっては家に帰ることすらかなわないだろうと話す。
「たとえ移動できたとしても、彼らがかつて住んでいた多くの村やコミュニティーは、もはや存在しません」

マウンソウナインさんは「この国では、私たちロヒンギャへの人種的憎悪が根強いのです」と述べ、「将来の夢も希望も持てません」と訴える。「私たちはただ、尊厳を持って人並みの生活を送りたいだけです」 【9月3日 AFP】
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問題の根底には、ミャンマー国軍だけでなく、一般的ミャンマー国民の間で“ロヒンギャへの人種的憎悪が根強い”ことがあります。

【ミャンマー国内の国軍と民主派武装勢力の戦闘 空爆で子供11人死亡】
一方、ミャンマー国内にあっては、軍事政権は民主派や、その象徴としてのスー・チー氏への弾圧を強めています。

****スー・チー氏に新たに禁錮3年判決、刑期計20年に…重労働3年も言い渡す****
ミャンマー国軍が首都ネピドーに設置した特別法廷は2日、国軍による拘束が続く国民民主連盟(NLD)のトップ、アウン・サン・スー・チー氏(77)に、2020年の総選挙で不当に影響力を行使したとして禁錮3年の有罪判決を言い渡した。これまでの判決を合わせると、禁錮刑の刑期は計20年となる。法廷は、今回の刑期3年間の重労働も言い渡した。(後略)。【9月2日 読売】
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民主派武装勢力は国軍に抵抗する少数民族武装勢力と連携して、軍事政権への武力闘争を続けています。
こうした抵抗勢力に国軍は激しい攻撃をしかけており、その過程で痛ましい事件も。

****ミャンマー軍政、学校をヘリから空爆 児童11人殺害し証拠隠滅のため遺体火葬****
<1度の攻撃による子供の犠牲としては過去最悪の事態に──>

ミャンマーの北西部ザガイン地方域にある村の僧院学校が軍のヘリコプターから空爆を受けて児童11人が死亡した。一度の戦闘で子供が11人死亡したケースは2021年2月1日の軍によるクーデター以降初めてとみられ、民主派勢力は怒りをつのらせている。

9月16日午後1時ごろ、ザガイン地方域タバイン郡区レット・エット・コネ村にある仏教の僧院学校が、上空のMi35ヘリコプター2機から空爆を受け、僧院学校で学ぶ児童ら7人が即死し、教師3人と児童14人が負傷した。

その後、輸送ヘリから降り立った約80人の兵士が僧院学校を包囲して攻撃を続けた結果、さらに児童2人が死亡した。兵士は児童の遺体や負傷者約20人を民間人から強制的に奪ったトラックで約11キロ離れたエ・ウーにある伝統医学病院に搬送した。同病院はこの地域の軍の拠点となっていた。

軍に徴用されたトラックの運転手は「遺体は兵士と思っていたが、中を見るとみんな子供だったので大きなショックを受けた」と話しているという。

同病院で治療中に死亡したとみられる児童2人が確認され、これで児童の犠牲は11人となった。さらに負傷した児童には手足を攻撃で吹き飛ばされた重傷者も含まれているという。

児童の遺体を火葬、証拠隠滅か
(中略)軍は死者と負傷者を運んだ伝統医学病院で襲撃の翌日にあたる9月17日の午後4時ごろ、犠牲となった児童11人の遺体を全て火葬に付して病院敷地内の墓地に埋葬したという。

子供が行方不明になった両親が攻撃された僧院学校を訪れたが、残されていたのは子供の衣服だけだったため「もし死んだとしても葬儀も行えない」と悲しみに暮れていたという。

「イラワジ」は「火葬は軍による証拠隠滅の可能性が高く、多くの児童が犠牲になった攻撃は許されるものではない」と報じて軍政への反発を強めている。

国連児童基金(ユニセフ)のミャンマー事務所は9月19日、この事件の詳細はまだ不明としながらも児童11人が死亡し、15人が行方不明であることを明らかにしており、今後犠牲者が増加する可能性がある。

これに対し軍政は「武装抵抗勢力が僧院学校に潜伏しており、児童らを人間の盾として利用していた」との声明を発表し、攻撃や児童殺害を正当化した。

軍政は声明の中で、僧院学校には武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」のメンバーや、軍との戦闘を繰り返している隣接するカチン州を活動拠点とする少数民族武装勢力「カチン独立軍(KIA)」の兵士らが潜んでいたとしている。

これに対して地元のPDFは「空爆当時、僧院学校にはPDFやKIAのメンバーは誰一人としていなかった。軍は嘘をついている」と反論している。

ASEANの方針転換にも影響か
ニューヨークでの国連総会に出席しているマレーシアのサイフディン・アブドラ外相は、9月19日に記者会見でミャンマーの反軍政組織として抵抗を続けている「国民統一政府(NUG)」と接触したことを明らかにした。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国がNUGメンバーと接触するのは初。同外相は今後ASEANとしてミャンマー問題への取り組みを見直す方針を示した。

この会見でサイフディン外相は16日に起きた軍による僧院学校襲撃で多数の児童が不犠牲になったことが伝えられるなか、NUGとの面談に臨んだことを明らかにしている。

こうした軍による民間人、特に子供や女性への無差別攻撃や虐殺、レイプは重大な人権侵害であるとして国際的な人権団体などから軍政とその指導者であるミン・アウン・フライン国軍司令官に対する厳しい非難が浴びせられている。

ミャンマーの人権団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると2021年2月1日のクーデター以降、9月19日までの軍による民間人の殺害は2299人にのぼり、逮捕者は1万5571人に達しているという。

出口の見えないミャンマー問題は、ASEANによる和解調停努力にも関わらず、ますます混迷の度を深めている。【9月21日 大塚智彦氏 Newsweek】 
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【ミャンマーへの対応を硬化させるASEAN 「五項目の合意」見直しの検討も】
上記記事にもあるマレーシアのサイフディン・アブドラ外相は、ASEANとしてのミャンマー軍事政権への対応を見直すことにも言及しています。

****ASEANのミャンマー和平計画、見直し必要=マレーシア外相*****
マレーシアのサイフディン外相は19日、東南アジア諸国連合(ASEAN)がミャンマーの和平実現に向けて国軍と合意した5項目について、11月のASEAN首脳会議までに見直す必要があるとの考えを示した。

ASEANは、昨年2月のクーデター後、ミャンマーの和平に向けた取り組みを主導しているが、国軍はASEANと合意した暴力の即時停止など5項目について大半を履行していない。

国連総会に参加するためニューヨークを訪問中のサイフディン氏は記者団に対して「11月のASEAN首脳会議までに5項目の合意事項が依然として妥当かどうか、より良いものに置き換える必要があるかどうかを見直す必要がある」とし、「11月までに答えを見つけなければならない」と語った。【9月20日 ロイター】
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ASEANはミャンマー軍事政権への対応を硬化させていますが、事態改善の方策はないようにも。

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7月、国民統一民主党(NUD)と共謀して軍政に対するテロを主導したなどとして、民主活動家チョーミンユおよび国民民主連盟(NLD)の元議員ピョーゼヤートーら計4人の死刑が執行された。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国カンボジアのフン・センが6月に死刑執行の停止を求める書簡をミン・アウン・フライン(国軍総司令官)に送った経緯があるが、ASEANは「死刑執行を含む長期化する政治危機への懸念」を表明し、ASEANが求める「五項目の合意」の履行が進まないことに「深い失望」を表明している。

