パキスタンでは、2月18日に行われた下院選挙における野党圧勝を受けて、人民党(PPP)のギラニ氏が先月24日下院で首相に選出され、31日新内閣が発足しました。
亡くなったブット前首相の夫である人民党のザリダル氏も、躍進したシャリフ派(PML-N)のシャリフ元首相も刑事訴追を受けていたため前回選挙には立候補できず、下院議員資格を要する首相にはなれません。
当初、党内外で人望があるファヒム人民党副総裁が有力視されましたが、ファヒム氏がムシャラフ大統領と近いことから連立するシャリフ派が難色を示すことと、また、ファヒム氏ではザリダル氏の影が薄くなってしまうことから、党内で対立があったようです。
その状況をにらんで、大統領を支持する「ムータヒダ民族運動」(MQM)がファヒムと連携を模索し、人民党分裂の危険も出てきました。
そこで、ザリダル氏サイドがMQMに働きかけて連立に加え、首相はギラニ氏にということで落ち着いたようです。
これで人民党内も一応まとまり、そしてムシャラフ大統領も「真の民主主義時代」の始まりとしてこの動きを歓迎。
さらに閣外の大統領支持の旧与党、パキスタン・イスラム教徒連盟カイデアザム派(PML-Q)も大統領の意向を受けて新政権に協力するというかたちで、ムシャラフ大統領が言うところの「国民和解政府」的な方向で動き出しました。
ムシャラフ大統領は選挙敗戦時は“死に体”とか言われ、“数日中に辞任”とかも噂されましたが、新政権にクリンチで抱きつくかたちで頑張っているようです。
“国民和解”の一環でしょうか、すでに先月、人民党のザルダリ氏の第2次ブット政権時代の汚職罪など7件の訴追事件ついて、有罪・無罪を判断せず裁判を打ち切る「免訴」とする決定が言い渡たされています。
この判決は、人民党との連立を模索していた大統領側の意向が働いた可能性が高いと推測されています。
これでザリダル氏は公民権を回復し、5月の下院補欠選挙に立候補して首相を目指す方針で、ギラニ新首相は暫定首相となる公算が大きいとされていますが、今更“ミスター10%”などと言われた人物が表に出ないほうが・・・なんても思ったりします。
連立の中核にある人民党とシャリフ派は対テロ対策で隔たりがあるとされています。
イスラム主義的なシャリフ派のシャリフ元首相はアメリカ主導の対テロ戦争と決別し、イスラム勢力との融和を主張していますが、人民党の故ブット元首相はテロ勢力への強硬姿勢を支持していました。
ギラニ新首相は29日、下院議会で施政方針演説を行い、対テロ戦争を「米国支援のため」ではなく、「パキスタンのために継続する」、「武器を捨てて平和を望むすべての人々との対話を受け入れたい」と語り、武装勢力に対話に応じるよう求めました。
これを受けて、パキスタン北西部の部族支配地域を拠点にする武装勢力の連絡組織「パキスタン・タリバン運動」は30日、「米国と手を切るならば(対話に)応じる」との声明を出しています。
国民の間にはムシャラフ政権が掃討作戦を強化したことで自爆テロが多発したとの不満があります。
また、掃討作戦の即時停止を訴える与党連合の第2勢力、シャリフ派の圧力もあり、従来の対テロ強硬路線を修正して対話路線に切り替えたようです。
国民のテロへの反発は、テロ勢力と近いとされるイスラム原理主義政党「統一行動評議会」(MMA)が今回選挙で壊滅的惨敗を喫したことにもあらわれています。
ただ、アメリカとの同盟関係を維持しながら対話路線を実行できるのか?アメリカがどのように対応するのか?
確かにここのところパキスタンからのテロのニュースは非常に少なくなったように思えます。
この静けさはいつまで続くのか?対話路線の結果、イスラム主義がさらに社会に浸透するのか?
?マークばかりで、今後の舵取りは容易ではないように見えます。
ムシャラフ大統領との関係は、大統領の弾劾よりも早期に解決すべき課題が山積しているとして、性急な対決は回避したいようですが、これも大統領に対し厳しい姿勢をとるシャリフ派との関係で難しい問題です。
内閣は30日以内にチョードリー前最高裁長官らムシャラフ大統領が昨年の非常事態で解任した判事63人の復職を目指す方針で、これを公約としています。
これが実現しチョードリー前最高裁長官が復職すれば、ムシャラフ大統領続投の正当性を否定する裁定を新しい最高裁が下す可能性が極めて強いと言われています。
改めて大統領選挙を行えばムシャラフ大統領には政権維持の目がありません。
“国民和解”の線で行くのか、一気に大統領との対決路線に進むのか?
