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(ゴラン高原に立つ標識 エルサレム、ダマスカス、バグダッドなどへの距離表示がこの地の戦略的重要性を窺わせます。“flickr”より By mockstar
http://www.flickr.com/photos/mockstar/237985921/)
自己主張を曲げない強気の姿勢のイメージがあるイスラエルですが、その存在を認めない国々に囲まれて、“生き残り”をかけていろんな交渉も進めてはいるようです。
昨夜、イスラエルがシリアとゴラン高原返還の交渉をしているという記事を目にしました。
この話自体は以前からも伝えられていたものです。
****イスラエル、シリアにゴラン高原返還を打診****
イスラエルのオルメルト首相がシリアのアサド大統領に、ゴラン高原を返還し和平協定を結ぶ用意があるとトルコを介して伝えていたとの報道について、アサド大統領は事実と認めた。
オルメルト首相は前週、エルドアン・トルコ首相を通じてゴラン高原返還の意志を伝えたという。
アサド大統領は、エルドアン首相が26日にシリアを訪問した際に、本件について協議するとしている。
イスラエル政府報道官は、アサド大統領の発言について直接の言及は避けながらも、イスラエルはシリアとの和平協議に臨む用意があり、イスラエルとシリアは互いの要求を理解しているはずだと語った。【4月24日 AFP】
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イスラエル北部からシリア南部に広がるゴラン高原は、イスラエルが1967年の第3次中東戦争でシリアから占領。イスラエルは1981年に併合を宣言しましたが、国際的には認められていません。
96年以降、日本からも自衛隊がPKOとして派遣されています。
イスラエルとシリアの兵力引き離しの国連監視活動の一環です。
イスラエル・シリアの交渉は、2000年にイスラエルのバラク首相とシリアのアシャラ外相が米ウェストバージニア州シェパーズタウンで会談する形でも行われましたが、このときは交渉が成立しませんでした。
シリア側は、ゴラン高原とイスラエル領土に挟まれたガリラヤ湖岸までイスラエルが撤退することを要求していました。
個人的には第4次中東戦争(73年)のときのイスラエル対シリアの戦車戦のイメージが強い場所です。
戦車の数ではイスラエル180両に対しシリア1400両と圧倒的でしたが、イスラエルが善戦。
シリアも緒戦こそ何とか結果を出しましたが、結局はイスラエルの反抗でシリアは撤収、イスラエル軍が首都ダマスカスに迫る情勢になりました。
「イスラエルってやっぱり軍事的には強い国だな・・・、それともシリアが弱すぎるのかな・・・」という印象を持ちました。
ウィキペディアによると「(イスラエル軍は)ダマスカスのわずか手前で進軍を止め、突入しなかった。ダマスカスを陥落させると、ソ連軍がイスラエルに対して宣戦する用意があるとの情報がもたらされたからとされている。」とのこと。
もし、そんな事態になっていれば、次はアメリカの参戦でしょうから、世界も今とは違った状況になったかも。
平和な市民生活の裏側で、世界の情勢は“綱渡り”というか、薄氷を踏むような場面を繰り返しているようにも見えます。
シリアというと、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスの最高幹部メシャール氏がカーター元アメリカ大統領と21日にシリアで会談、ヨルダン川西岸とガザ地区を領土とするパレスチナ国家を受け入れると明言したニュースが最近ありました。
シリアとイスラエルの交渉は今月初旬にはすでにメディアにも報じられていましたので、当然この動きは前提にしたメシャール・カーター会談でしたが、なんらか関連はあるのでしょうか。
昨年9月にはシリアが建設中の原子炉と思われる施設をイスラエルがいきなり爆撃破壊。
つい2ヶ月ほど前には、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの民兵組織指揮官の1人、イマド・ムグニエ容疑者がシリアで殺害され、ヒズボラ側はイスラエルによる暗殺とこれを非難。
ハマス支配のガザ地区へのイスラエル軍侵攻と合わせて、イスラエル対ハマス、ヒズボラ、更にそれを後押しするシリア、イランという対立関係が激化して“一触即発”のようにも見えましたが、万華鏡のように変化するのも国際情勢です。
もっとも、ムグニアエ容疑者殺害については、ヒズボラが報復するという情報、それに対するイスラエルの報復を恐れてシリアが予備兵の動員を始めた・・・というような報道も4月はじめ段階ではあって【4月11日 IPS】、今後どうなるのか・・・いかようにも転がるのがまた国際情勢です。
シリア、イスラエルの動向を現実的に左右するのが大国アメリカの思惑です。
両者ともアメリカの意向を見極めながらの動きとなります。
そのアメリカは24日、シリアが東部の砂漠地域で昨年9月まで、核兵器原料となるプルトニウムを生産できる原子炉を秘密裏に建設しており、北朝鮮がこれを支援していたと確信するとの声明を発表しました。
北朝鮮によるシリアへの核拡散疑惑について、米政府が明確に認めたのはこれが初めてとなります。
一方、ヨルダンのアブドラ国王とパレスチナ自治政府のアッバス議長が相次いで訪米し、23日、ブッシュ大統領やライス国務長官と個別に会談しています。
ブッシュ大統領は24日、アッバス議長とホワイトハウスで会談し、来年1月の任期終了までにパレスチナ国家樹立が合意に達するのを「確信している」と言明。
ブッシュ大統領は、パレスチナ国家の樹立を「最重要課題」とし、「(穴のある)スイスチーズのようではない」国家の樹立をアッバス議長に言明したことを明らかにしています。
こうしたシリア、イスラエル、パレスチナ、アメリカなど関係各国の動きをひとつにしてガラガラとかき回すと、新たな枠組みが出てくるのか、いままでどおりの混乱か?
変わりそうで変わらないのも国際情勢で・・・。
国連パレスチナ難民救済事業機関は24日、ガザ地区に燃料を供給するためのイスラエルの燃料貯蔵施設の閉鎖が続く中、燃料を使い切ってしまったためガザでの食糧配給を停止したことを発表しています。