ミャンマーに関与し情勢を打破する能力がASEANにないことが改めて明らかになっている。【9月15日 WEDGE】
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【民主派「影の政府」の承認の是非】
一方、Economist誌8月22日号は、ミャンマーの軍事政権に抵抗して奮闘する国民統一政府(NUG)は資金の支援を必要としているとして、アメリカがNUGを正統な政府として承認し、もって凍結したミャンマーの資産を彼等に使わせることを示唆する社説を掲げています。社説は次のように主張しています。

****忘れてはならないミャンマー情勢と必要な“奥の手”****
(中略)
NLDの議員は「影の政府」(国民統一政府:NUG)を組織している。

ビルマ族の排外主義との評にかかわらず、彼らは少数民族の代表を迎え入れた。彼らはロヒンギャの待遇を改善するとも約束した。NUGは殆どの抵抗勢力を含めビルマ族の大多数の支持を獲得している。幾つかの地域では、地方の行政組織を形成し、学校と診療所を運営している。

一方、軍は反乱勢力を打倒する能力がないことを証明した。

しかし、NUGは絶望的に資金が不足している。彼等は西側から資金の支援を必要としている。もし、米国がNUGを正統な政府を承認すれば、NUGは、クーデタの後に米国が凍結した10億ドルのミャンマーの資金の所有権を主張出来るであろう。そのようなジェスチャーには、外部世界は軍の残虐行為を不作為によって黙認する積りはないことを示す利点もあるであろう。

勿論、それは軍事政権の終焉を保証はしない。軍事政権は資金と火力において圧倒的な優位性を維持している。中国という強力な同盟国もある。しかし、抵抗運動は18カ月間不利な条件を克服してきた。この条件を有利な方向に動かすのに多くは要しないであろう。【9月15日 WEDGE】
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この考えに対し、WEDGEはやや現実性を欠くとの見方です。

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(中略)しかし、NUDは地下組織である。彼等の奮闘ぶりは讃えられるべきであるが、政府とは到底言い得まい。彼等は過激化しており、一般市民に職場放棄などを含め軍事政権との関係を一切断つよう要求し、軍事政権に協力していると見做される市民を殺害する。軍よりも抵抗勢力を怖れる市民もあると報じられている。

軍事政権の転覆も全土掌握も進まず
外交情報サイトThe DiplomatはNUDのドゥワラシラー大統領代行(彼はカチン族である)とのインタビュー記事(7月19日付)を掲載しているが、彼は抵抗勢力が国土の50%以上を支配し、数十の町に自治組織を作っているなどと述べ、いずれは真の連邦国家を作る目標を語っている。

しかし、これは割引いて聞く必要があろう。  都市と資源を支配しているのは軍事政権である。抵抗勢力は寄せ集めの勢力であり、武器に事欠く状況である。一定地域を支配していると言っても、それは軍が攻勢に出れば引き、軍が引けば出るといった類のことに違いない。

エコノミスト誌は5月21日号で、(地方メディアは威勢の良いニュースを流しているが)「抵抗勢力は自身のプロパガンダを信じるリスクを冒している」と書いたことがある。  

抵抗勢力に軍事政権を転覆する力はないが、軍事政権による全土掌握も進んでいない。ミャンマーの憲法によれば非常事態宣言の期間は1年だが、半年ずつ2回まで延長可能であり、7月31日、2回目の延長(23年2月まで)が決定された。  

憲法はその後6カ月以内に選挙を行うことを規定しており、軍事政権は23年8月までに選挙を行うとしている。軍事政権は選挙までに全土掌握を目指すであろうが、そのことは必然的に更なる流血を招くであろう。
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未だ出口が見えないミャンマー情勢です。
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ミャンマー  国連特使訪問も国軍支配正統化に利用される懸念 強まる弾圧のなかで“スーチーカード”も

2022-08-23 22:55:48 | ミャンマー
(ミャンマーのミンアウンフライン国軍最高司令官(右)と握手する国連のヘイザー事務総長特使=ネピドーで2022年8月17日、国軍提供・AP【8月18日 毎日】)

【無策の国軍支配のもとで物価上昇に苦しむ市民】
コロナ禍やウクライナ情勢の影響もあって、食料・燃料などの物価高騰や貧困に苦しんでいるのはミャンマーだけでなく、世界の多くの国で見られることです。

ただ、ミャンマー軍事政権にそうした市民生活困窮に対応する統治能力がないことも事実であり、市民生活はその苦しみの中に放置されたままになっています。

****ミャンマー、主食米価格4割上昇 政変後の生活直撃****
国軍がクーデターで全権を掌握したミャンマーで物価上昇が加速している。

ミャンマー人の主食であるコメの市場価格は平時より4割高い水準に達した。外貨不足で現地通貨チャットの価値が下落し、日用品や他の食品の値上がり率も大半の品目で2桁以上だ。物価上昇で人々は消費を抑え、景気がさらに悪化する悪循環に陥っている。

店は「掛け売り」対応も
8月上旬、最大都市ヤンゴンの公設市場。「政変を期に状況は完全に変わった。モノは全然売れないのに物価は上がるばかりで、一体どうすればいいのか」。雨季特有の激しい雨が降るなか店番の女性(50)はこう話した。

この店の収入で学齢期の子ども7人を含む13人の世帯を養っているという。「普段の食事から肉を減らして何とかやりくりしている」と明かした。

店の売り上げは政変以前の半分以下に落ち込んだ。買い物客も物価高で困窮しているため、掛け売りにして顧客の給料日まで支払いを待つ。「売上高を確保するには仕方がない」と話す。

ミャンマー中央銀行は公定為替レートを1ドル=2100チャットとしているが、実勢を反映する市中両替商のレートは同3000チャット近くまで一時下落した。チャットの価値は政変前に比べて約半分となり、輸入品の価格を押し上げている。

ミャンマー当局によると消費者物価指数(CPI)は4月に前年同月比17.8%上昇した。世界銀行は2022年度(21年10月~22年9月)のCPI上昇率が15%に達すると予測している。だが直近の生活実感はこれよりも格段に厳しい。

通貨安で物価高、一般世帯向けパーム油は3倍
物価上昇は主食米に広がっている。ヤンゴン市内の米屋によると、主要品種の価格は8月中旬時点で1ビス(ビスはミャンマーの伝統単位で約1.6キログラム)あたり3900チャット(約250円)と、政変前に比べ44%も上昇した。

国内で生産するコメの価格は政変後も比較的安定していたが、6月から7月にかけ急速に値上がりしたという。店主は「こちらが希望する量のコメを仕入れられない」と話す。物流事情の悪化や生産減少による供給停滞のほか、肥料や燃油の高騰が価格を押し上げている可能性がある。

国外からの輸入に頼る食用油の値上がりも顕著だ。一般世帯が料理に使うパーム油の卸売価格は1ビス9400チャットと政変前の約3倍になった。価格統制を試みる当局が8月初旬に設定したパーム油の卸値の「参照価格」は3525チャットだが、ほとんど機能していない。ある小売商は「参照価格で調達できるのは政権に近い人々だけだ」とこぼした。

政変前に750チャット前後だったガソリン(オクタン価95)の価格は8月15日時点で2445チャットまで上昇し、タクシーや物流事業者の営業に影響が出ている。

人口の4割が貧困線以下の生活
零細店舗向けに流通事業を手掛ける日系スタートアップが取り扱う商品の価格をみると、物価上昇が幅広い品目に及んでいる。21年1月から22年8月初旬にかけて食用油は3.2倍、粉末飲料は2倍に値上がりした。非食品では蚊取り線香やろうそくなどの家庭雑貨が2.4倍、洗面用品は2.2倍になった。