決定的な分かれ道が待ち構えています。
思いがけず、改善の兆しが出てきたのが、宿敵インドとの関係。
2月の総選運動では、これまでの様にインドに対する敵意を煽る発言がありませんでした。
PPP、PML-Nは、選挙マニフェストでインドとの友好関係促進を図り、ジャンム、カシミール議論は後日に回すとしていました。
ザリダル氏は、3月1日のTインタビューで、長期化するカシミール問題でインドとの良好な関係を犠牲にすることはないと発言。
インドのシン首相もこれを受けて、新たなインド・パキスタン関係の始まりに期待を寄せていると報じられています。【4月1日 IPS】
このような政治的背景を受けてのことでしょうか、インド主要各都市で今月4日、1965年の第2次印パ戦争以来43年ぶりとなるパキスタン映画「神の名において」(ショアイブ・マンスール監督)の上映が始まりました。
パキスタンでは同戦争後インド映画の上映が禁止されましたが、04年の和平プロセス開始による緊張緩和の中で06年に特例上映が認められ、今年2月には禁止が正式解除されています。
インドではパキスタン映画上映を禁じる法律はありませんでしたが、元々制作本数が少ないのと、反インド的表現が多いなどの理由で上映されなくなっていました。【4月4日 読売】
パキスタンもインドと事を構える余裕などないでしょうから、是非ともこの対インド関係改善が進展することを望みます。
恐らく、このような動きに反対する勢力はテロ等で揺さぶりをかけてくるのでしょうが。
路線の異なるPPPとPML-Nの連立、リーダーを欠いたPPP内外の混乱など、パキスタン政局は大混乱も懸念されましたが、ギラニ新政権は“無難な”スタートをきったように見えます。
もちろん、今後に待ち受けるムシャラフ大統領との関係、対テロ勢力との対話路線・・・どれも難題です。
亡くなったブット前首相の夫である人民党のザリダル氏も、躍進したシャリフ派(PML-N)のシャリフ元首相も刑事訴追を受けていたため前回選挙には立候補できず、下院議員資格を要する首相にはなれません。
当初、党内外で人望があるファヒム人民党副総裁が有力視されましたが、ファヒム氏がムシャラフ大統領と近いことから連立するシャリフ派が難色を示すことと、また、ファヒム氏ではザリダル氏の影が薄くなってしまうことから、党内で対立があったようです。
その状況をにらんで、大統領を支持する「ムータヒダ民族運動」(MQM)がファヒムと連携を模索し、人民党分裂の危険も出てきました。
そこで、ザリダル氏サイドがMQMに働きかけて連立に加え、首相はギラニ氏にということで落ち着いたようです。
これで人民党内も一応まとまり、そしてムシャラフ大統領も「真の民主主義時代」の始まりとしてこの動きを歓迎。
さらに閣外の大統領支持の旧与党、パキスタン・イスラム教徒連盟カイデアザム派(PML-Q)も大統領の意向を受けて新政権に協力するというかたちで、ムシャラフ大統領が言うところの「国民和解政府」的な方向で動き出しました。
ムシャラフ大統領は選挙敗戦時は“死に体”とか言われ、“数日中に辞任”とかも噂されましたが、新政権にクリンチで抱きつくかたちで頑張っているようです。
“国民和解”の一環でしょうか、すでに先月、人民党のザルダリ氏の第2次ブット政権時代の汚職罪など7件の訴追事件ついて、有罪・無罪を判断せず裁判を打ち切る「免訴」とする決定が言い渡たされています。
この判決は、人民党との連立を模索していた大統領側の意向が働いた可能性が高いと推測されています。
これでザリダル氏は公民権を回復し、5月の下院補欠選挙に立候補して首相を目指す方針で、ギラニ新首相は暫定首相となる公算が大きいとされていますが、今更“ミスター10%”などと言われた人物が表に出ないほうが・・・なんても思ったりします。
連立の中核にある人民党とシャリフ派は対テロ対策で隔たりがあるとされています。
イスラム主義的なシャリフ派のシャリフ元首相はアメリカ主導の対テロ戦争と決別し、イスラム勢力との融和を主張していますが、人民党の故ブット元首相はテロ勢力への強硬姿勢を支持していました。
