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(ジンバブエ 野党MDCのツァンギライ議長の選挙ポスター
“flickr”より By frontlineblogger
http://www.flickr.com/photos/12086274@N05/2379944424/)
“民主的な政治システム”と“選挙による国民の意思の反映・政権交代”というものは不可分のものと普通に考えていますが、選挙を行ったから“民主的な政治システム”が担保されるものでないことは、最近の各国で行われる選挙事情を見るたびに感じるところです。
民主主義を偽装するための選挙としか考えられないような選挙もしばしば見かけます。
政治活動の自由が保障されているか、イランやこれからのミャンマーのように立候補資格が政権側に極端に有利にコントロールされていないか・・・など制度的な問題もありますが、選挙が成立するためには、その結果を受け入れる信頼関係が社会全体にないと、結果をめぐって“不正操作があった”“受け入れられない”といったトラブルに発展します。
実際、“操作”が行われたのであれば論外ですが。
12月に行われ、その結果をめぐって民族間の対立・暴動に発展し、1500人以上の死者、数十万人の避難生活者を出したケニアの大統領選挙が、ようやく一応の決着をみたようです。
キバキ大統領のもとで、対立候補だったオディンガ氏が新たに設けられた首相ポストに就任し、両者の連立政権が合意されました。
連立する両者間でのポスト配分のためでしょうか、内閣はこれまでの17人制に代わり、42人制となるそうで、これに対する批判もあるとか。【4月13日、14日 AFP】
まあ、これでなんとか収まるなら、この際止むを得ないのでは。
一方、収まる気配がない、ますます悪化しているのがジンバブエ。
先月29日に行われた大統領選挙の結果公表がまだなされていません。
“遅れている”というより、自分に不利な結果をムガベ大統領は公表する気がないようです。
もしくは、“幾分結果を操作するまでは”公表しない様子です。
選挙では対立候補の野党MDCのツァンギライ議長が有利な結果(MDCの独自集計で、ツァンギライ議長が50.3%、ムガベ大統領が43.8%)を収めたようですが、選管からの公式発表がなされていません。
そもそも、過半数を獲得しない場合決選投票になるのですが、MDC側が50.3%で“過半数を超えた”としているのに対し、選管サイドからは“過半数は51%が必要”との主張がなされているようです。
ある意味“微妙な”数字だったようで、ムガベ大統領側も少し“いじりたく”なるのかも。
当初は与党サイドからも、今回投票結果についてはともかく、“決戦投票はいとわない”旨の発言もありましたが、最近では選管に再集計を指示するなど、どのように結果を糊塗するつもりなのか全く不透明な状況です。
MDCは選挙結果公表を求めて高等裁判所に提訴しましたが、裁判所はこれを却下しました。
MDCは訴えが認められない場合大規模な座り込みストを行うことを公表していました。【4月15日 AFP】
このゼネストがどうなっているのか定かではありません。
ムガベ政権側は政治的デモ活動を禁止するなど締め付けを強めています。
周辺国の仲裁も行われました。
ザンビアが呼び掛けた南部アフリカ開発共同体緊急首脳会議が12日開かれました。
これにMDC側はツァンギライ議長が出席しましたが、ムガベ大統領は欠席、ムガベ氏の代理として大臣4人が出席した模様です。
結局この会議でも有意な対応は出なかったようで、選挙結果公表と各党への選挙結果の受け入れを促す程度にとどまっています。【4月14日 毎日】
ミャンマーに対するASEANにしてもそうですが、多少なりとも“すねに傷がある”周辺国が集まっても、自国への波及を恐れて、腰が引けた対応しかできないのが常です。
警察当局は9日に「大統領が不利になるよう不正を行った」として選管関係者5人を逮捕。
選管は「票の数え間違いがあった」として13日、23選挙区で大統領選や下院選の票を再集計するよう命じています。
政府は15日、国内で正規に取材活動を行っていた外国メディアのビザ延長を認めない方針を明らかにし、外国メディアの多くは、国外に退去を始めています。
政権側は着々と“操作”を進めているようです。
自分に不利な結果は認めない選挙とは一体なんなのか?
最近のジンバブエからのニュースには腹立たしいものがあります。
現地の人々にとっては“腹立たしい”だけではすみません。
選挙による政権交代がこういう形で封じられてしまうのであれば、あとはどうすればいいのか?
ゼネスト、デモ、大規模集会等々で辞任を迫る・・・そういうことが仮にありえたとしても、恐らく大量の血が流されることになりそうです。
そんなジンバブエの最近の様子。
****医療崩壊の危機 独裁政権のしわ寄せ拡大****
アフリカ南部・ジンバブエで、庶民の暮らしを無視した政策や「独裁」に対する欧米の経済制裁が原因で、医療が崩壊の危機にひんしている。
電気も水道も止まり、水も井戸でくみあげるなど、悲惨な現状を地方都市で見た。
首都ハラレから南へ約140キロ。中部チブの公立ナリラ地方病院は停電が続き、暗闇に包まれていた。
医師は一人もいない。
24時間態勢で対応に追われる男性看護師長は「搬送が遅れ、救える命が失われていく。医療機器、薬、すべてが欠乏している」と訴えた。
病院には使い古された医療機器が置かれていたが停止したままだ。
水道は止まり、毛布やシーツは川で洗濯後、天日干しする状態だ。
看護師長は「薬や包帯から人員まで不足している。住民の協力だけが残された医療体制だ」と話す。
看護師長は80年代を懐かしむ。独立後、農業国として順調に発展し、医療サービスも十分だった。ムガベ大統領が独裁色を強め、経済が悪化するにつれ、予算が減らされ、医療サービスも薬の供給も不十分にならざるをえなくなった。【4月15日 毎日】
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****インフレ率16万%以上に******
アフリカ南部ジンバブエからの報道によると、同国の2月のインフレ率が16万4900%に達したことが16日発表された公式統計で明らかになった。
1月時点では約10万%だったが、食糧や燃料の慢性的な不足がインフレに拍車を掛けた。 【4月17日 時事】
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10万%にしても、16万%にしても、経済崩壊としか言い様がありません。
こんな状態で政権維持に固執するムガベ大統領は異様にも思えます。
独裁者というのはそういうものなのでしょうが、それでも、選挙直後“ムガベ大統領が辞任に基本合意した”という情報が流れました。【4月2日 AFP】
また、「大統領は敗色濃厚な中でどう生き残るか画策している模様だ。外交筋によると大統領は3日、隣国・南アフリカのムベキ大統領と今後の対応を話し合った模様だ。ムガベ大統領自身や家族の身の安全、不正を追及する訴追の回避などが議題になったとみられる。一部の報道によると、大統領の家族が退任を勧め、居座りを主張する側近らと対立し始めているという。」という記事も流れました。【4月4日 毎日】
今まで自分たちがやってきたことを考えると、権力を手放すと自らが糾弾されることになる。
自分だけでなく、大統領権威に群がる多数の既得権益者が存在し、大統領の一存だけでは決められない。
そんな“独裁・強権政治”の実態が浮かび上がります。