現地大手スーパーでの小売価格も一部商品で価格の変動を調べた。21年3月と22年8月では、同一ブランドの食用油が2.5倍、インスタント麺は2.3倍の価格になった。ツナ缶詰は60%、ビールは25%値上がりしている。

今のところスーパーの商品が途切れる事態にはなっていないが、一部の商品は欠品していた。国軍当局が外貨不足で民間企業による輸入量の制限を強めており、その影響が出ているとみられる。

世界銀行が7月に公表した最新の推計では、ミャンマーの人口の4割が貧困線以下の生活を強いられている。物価上昇で人々は生活費を切りつめ、さらなる所得低下を招く。この悪循環をどう断ち切るか、見通しは立っていない。【8月22日 日経】
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【活動家処刑に批判を強めるASEAN】
そうした状況にあっても国軍は民主活動家死刑執行など、民主派への厳しい弾圧姿勢を変えようとはせず、通常は加盟国の内政は問題視しないASEANにあっても、ミャンマー国軍幹部が会議に出席することを禁じるなど、ミャンマー国軍の頑なな姿勢に批判が強まっています。国軍はこれに反発。

****ミャンマー軍、会合締め出しでASEAN非難 「外圧に屈した」****
ミャンマー軍事政権の報道官は17日、東南アジア諸国連合(ASEAN)が同国軍の幹部を地域会合から排除したことについて「外圧」に屈したと非難した。

ゾー・ミン・トゥン報道官は定例会見で「一国の代表が空席であるならば、ASEANサミットと銘打つべきではない」と述べた。

ASEANはミャンマーに対し、昨年合意した5項目の和平計画を順守するよう求めており、軍事政権が民主活動家4人の死刑を執行したことを非難している。

ASEANは、ミャンマー軍幹部が会議に出席することを禁じる一方、軍事政権は政治家ではない代表を派遣する案を拒否している。

軍事政権報道官は、ミャンマーは和平計画の実施に取り組んでいると説明。ASEANは「外圧」に屈し、国家の主権問題に不干渉であるという独自の方針に違反していると述べたが、詳しくは語らなかった。【8月18日 ロイター】
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【初の国連特使も国軍支配正統化に利用される懸念も】
民主派への対応で中心となるのは拘束中のスー・チー氏の処遇です。

****スーチー氏、汚職罪で禁錮6年 ミャンマー裁判所が判決=関係筋****
軍事政権下のミャンマーの裁判所は15日、民主化指導者アウンサンスーチー氏(77)を4件の汚職の罪で禁錮6年の判決を言い渡した。事情に詳しい関係筋が明らかにした。

スーチー氏は、汚職や選挙違反など少なくとも18件の罪で起訴されており、刑期は最長190年近くに及ぶ。スーチー氏はいずれの罪も否認している。

関係筋によるとスーチー氏は15日、保健と教育を促進するために設立した「ドーキンチー財団」の資金を住宅建設のために不正使用し、政府所有地を割引価格で賃貸したことで有罪となった。

首都ネピドーの刑務所の独房で拘束されているスーチー氏は、他の罪で既に11年の禁錮刑を言い渡されている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長代理フィル・ロバートソン氏は、スーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)にも言及して「これはスーチー氏の権利に対する大規模な攻撃であり、スーチー氏とNLDを永遠に葬り去ろうとする作戦の一部だ」と述べた。(後略)。【8月15日 ロイター】
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16日は国連特使が初めてミャンマーを訪問し、民主活動家の処刑停止やスー・チー氏釈放などを求めています。

****国連特使、ミャンマー国軍トップと会談 死刑執行の一時停止要請****
ミャンマー問題を担当する国連のヘイザー事務総長特使は17日、首都ネピドーで行ったミンアウンフライン国軍最高司令官との会談で、暴力停止のほか今後の死刑執行の一時停止などを要請した。国連特使がミンアウンフライン氏と会談したのは昨年2月のクーデター後初めて。

国連によると、ヘイザー氏は会談で今回の訪問目的を、国連の懸念を伝え、紛争と人々の苦しみを軽減するために必要な具体的措置を提案するものだと説明。「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」と強調した。

刑事裁判中のアウンサンスーチー氏との面会や、スーチー氏を含む収監中の全ての政治犯の釈放も求めた。国連は、ヘイザー氏と国軍幹部が今後も率直な話し合いをすることに同意したとしているが、ミンアウンフライン氏がどう応じたかには言及していない。

一方、ミャンマー国軍側は、国連と「いかに信頼を深め協力を進めるか意見交換した」と発表した。ヘイザー氏は17日に国軍側が外相に任命したワナマウンルウィン氏とも会談。ミャンマー外務省はワナマウンルウィン氏が「国連がミャンマーと協力する際は建設的で実際的な検討が必要だ」と強調したとしている。【8月18日 毎日】
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特使は「国連の関与は(国軍の統治に)正当性を与えるものではない」とはしていますが、国軍側は国連特使ヘイザー氏との会談によって統治の正当性をアピールしたい考えです。

民主派勢力の国民統一政府(NUG)の副外相は「今は適切な時期ではない。国軍を(政権として)認識しないよう細心の注意をすべき時だ」と懸念を示しています。

【再び“スーチーカード”か】
これまで頑なな姿勢を貫いてきた国軍側が、ここにきてスー・チー氏処遇について、やや柔軟対応もにおわすような発言を。

****スー・チー氏、判決後に自宅軟禁に移行も 国軍トップが表明****
ミャンマー国軍トップのミンアウンフライン総司令官は19日、国家顧問兼外相だったアウン・サン・スー・チー氏(77)の処遇について、訴追中の容疑の全てに判決が出た後に刑務所から自宅軟禁に移すことを検討する考えを示した。(中略)

スー・チー氏は昨年、国軍によるクーデターを受け拘束された。その後、収賄や選挙違反など少なくとも18の罪状で訴追され、うち数件ですでに計数年の禁固刑などの判決が出ている。国軍によると、同氏の身柄は今年6月に首都ネピドーの刑務所の独房に移された。同氏は訴追された容疑の全てを否認している。

国営テレビで読み上げられたミンアウンフライン氏の声明は、「この件は全ての判決が出た後で検討する。(スー・チー氏には)強力な容疑を立件していない。もっと強い対応を取ることもできたが、寛大な処分にした」としている。【8月21日 ロイター】
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国連特使との会談が影響しているのかどうかはわかりませんが、あまり大きな期待はしない方がいいかも。
“あいまいな態度で譲歩の姿勢を見せることで、国際社会に対する交渉カードに使う狙いがあるとみられる。”【日系メディア】との指摘も。

スー・チー氏の処遇は、民主化以前の軍事政権時代、スー・チー氏が長年にわたり自宅軟禁されていた時代から、つねに対外交渉用の「カード」として利用されてきました。

国際批判が高まるとスー・チー氏処遇を緩め、国際社会からの批判を軟化させ、しばらくしたら再び軟禁を強めるといったことを繰り返してきました。

仮に、今回スー・チー氏の処遇がやや緩められたとしても、そうした国際交渉の一環であり、弾圧姿勢自体を変えるつもりはないように思われます。

【強まる国軍の弾圧姿勢】
国軍の弾圧姿勢はむしろ強まるようにも見えます。

複数の現地メディアによれば、国軍の統制下にある選挙管理委員会が、国内の全ての政党に対し、外国人と許可なく接触した政党は抹消するとの命令を出したとのこと。この命令によれば、今後は外国人と政治家の面会は許可制となり、面会自体が禁じられたり、当局が政治家の動向を監視下に置いたりする懸念が高まっています。