ギラニ新首相は29日、下院議会で施政方針演説を行い、対テロ戦争を「米国支援のため」ではなく、「パキスタンのために継続する」、「武器を捨てて平和を望むすべての人々との対話を受け入れたい」と語り、武装勢力に対話に応じるよう求めました。
これを受けて、パキスタン北西部の部族支配地域を拠点にする武装勢力の連絡組織「パキスタン・タリバン運動」は30日、「米国と手を切るならば(対話に)応じる」との声明を出しています。
国民の間にはムシャラフ政権が掃討作戦を強化したことで自爆テロが多発したとの不満があります。
また、掃討作戦の即時停止を訴える与党連合の第2勢力、シャリフ派の圧力もあり、従来の対テロ強硬路線を修正して対話路線に切り替えたようです。
国民のテロへの反発は、テロ勢力と近いとされるイスラム原理主義政党「統一行動評議会」(MMA)が今回選挙で壊滅的惨敗を喫したことにもあらわれています。
ただ、アメリカとの同盟関係を維持しながら対話路線を実行できるのか?アメリカがどのように対応するのか?
確かにここのところパキスタンからのテロのニュースは非常に少なくなったように思えます。
この静けさはいつまで続くのか?対話路線の結果、イスラム主義がさらに社会に浸透するのか?
?マークばかりで、今後の舵取りは容易ではないように見えます。
ムシャラフ大統領との関係は、大統領の弾劾よりも早期に解決すべき課題が山積しているとして、性急な対決は回避したいようですが、これも大統領に対し厳しい姿勢をとるシャリフ派との関係で難しい問題です。
内閣は30日以内にチョードリー前最高裁長官らムシャラフ大統領が昨年の非常事態で解任した判事63人の復職を目指す方針で、これを公約としています。
これが実現しチョードリー前最高裁長官が復職すれば、ムシャラフ大統領続投の正当性を否定する裁定を新しい最高裁が下す可能性が極めて強いと言われています。
改めて大統領選挙を行えばムシャラフ大統領には政権維持の目がありません。
“国民和解”の線で行くのか、一気に大統領との対決路線に進むのか?
決定的な分かれ道が待ち構えています。
思いがけず、改善の兆しが出てきたのが、宿敵インドとの関係。
2月の総選運動では、これまでの様にインドに対する敵意を煽る発言がありませんでした。
PPP、PML-Nは、選挙マニフェストでインドとの友好関係促進を図り、ジャンム、カシミール議論は後日に回すとしていました。
ザリダル氏は、3月1日のTインタビューで、長期化するカシミール問題でインドとの良好な関係を犠牲にすることはないと発言。
インドのシン首相もこれを受けて、新たなインド・パキスタン関係の始まりに期待を寄せていると報じられています。【4月1日 IPS】
このような政治的背景を受けてのことでしょうか、インド主要各都市で今月4日、1965年の第2次印パ戦争以来43年ぶりとなるパキスタン映画「神の名において」(ショアイブ・マンスール監督)の上映が始まりました。
パキスタンでは同戦争後インド映画の上映が禁止されましたが、04年の和平プロセス開始による緊張緩和の中で06年に特例上映が認められ、今年2月には禁止が正式解除されています。
インドではパキスタン映画上映を禁じる法律はありませんでしたが、元々制作本数が少ないのと、反インド的表現が多いなどの理由で上映されなくなっていました。【4月4日 読売】
パキスタンもインドと事を構える余裕などないでしょうから、是非ともこの対インド関係改善が進展することを望みます。
恐らく、このような動きに反対する勢力はテロ等で揺さぶりをかけてくるのでしょうが。
路線の異なるPPPとPML-Nの連立、リーダーを欠いたPPP内外の混乱など、パキスタン政局は大混乱も懸念されましたが、ギラニ新政権は“無難な”スタートをきったように見えます。
もちろん、今後に待ち受けるムシャラフ大統領との関係、対テロ勢力との対話路線・・・どれも難題です。