また、民主派による抵抗運動にとって不可欠なSNSへの統制・制限も強化されています。

****ミャンマー軍政、フェイスブックを制限 自前のSNS設立などで情報戦対策へ****
<民主派の情報があふれるネットを遮断させるためにはSIMカードの課税強化まで>

軍事政権による民主派への強権弾圧が続くミャンマーで、軍政が国内のインターネットの接続制限に乗り出したことが明らかになった。

特にターゲットとしているのがSNSのFacebookで、「しばしば民主派に利用されている」として今後制限を強化するとともにFacebookに代わる自前のSNSを創設する考えを示すなど締め付けを強化する方針だ。

これはゾー・ミン・トゥン国軍報道官が8月17日に明らかにしたもので、反軍政の民主派は「表現の自由」に反する行為だとして反発している。独立系メディア「イラワジ」が伝えた。

ミャンマーでは2021年2月1日のクーデター発生以降、軍政によるメディアやSNSの制限や遮断で民主派の活動、情報発信を警戒する弾圧が続いている。

軍政による人権侵害や市民への拷問、虐殺などの情報、ニュースは独立系メディアによって国内外に伝えられているが、こうしたメディアで働くミャンマー人記者らはタイなどの隣国に逃れて報道を続けるか、国内の国境周辺で軍と戦う少数民族武装勢力の支配地区などに潜伏して活動を続けており、インターネットは「命綱」となっている。

SNSは反軍政の牙城と批判
ゾー・ミン・トゥン国軍報道官はSNS、特にFacebookはクーデター以降、軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官のアカウントを閉鎖し、国軍の公式ページや軍幹部の個人アカウントも次々と閉鎖するだけでなく、軍が所有する企業の広告掲載も拒否している、と批判。

そして「反軍政の勢力が暴力を扇動する重要なチャンネルとなっている」と反軍政の牙城となっていることが明確でこのまま放置しておくのは問題だと指摘している。

「Facebookの掲載基準は一体どこにあるのか、なぜ個人のアカウントや広告掲載を消去するのか」とゾー・ミン・トゥン国軍報道官は疑問を口にして怒りを露わにした。

自前のSNSを設ける方針
そのうえで同報道官は今後Facebookに代わる軍政自前のSNSを創設する方針を示した。しかしいつどのような形で創設するのか詳細には言及せず、早期の実現は難しいとの見方も出ている。

軍政はクーデター以降、インターネットや携帯電話を頻繁に遮断、制限してきた。特に武装市民組織「国民防衛隊(PDF)」や少数民族武装勢力と軍による激しい戦闘が繰り広げられている地域や地方でこうした通信網の妨害を行って反軍勢力の情報交換や連絡を遮断してきた。

さらにFacebookやインスタグラムなどのSNSの監視も強化して、反軍政活動の動画や写真、コメントをアップした人物を特定、電子情報法違反や扇動罪などで逮捕している。

加えて軍政はSNSに接続するために必要な携帯電話などのSIMカードの税金も値上げして市民の購入を難しくするという苦肉の策も講じており、なんとかしてSNSにあふれる反軍政の情報発信を抑え込もうとしている。

情報戦で劣勢の軍の焦り
中心都市ヤンゴンではインターネット接続がしばしば遮断されるが、これが軍政による意図的な妨害の一環なのか、単なる接続会社などの技術的問題なのか判然としない、とヤンゴン在住の日本人は話す。

独立系メディアもインターネット上で軍による無抵抗、無実、非武装の一般市民の拷問や虐殺の惨い写真や映像で実態を暴露するために積極的に情報をアップしている。

さらにドローンを使った軍への攻撃の様子もアップして攻勢をアピールするなど、インターネット上の「情報戦」は民主派が圧倒しているのが実態だ。

このように反軍政の民主派による抵抗運動には携帯電話とインターネットが必要不可欠となっており、今回の措置は、その制限や遮断に本格的に軍政側が乗り出そうとしていることを示している。

クーデターから1年半を経過しても国内の治安安定達成には程遠い状況で、各地で軍とPDFや少数民族武装勢力による戦闘が毎日のように続いていることに対するミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍幹部の焦燥感が表れているのではないかとの見方が有力だ。【8月23日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ウクライナ問題のように世界の関心を集めることはありませんが、ミャンマーなど多くの国で圧制・弾圧に苦しむ市民が多く存在します。

****軍政批判のミャンマー国連大使「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ」****
ミャンマーのチョー・モー・トゥン国連大使は19日、読売新聞のオンライン取材に応じ、ノエリーン・ヘイザー国連事務総長特使が初めてミャンマーを訪問したことについて「国軍に(統治を存続させるために)利用されかねない」と懸念を示した。

国軍による昨年2月のクーデター以前に着任した大使は、軍政への批判を続けている。大使は「国軍は国際社会と向き合っているように見せかける一方、市民を殺害している。特使を受け入れたのは国軍の戦術だ」と指摘。弾圧を止めるには「圧力が必要だ」と述べた。

特使と国軍トップの会談を巡り、国軍側が統治の正統性を示すものだと主張していることには「国際社会はミャンマー国民の声を聞いてほしい」と述べ、軍政を認めないよう訴えた。

大使は、ロシアのウクライナ侵略に関心が集まりがちだが、「ウクライナもミャンマーも苦しんでいるのは市民だ。国際社会はミャンマーのことも忘れないでほしい」と求めた。【8月20日 読売】
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ミャンマー  国軍と民主派の両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きている住民

2022-08-03 23:08:23 | ミャンマー
(ミャンマーのマグウェ地方で、国軍の拠点を襲撃する民主派の武装組織=フェイスブックより【7月28日 西日本】 民主派の武装組織がどのような武器を有しているのか・・・この画像ではよくわかりません)

【非常事態宣言を半年延長 来年8月までに“民主派排除”の総選挙】
ミャンマー軍事政権が民主活動家の処刑を行ったことは7月26日ブログ“ミャンマー 民主派弾圧を強化する軍事政権、民主活動家4人を処刑 中国、ロシアとの関係強化”で取り上げました。

その軍事政権は非常事態宣言の2回目の半年延長(憲法既定ではこれが最後)を行い、来年8月までに軍がコントロールした形で総選挙を行う方針です。

****ミャンマー政変1年半 国軍、非常事態宣言を半年延長****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍は7月31日、昨年2月に発令した非常事態宣言を半年間延長することを決定した。今月1日でクーデターから1年半となったが、国軍が実権を手放す気配はなく、反発する民主派との間で対立が一層激化しそうだ。

国軍は昨年2月1日、大統領府相、外相、国家顧問を務めていたアウンサンスーチー氏らを拘束し、全土に非常事態宣言を発令した。憲法規定では非常事態宣言の期間は1年だが、半年ずつ2回まで延長できると定めており、今回が2回目の延長となる。

国営メディアは延長の理由を「総選挙実施に向けた準備のため」としている。国軍は来年8月までに総選挙を行う方針を示しているが、スーチー氏ら民主派は排除される見通しだ。

国軍トップのミンアウンフライン総司令官は1日の演説で、総選挙実施のために「平和と安定が欠かせない」と述べ、民主派が結成した「国民防衛隊」(PDF)などへの締め付けを強化する考えを示唆した。

同国の人権団体によると7月29日までに2138人が弾圧で死亡し、約1万5千人が拘束された。【8月1日 産経】
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【ASEAN さらなる民主派処刑なら和平計画見直しも】
ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官は1日、国営放送を通じて演説。
「暴力の即時停止」など東南アジア諸国連合(ASEAN)と合意した5項目について、市民の抵抗活動などを理由に「実現は難しかった」とし、「今年は可能な限り実現させる」と語りました。国内外で高まる国軍への批判をかわす狙いがあるとみられています。

上記のようにASEANに対し若干の歩み寄りの姿勢もにおわせていますが、5項目合意を無視され、特使派遣してもスー・チー氏など民主派とは会えず、更に民主活動家処刑ということで、ASEAN側は対応を硬化させています。

****ASEAN、ミャンマー和平計画見直しも さらに死刑執行なら****
東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が3日、開幕した。議長国カンボジアのフン・セン首相は冒頭、ミャンマー軍事政権が囚人の死刑をさらに執行すれば、ASEANはミャンマーとの和平計画の再考を迫られると述べた。

ASEANはミャンマーに対し、昨年合意した5項目の和平計画を順守するよう求めており、ミャンマーの軍事政権が民主活動家4人の死刑を執行したことを非難している。

フン・セン首相は和平計画について、誰もが望む通りには進展していないものの、人道支援の提供などでは一定の前進があったとした。

だが、民主活動家の死刑執行を受けて状況は「劇的に変化」し、和平計画の合意前より悪化したとみることもできると指摘。

「判決見直しを求める私や他の人々の訴えにもかかわらず死刑が執行されたことに(ASEAN諸国は)深く失望している」と述べた。

ASEAN議長報道官が1日明らかにしたところによると、今週の会議にミャンマーの代表は出席しない。国軍以外の代表を送る案を軍政が拒否したという。【8月3日 ロイター】
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いつも言うようにASEAN内部ではミャンマー軍事政権への対応で温度差があります。
マレーシアやシンガポールは強硬姿勢ですが、もともと軍事政権からスタートしたタイ・プラユット政権やミャンマー軍部との関係を維持する中国の意向を反映するカンボジア・ラオスなどは宥和的な姿勢です。

その比較的宥和的な議長国カンボジアのフン・セン首相が上記のように述べるのですから、メンツを潰された形になって苛立っているのかも。

【武器供与やASEAN首脳会議への参加を求める民主派だが・・・】
国軍と武装闘争を行っている民主派の抵抗政府である「国民統一政府(NUG)」は国際社会に武器供与を求めています。

****ミャンマー民主派抵抗政府が武器供与を訴え ASEANへの承認要望も****
<ウクライナへの欧米の軍事供与を念頭に要望>
ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍事政権に対抗するために組織された民主派の抵抗政府である「国民統一政府(NUG)」は7月28日に国際社会に対して軍装備品や武器弾薬の供与を求めた。

NUGは軍政が逮捕・訴追している民主政府指導者だったアウン・サン・スー・チー氏の側近だった民主派元国会議員と著名な民主活動家など4人の死刑確定囚への7月23日の死刑執行に対抗して、軍政との戦闘を強化するために武器供与は必要だとしている。

NUGのドゥア・ラシ・ラ大統領代行は「ファシスト軍政と戦うために命を犠牲にしているミャンマー人への技術支援、武器弾薬、資金援助を切実に要請する」と国際社会の協力を呼びかけた。

NUGはスー・チー氏の政権を支えた民主派政治家や少数民族代表により組織された抵抗政府。大統領代行はじめ主な閣僚やメンバーはミャンマー国内の少数民族武装組織の支配地域などに潜伏。あるいは国外に脱出して抵抗活動を続けている。

軍政はNUGをテロ組織としてメンバーの摘発に躍起となっているが、NUGはSNSや地下放送などで国内外から軍政批判と情報発信を継続している。

民主派政治犯への死刑執行に対してNUGは「4人の殉教者の犠牲は革命に大きな推進力を与えるだろう」と述べ、NUG傘下の武装市民抵抗組織「国民防衛軍(PDF)」に対し各地で軍との戦闘激化を指示している。

こうした武器供与要求の背景にはロシアが軍事侵攻したウクライナへの米国からの最新鋭の高度な誘導弾や精密砲弾などの武器提供があり、「国家同士の戦争と軍政と民主派組織の内戦という違いはあるが、多くの市民が戦闘や人権侵害で亡くなっている状況は同じ」との認識がNUGの根底にあるとされている。

対ASEANにNUGを認定要求
こうした武器供与の要求を国際社会に求めると同時にNUGはミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)に対してミャンマーを代表する政権としてNUGを認定し、ASEANが主宰する外相、財務相、国防相そして首脳会議にNUGの各閣僚、代表を参加できるように求めている。

8月3日に今年のASEAN議長国であるカンボジアで開催されるASEAN外相会議にもNUGは出席を求めている。同外相会議はミャンマー軍政の代表を招待しておらず、軍政代表欠席で主にミャンマー問題を協議する見通しとなっている。

このためNUGとしては「軍政代表がいない会議であればこそ我々NUG代表の参加を認めてほしい」としているが実現の見通しは暗い。

2021年2月1日のクーデターを受けて同年4月16日に樹立されたNUGは発足直後から「ミャンマーを代表する政権は軍政ではなくNUGである」として内外にアピールしているが、ASEAN内では意思統一ができずNUGにコンタクトしているのはマレーシアだけといわれている。

議長国カンボジアの思惑
ASEAN加盟国間ではミャンマー問題に関する温度差が存在するのも事実で、これが問題解決への道筋をつける「障害」になっているとNUGなどは指摘している。

クーデター後からミャンマー軍政に厳しい姿勢をとっているのはマレーシアとシンガポールだけに過ぎず、残る加盟国は「是々非々」というような曖昧な姿勢に終始している。

今年のASEAN議長国であるカンボジアはフンセン首相やASEAN特使であるカンボジアのプラク・ソコン外相らが何度もミャンマーを訪問しミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部と会談しているが、実質的な事態の進展はないのが現状である。

カンボジアは議長国としての成果を追及してASEAN内での存在感を誇示しようとするばかりで、そのいい例が2022年6月にカンボジアで開催されたASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招いたことだろう。ミャンマーを疎外させない方針で臨んだものの、他の加盟国からはコンセンサスを得ていないと反発を買ったのだった。

フンセン首相は「スタンドプレー」が好きだが、こうしたミャンマーを内に取り込んでの問題解決はミャンマーの後ろ盾である中国への配慮もあるとみられていた。カンボジアはラオスと並んでASEAN内の親中国派であることと無縁ではないことがマレーシアなどの反発の一因とされている。

何れにせよこのままでは11月に開催予定とされるASEAN首脳会議にミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する見込みは薄い。

一方でマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相が中心となってASEANのこれまでのミャンマー問題に対すアプローチを変えて、さらなる強硬姿勢を打ち出すべきだとの機運が高まっていると言われる。

果たして、NUGのドゥア・ラシ・ラ大統領代行やマン・ウィン・カイン・タン首相を「ミャンマーの首脳」として出席を求めることになるのか、ミャンマーの首脳欠席で開催するのか。ASEANはミャンマー問題で大きな岐路を迎えることになる可能性が高い。【8月1日 大塚智彦氏 Newsweek】
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現時点でASEANが首脳会議に民主派代表を招き、その主体性を発揮するようなことは100%ありえませんが、武器供与も同様に非現実的でしょう。そこまで民主派に肩入れしてミャンマー問題に深入りする国はないでしょう。

【国軍と民主派の板挟みになる住民 両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きている】
そうした状況で国軍と民主派武装勢力の争いが続いていますが、現地住民は両者の板挟みになって苦しんでいるとも報じられています。

民主派が地元住民に紛れて国軍車両に地雷を仕掛けたり、待ち伏せ攻撃をしたりして、死傷者が出ているということで、国軍は見境なく村を襲撃。国軍兵士は住民が逃げ去った後、家々を物色し、テレビなど金目の物を奪い、家に火を放っていくとも。

また、村の若者は民主派との関係を疑われ国軍の尋問施設に送られます。

一方、民主派の拠点を村に置くと、民主派に協力しない者は国軍寄りとみなされ、民主派から攻撃を受けることも。

国民の多くは、国軍と民主派の両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きているのが現実です。

【日本人ジャーナリスト拘束で起きる「自己責任論」】
日本に関係するところでは、7月30日、日本人ジャーナリストの久保田徹さんがデモ取材中に現地の治安当局に拘束されました。

****久保田徹さん ミャンマーで裁判へ 抗議デモ撮影“参加者とつながり”****
7月30日にミャンマーで拘束された久保田徹さん(26)が、今後、裁判を受ける見通しであることがわかった。

抗議デモを撮影中に、最大都市ヤンゴンで治安当局に拘束された久保田徹さんについて、国軍のゾーミントゥン報道官は2日、FNNの取材に対し、「取り調べは今も続いている」としたうえで、「彼はデモ参加者とのつながりについて認めたため、今後、裁判を受けることになる」と話した。

容疑の中身や、現時点で起訴されているかについて報道官は明かさなかったが、久保田さんは「観光ビザでミャンマーに入国した」という。【8月3日 FNNプライムオンライン】
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この種の問題が起きると、最近の日本では「自己責任論」が主張されることが多いようです。
ただ、それは紛争地域の取材報道を否定し、外の世界から目をそらし、今ある日本国内のささやかな安心・安全にしがみつこうとする内向き姿勢の表れのようにも思えます。

****「ジャーナリストではなくミャンマー国軍や警察を批判すべき」 日本人拘束でまた噴出する“自己責任論”****
(中略)これまでもミャンマーに限らず、海外で日本人が拘束されニュースになることは度々あった。そして、その度に浮上するのが「自己責任論」だ。今回もTwitterには、「これは自己責任としか言い様がない」「こういう人達が伝えてくれるから世界を知れる」と様々な声があがる。

■“リスクがある地域の取材”のあり方は
(中略)では、今回も噴出する「自己責任論」はどう考えるべきか。

まず元経産省のキャリア官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「自己責任だと思う」との立場から、「どの国でも邦人が危機に晒されれば日本政府は全力を尽くすが、そもそもとれる手段があまりないから“リスクがある”と渡航勧告をしている。そのリスクを承知で行ったことに対して、責任が他の人にあるというのは理論として無理がある。ただ、彼が自身の決断で行ってリスクを承知で危機に遭っているというのが事実で、他の人がどうこう言うことではないと思う」との見方を示す。

(ロイター通信記者でNGOヒューマン・ライツ・ウォッチの)笠井氏は「いわゆる軍事国家で反軍デモを取材するというのは、それなりの危険が伴う行為だとは思う」とした上で、「ここではっきりさせないといけないのは、久保田さんとデモに参加していた人たちは、報道の自由や表現の自由、結社の自由など、すごく基本的な権利を行使していただけであって、その権利を侵害したのはミャンマーの国軍や警察だ。これは被害者を責めるのではなくて、そういった権利を侵害している側を批判すべきだと思う」とコメント。(中略)

久保田さんの拘束が「自己責任だとは思わない」というプロデューサーの陳暁夏代氏は、「興味本位や旅行で行く人は自業自得だと思うが、彼はジャーナリストであって、職業として向かっている。プロと素人の違いは、知識があるかどうかや、対策をとっているかどうか。その上で行くのであれば職業だと思うし、対策しても防げない拘束といったことが起こった時に、国がどう対応するのか、組織としてどう動くかも問われてくるとは思う」との意見を述べる。(後略)【8月3日 ABEMA Times】
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【死と隣り合わせの現地ジャーナリスト】
久保田さんの場合は外国人ということで、まだ一定に配慮されているところがありますが、現地のジャーナリストは文字通り命がけの活動になります。

****日本人ジャーナリストと同日に拘束された現地人カメラマン、その日のうちに死亡 尋問中に暴行死か***
<午前2時に突然の家宅捜査で連行され、10時間後には家族に死亡通知>
ミャンマーで取材活動を続けていたカメラマンが7月30日に治安当局の家宅捜索を受け身柄を拘束された。そしてその日のうちに残された家族のもとに病院から入った連絡は衝撃的な内容だった。
「死亡したので遺体を引き取りたければ渡す」
 
家族が引き取ったカメラマンの遺体には目立った外傷はなかったものの、胸と背中に打撲痕らしいアザ、そして胸部に拘束前はなかった縫合した痕跡が残されていたことから、尋問中に受けた暴行が死につながった可能性が高く治安当局への批判が強まっている。

このカメラマンは地元中心の報道写真家の組織に属し、これまで反軍政を掲げる民主派市民のデモなどを撮影し、おもにSNSにアップするなどで情報発信をしていた。これが治安当局に知られ拘束に繋がったとみられている。

死亡したカメラマンはアイ・チョー氏(48)で中部ザガイン地方域のザガイン市内にある自宅に7月30日の午前2時ごろ、軍用車両6台が駆けつけて兵士が家族に対して「門を開けないと射撃する」と脅して自宅内に入った。

その後アイ・チョー氏を武器の不法所持容疑で拘束し、自宅内で家宅捜索を行ったと米国系メディア「ラジオ・フリーアジア(RFA)」が8月1日に伝えた。

拘束10時間後に死亡連絡
(中略)関係者はRFAの取材に対し匿名を条件に、アイ・チョー氏の遺体に「胸部に検視の際のような縫合した後があった。これ以外には特に外傷もなく血や体液などの漏洩もなかった」ことを明らかにした。

またカメラマン仲間のひとりは匿名で「アイ・チョー氏の拘束中から兵士は自宅をくまなく捜索したが武器等不審なものは一切発見されなかった」と述べ、武器所持という容疑そのものが事実に基づかない「身柄拘束のための虚偽容疑」だった可能性も十分あるとみられている。

怯える市民、カメラマンたち
アイ・チョー氏は「アッパー・ミャンマー(ミャンマー上部=中部)写真協会」に所属しながら、ザガイン市内で「ハイマン写真スタジオ」を経営するなど、報道関係者の間で人気と人望がありつつ、地元では親しみやすい人柄で有名だったという。

2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍によるクーデターが発生後は、地元ザガイン地方を中心に取材活動を精力的に行い、主に反軍政を掲げる民主派市民のデモなどの活動をカメラに収め、SNSなどで発信していた。その写真は民主派政治家や地元メディアなどに多く共有、拡散されたという。

反軍政デモに参加したザガイン市民などをアイ・チョー氏と一緒に取材したカメラマン仲間や地元報道関係者たちは、アイ・チョー氏が拘束されその日のうちに死亡したことを受けて、同様のことが自らの身に起こるかもしれない、との恐怖に怯えているという。

RFAによるとアイ・チョー氏と一緒に取材したことがあるという報道関係者は「兵士が突然自宅などにやって来て気に入らないものを発見したら恣意的な逮捕、殺害となる。法律なんてものはなく法律は兵士の銃口にある。兵士は何でも自分たちが望むことを実行するので、兵士が近くに来るだけで死刑が執行された気持ちになる」とザガイン市民の胸中を代弁したという。

(中略)久保田氏、そしてミャンマー現地のカメラマンや報道関係者に軍政がどのような対応をするのか、世界が注視していくことが求められている。【8月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
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ミャンマー  民主派弾圧を強化する軍事政権、民主活動家4人を処刑 中国、ロシアとの関係強化

2022-07-26 22:53:36 | ミャンマー
(【7月26日 FNNプライムオンライン】 25日、ヤンゴン 民主活動家4人の処刑への抗議行動)

【弾圧を激化する軍事政権 スー・チー氏を刑務所に】
昨年2月のクーデターで実権を掌握したミャンマー軍事政権が対抗勢力への弾圧を激化させています。

軍部は、アウン・サン・スー・チー氏率いるNLDが圧勝した2020年11月の総選挙について結果を否定し、不正選挙だと主張してクーデターを起こしました。

スー・チー氏は自宅軟禁から今年6月には軍刑務所の独房に移送された。裁判では、扇動、汚職、新型コロナウイルス関連の規則違反、電気通信法違反など、さまざまな罪を犯したとされており、量刑は懲役150年以上になる可能性があります。

****ミャンマー軍政、スーチー氏審理を刑務所内の法廷に移管=関係筋****
ミャンマー軍事政権が何ら説明なく、民主化指導者アウンサンスーチー氏(77)に対する全ての法的手続きを裁判所から刑務所に移すよう命じたことが分かった。同氏の裁判に詳しい関係筋が22日、明らかにした。

スーチー氏は昨年初めのクーデターで拘束され、複数の汚職を含む少なくとも20件の罪で起訴されたが、全ての罪を否認している。これまでには扇動の罪などで有罪判決を言い渡されている。

一部メディアは、スーチー氏が22日に自宅軟禁からネピドーの刑務所に移されたと報じた。ロイターはこれらの報道を独自に確認できていない。

関係筋は匿名を条件に、審理はネピドーの刑務所の新たな特別法廷に移されると説明。「特別法廷のための新しい建物が完成したということが裁判官によって宣言された」と述べた。軍が設置した評議会からは今のところコメントを得られていない。

スーチー氏の裁判所での手続きは非公開で行われ、国営メディアでは限られた情報しか報道されない。同氏の弁護士にはかん口令が敷かれ、審理日のみ面会が許されている。【6月23日 ロイター】
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ASEANのミャンマー担当特使を務めるカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相が6月30日、ミャンマーを訪問しましたが、スー・チー氏と面会は出来ず、事態の改善は図られていません。

****ASEAN特使、スーチー氏と会えず=仲介に行き詰まり―ミャンマー****
東南アジア諸国連合(ASEAN)の特使として、6月末からミャンマーを訪れていたカンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相が一連の日程を終えた。

クーデターで権力を握った国軍が拘束している民主化指導者アウンサンスーチー氏との面会は今回も実現せず、国軍と民主派の対話を仲介するASEANの取り組みは行き詰まりを見せている。

特使のミャンマー訪問は3月に続いて2回目。国軍トップのミンアウンフライン総司令官、国軍が外相に任命したワナマウンルイン氏らと会談し、暴力停止や遠隔地への人道支援を要求。また、刑務所敷地内の施設に移送されたスーチー氏を元の軟禁場所に戻すよう訴えた。【7月5日 時事】
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7月19日には、独立闘争の指導者で「建国の父」と慕われるアウンサン将軍が暗殺されてから75年となるのに合わせ、ミャンマーの最大都市ヤンゴンで軍事政権主催の追悼式典が開かれましたが、当然ながらアウンサン将軍の娘であるスー・チー氏の姿はありませんでした。

【民主活動家4人を処刑 ASEANも批判】
更に軍事政権は国際社会の批判に挑戦するがごとく、スー・チー氏率いた国民民主連盟(NLD)の元議員ら民主活動家2人を含む4人の死刑を執行しました。

地元メディアによると、政治犯の死刑執行は1976年以来で、それ以外の死刑執行も90年から行われていなかったとのことで、改めて軍事政権がその強硬な姿勢を世界にアピールした形となりました。

****ミャンマー軍政、民主活動家4人を処刑****
ミャンマーの軍事政権は、民主活動家4人を処刑した。国営メディアが25日に伝えた。同国での死刑執行は数十年ぶりとみられている。

軍政は今年6月に4人に対する死刑宣告を発表し、国際的に非難されていた。 処刑されたのは、ピョーゼヤトー元議員、作家で著名活動家のチョウミンユー氏(通称:コ・ジミー)、フラミョーアウン氏、アウントゥラゾー氏。

軍政は4人が「テロ行為」を行ったとして、テロ対策法のもとで起訴し、非公開の裁判で有罪とされた。いつ、どのような形で死刑を執行したのかは、明らかになっていない。

国営英字紙グローバル・ニュー・ライト・オブ・ミャンマーは、4人が「残酷で非人道的なテロ行為のため、指示と準備を重ね共謀した」と、処刑の理由を伝えた。 

昨年2月のクーデターで政権を掌握した軍政に対抗し、民主派や武装民族組織などが集まり樹立した「統一政府」は、4人の処刑に「衝撃を受け、悲しんでいる」と、軍政を非難した。

チョウミンユー氏(53)は1988年のミャンマー民主化運動を機に作られた市民組織「88世代学生グループ」のベテラン・メンバーだった。その活動のためたびたび刑務所に収監され、2012年に釈放されていた。しかし、ヤンゴンのアパートに武器を隠していたとして昨年10月に再び逮捕され、統一政府の「顧問」だと軍政に攻撃されていた。 

ピョーゼヤトー氏(41)は、国民民主連盟(NLD)の元議員で、現在収監中の元指導者アウンサンスーチー氏の側近だった。ヒップホップ・アーティストでもあり、軍政を批判するその歌詞は、しばしば軍部の怒りを買っていた。昨年11月に、テロ行為を理由に逮捕されていた。 

フラミョーアウン氏、アウントゥラゾー氏は、軍政の密告者だとされた女性を殺害した罪で、死刑判決を受けていた。 

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は軍政に対し、4人への死刑宣告は「生命、自由、安全という権利に対する甚だしい侵害」だと非難していた。(中略)

軍政による逮捕や殺害の動きを監視するミャンマー人団体「政治犯支援協会(AAPP)」によると、クーデーター以降、1万4847人が逮捕されており、推定2114人が軍部に殺害されているという。【7月25日 BBC】
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国連グテーレス事務総長の非難は上記にもありますが、一貫して軍事政権を厳しく批判してアメリカも更に態度を硬化させています。

****米、従来通りの対ミャンマー関係はあり得ず 民主活動家処刑で****
米国務省のプライス報道官は25日、ミャンマーの軍事政権が民主活動家4人を処刑したことを受け、同国との関係は「これまで通り」ではあり得ず、あらゆる選択肢を検討していることを明らかにした。

プライス報道官は定例記者会見で、各国に対し、ミャンマーへの軍事装備の売却を禁止し、軍事政権に国際的信用を与えるような行動を控えるよう呼びかけた。(後略)【7月26日 ロイター】
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ASEAN内には、ミャンマーとの関係が深い中国の影響力が強いカンボジアや、同じクーデター・軍事政権由来のプラユット政権のタイなど、比較的ミャンマーに宥和的な国もありますが、ASEANとの合意事項である暴力の即時停止など5項目が宙に浮いた形になっており、特使もスー・チー氏や民主派と面会できないなど、仲介が無視されたような状況を受けて、今回処刑実施を批判しています。

****ASEANもミャンマー軍政非難、民主活動家処刑で****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は26日、ミャンマー軍事政権が民主活動家4人を処刑したことについて、「非常に非難されるべき」とする声明文を出した。

ASEANは「今回の死刑執行に非常に当惑し、深く悲しんでいる」と表明。今年の議長国を務めるカンボジアは「この危機の複雑さはよく認識されており、ミャンマーの至る所から極端な好戦的ムードが感じられるが、ASEAN全体として最大限の自制を呼びかけてきた」と、異例の強い声明となった。ASEANにはミャンマーも加盟している。

また「第55回ASEAN閣僚会議のわずか1週間前に死刑判決が執行された」と非難。国連が支援するASEANの和平計画を支持する意思がミャンマー軍政には「全くない」ことを示しているとした。【7月26日 ロイター】
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ミャンマー国軍は、民主活動家4人の死刑執行について「国民の正義」のためだったと説明、国際社会の批判を一蹴しています。

****ミャンマー軍「死刑執行は正義のため」 国際社会の批判に反論****
ミャンマー国軍のゾーミントゥン報道官は26日、民主活動家4人の死刑執行について「国民の正義」のためだったと説明、国際社会の批判を一蹴した。

報道官は定例会見で、死刑は適切な手続きを経て行われたと主張。処刑されたのは民主活動家ではなく、処罰に値する殺人者だったと述べた。

「国民の正義のためだった。犯罪者には弁護する機会が与えられた。批判が出るのは承知していたが、これは正義のためだ」と述べた。

処刑の方法や場所は明らかにされていない。親族によると、事前に通告はなく、遺体の引き取りも認められていないという。【7月26日 ロイター】
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【軍事政権との関係を維持する中国 ロシアの関係も強化】
欧米・国連はもちろん、ASEANとも距離を置くミャンマー軍事政権ですが、国内に多くの権益を有する中国は国軍との関係を維持しています。

****中国 王毅外相がミャンマー訪問 クーデター以降初めて****
(中略)ミャンマーの国営テレビは3日、ミャンマーを訪問した中国の王毅外相が、軍が外相に任命したワナ・マウン・ルウィン氏と中部のバガンで会談したと伝えました。王外相がミャンマーを訪れたのは去年2月のクーデター以降、これが初めてです。

会談では、ミャンマーから中国への留学生の派遣や農産物の輸出拡大などについて意見が交わされたということで、ミャンマー軍としては国際的な孤立を深める中、中国との関係強化を内外にアピールするねらいがあるとみられます。

一方、中国外務省によりますと、王外相は会談の中で「両国関係は国際的な情勢の変化に影響されず、常に盤石だ」と述べたうえでミャンマーの国内情勢が早期に安定することに期待を示したということで、中国としてもミャンマーへの影響力を強め、巨大経済圏構想「一帯一路」などをさらに推し進めたい思惑がありそうです。【7月4日 NHK】
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経済協力などでスー・チー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権と緊密な関係を築いた中国は、クーデター後、国軍と民主派の双方に配慮する立ち位置をとってきました。

この日も王氏は「各勢力が国家の大局と人民の利益を重んじ、理性的な協議を続け政治的和解を実現することを期待する」と表明。中国側によると、ワナ・マウン・ルウィン氏は「民主的な転換プロセスを進める」と述べたとのこと。

ただ、市民の間では、中国がクーデターを黙認し国軍の統治を認めているとして反中感情が高まっています。クーデター直後に中国製品の不買運動が起きたほか、中国に天然資源を送るパイプラインの警備員3人が殺害され、ミャンマー進出中国企業の懸念材料になっています。

そうしたことからも、中国としても、ASEAN合意事項である「暴力の停止」など5項目の合意の履行による社会の安定を軍事政権に求めています。ワナ・マウン・ルウィン氏は王氏に「実現に努める」と述べたとか。

中国と並んで、軍事政権が関係を強めているのがロシア。

****ロシア、ミャンマーと防衛協力強化で一致=国防省****
ロシア国防省は12日、同省高官がミャンマー国軍のミンアウンフライン総司令官と11日にモスクワで会談し、防衛協力の強化で一致したと発表した。

同省によると、ミンアウンフライン氏は私的にロシアを訪問した。

国連人権理事会でミャンマーの人権状況を担当するアンドリュース特別報告者は2月に、ロシアがミャンマー軍政にドローン(無人機)、戦闘機、装甲車を供与したと述べていた。ミャンマーでは昨年2月に起きた軍事クーデター以降、情勢不安が続いている。【7月13日 ロイター】
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ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、2001年~21年のミャンマーの武器調達先はロシアと中国がそれぞれ4割余りを占めています。こうした軍事的なつながりを背景に、ミャンマー国軍報道官はロシアのウクライナ侵攻について「支持」を表明しています。

ミンアウンフライン総司令官はこのロシア訪問で軍事や農作物輸出だけでなく、ロシア関係機関と宇宙開発や原子力平和利用についても協議したとか。その意図はよくわかりませんが・・・。

国際社会の圧力をかわしたいミャンマーにとって、国連安全保障理事会の常任理事国でもあるロシアや中国との関係維持がいっそう重要になっているとも。

【来年8月までにやり直し選挙 NLDは拒否】
今後については、軍事政権は来年8月までにやり直し選挙を行うとしています。

しかし、軍事政権への抗議は力で封じ込まれ、国民民主連盟(NLD)はスー・チー氏をはじめ幹部が軒並み収監されたり、拘束されたりしています。逮捕されれば“死刑”も。
この状況で“まともな”総選挙が実施されるとは思えません。

****スーチー氏のNLD、選挙拒否 ミャンマー国軍が来年実施予定****
ミャンマーの民主化指導者アウンサンスーチー氏が率いた国民民主連盟(NLD)は9日、クーデターで全権を握った国軍により実施される総選挙を拒否するとの声明を発表した。国軍はNLDが圧勝した20年の総選挙を巡り、大規模不正があったと主張し、来年8月までにやり直し選挙を行うとしている。

NLDは声明で、再選挙は「国民や国際社会をだますために実施される」と非難。国軍が新たに組織した選挙管理委員会による手続きは違法で、全く受け入れられないと強調した。

21年2月のクーデター後、NLDはスーチー氏をはじめ幹部が軒並み収監されたり、拘束されたりしている。【7月9日 共同】
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この厳しい状況でも、ゲリラ的な抗議を続ける人々も。

****それでも...命がけのデモ 民主派処刑受け ミャンマー****
カメラの前で顔を隠し拳を突き上げる人たち。黒い横断幕を掲げ、声を張り上げる。
25日、ミャンマー最大の都市ヤンゴンで撮影された抗議デモの様子。

2021年2月の軍事クーデター以降、市民と国軍との衝突が幾度となく起きているミャンマー。

この日、アウンサンスーチー氏の側近など、4人の死刑が執行されたと報じられ、市民が抗議の声を上げた。
デモの最中には参加者たちへ向かって、近くの住民が拍手を送っていた。

小さな規模であっても、デモを行えば逮捕される危険と隣り合わせ。動画は、参加者たちが急いで立ち去ろうとする姿を映し、途切れた。

今も緊張が続く中で彼らが訴えていたことは...。横断幕には「わたしたちは決して恐れることはない」と書かれていた。

クーデターからもうすぐ1年半。勇気ある抗議行動は今も続いている。【7月26日 FNNプライムオンライン】
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