周知のように、ルーマニア・ブカレストでの4日のNATO・ロシア理事会の後、場所をロシア南部の保養地ソチに移して、5日・6日ブッシュ・プーチン両大統領の協議が行われました。
懸案事項の具体的な進展はありませんでしたが、両大統領とも次期体制への引継ぎということもあって、務めて友好的な雪解けムードの演出がなされたようです。
ブッシュ大統領は会談後、「冷戦は終わった。米露は平等のパートナーであり、両国の指導者は不一致を解決すべく努力することが大切だ」と。
“新冷戦”を終えて“新デタント”との評価も報じられています。
もともと“新冷戦”も、大統領選挙を控えたロシア国内の引締めのためとも言われることがありましたが、今度は“リベラル”なメドベージェフ新大統領を国際社会にデヴューさせるべく、雪解けの演出でしょうか。
こうした大国のパワー・ゲームに振り回される周辺国は大変です。
チェコ・ポーランドでアメリカが進めるミサイル防衛(MD)システムについては、ロシアは依然同意できないと繰り返したものの、アメリカ側が要請した信頼の強化については、実行されるならば「重要かつ有益」と共感を示しました。
また、ロシア政府も「ミサイル攻撃の可能性に対処するシステムの構築」に関心があることを付け加え、ミサイル防衛分野における米露両政府の共同作業の可能性を示唆しています。
プーチン大統領は会談後、「最終的な合意について慎重ではあるが楽観的だ。自分には可能に思える」と。
ロシアが反対している“旧ソ連のウクライナ・グルジアのNATO加盟問題”は、賛成派のアメリカと、大国ロシアに配慮する欧州主要国が歩み寄れず、今会議では持ち越しとなりました。
しかし、「ブカレスト宣言」には将来的に「NATOのメンバーとなることで加盟国は合意した」と明記。
ライス米国務長官は両国の加盟候補国入りが「時間の問題となった」と強調しています。
両国の加盟候補国入りは、12月のNATO外相理事会で再検討されることになります。
プーチン大統領は「強力な国際機構が国境を接するということはわが国の安全保障への直接的な脅威とみなされる」と批判しています。
ウクライナには欧州向け天然ガス・パイプラインの大動脈が通るうえ、首都キエフは“キエフ公国”建国の地であり、ロシア人の“精神的故郷”とも言える地域です。
グルジアもカスピ海産ガスの搬送経路にあたり、トルコやイランなどイスラム世界と近接する戦略的要衝の地です。
単に隣接する“勢力圏”が侵されるという以上の意味がロシアにはあります。
プレーヤーであるアメリカ・ロシアの思惑はともかく、周辺各国もそれぞれの事情を抱えており、単なるゲームの駒ではありません。
MDシステムについては、レーダー施設が配備されるチェコは3日アメリカと最終合意しました。
しかし、ミサイル基地が予定されているポーランドは少し揉めています。
民族主義を掲げる極右的カチンスキー前政権は、ロシアを敵視するだけでなく、ドイツとも対立するなどEUとの関係をも複雑にしていました。
MDシステムについては、そのカチスキー前政権が同意したものですが、現在ポーランド・メディアのほとんどがその対米政策についても甘すぎたと批判しているそうです。
昨年10月に行われた総選挙では、EUとの連携を重視する中道右派政党「市民プラットフォーム」が勝利を収め、もう一つの中道右派政党「ポーランド農民党」とともに、「市民プラットフォーム」の若い党首ドナルド・トゥスクを首相とする新政権がスタートしました。
トゥスク政権はロシア敵視政策を含めた全面的な外交政策見直しを進めており、ロシアとの関係改善も進んでいます。
まずポーランド側は、野党「法と正義」の反対にも拘わらず、ロシアの経済開発協力機構(OECD)加盟交渉妨害を撤回しました。
12月2日にはこれに答える形で、ロシアが05年11月から続いていたポーランド産食肉の輸入禁止を解除しました。
今年2月にはトゥスク首相が6年ぶりにロシアを訪問しました。
ロシアはバルチック海を経由してドイツへ至る天然ガス・パイプラインの建設を計画しています。
計画が実行されると、ポーランドはロシア資源外交への影響力と通過収入を失うことになります。
ポーランド政府は、ロシアのガスプロム社が陸路を採用するよう希望しています。
一方、ロシアは、ロシアとEU間の新合意(パートナーシップ)に対する拒否権発動をポーランドが取り下げることを望んでいるそうです。
また、当然ミサイル配備についても反対しています。
先のロシア訪問ではこのあたりの進展はなく、トゥスク首相は「私とプーチン大統領は、米国の迎撃ミサイル発射基地を設置するポーランドの計画をめぐって意見が合わないという点で意見の一致をみた」と明らかにするとともに、「ポーランドとしては当面、EU・ロシアのパートナーシップ交渉に対する拒否権行使を維持する」と述べています。
ただ“流れ”としては、ポーランド外交はアメリカ一辺倒ではなく、“歴史的な宿敵”ロシアをも敵視しない政策へと転換しつつあります。
トゥスク政権は、「ロシアが隣国における軍備強化を憂慮するのは理解できる」と、モスクワの反対意見に耳を傾けるとの態度を示しつつ、アメリカに対しては、「基地が建設されればそれがロシアの攻撃目標になる」として、航空防衛と軍の近代化を中心にした具体的な“見返り”を要求しています。
ポーランドには、“アメリカに協力して真っ先に大量の兵士をイラク、アフガニスタンに派遣した。しかし約束された建設・石油ビジネスへの参入は実現していない。”という不満があるそうです。
ポーランドの要求を満たすには、アメリカは追加200億ドルの予算が必要となり、これによりポーランドは米国にとって最大の軍事援助国となります。
ライス国務長官はポーランドに対し、“ポーランドの安全はNATOにより完全保証されており、軍事力の更なる強化はロシアの反発を買うだけだ。”と説得したそうです。
ポーランドの政策変更に伴い、アメリカ側には代替国を探す可能性も出てきているそうですが、ここまでロシアと揉めてきた以上、今更“別の国で・・・”といったふうに後には引けないのが実情ではないでしょうか。【4月3日 IPS】
NATO拡大問題については、ロシアはウクライナを親欧米派とともに2分する親露派世論の喚起に懸命で、「NATO入りした場合にはミサイルの照準を向ける」(プーチン大統領)などと警告しています。
グルジアには同国内の親露分離派地域の「独立承認」や「併合」をちらつかせ、“恫喝”を強めています。
今後もロシアは両国への圧力を強めるものと思われます。
そのウクライナですが、天然ガス・パイプラインの問題で“盗んでいる”とか“代金を払わない”とか、ロシアとの間で、およそ国家間のやりとりとは思えないようなやりとりでいつも揉めます。
ウクライナに言わせれば、“ロシアはエネルギー資源を政治・外交に利用している”というところですが、ロシアに言わせれば“ウクライナこそ天然ガスを国内政治に利用している”となるのでしょう。
ウクライナでロシア相手の強硬な交渉を主導しているのが親欧米・反ロシアのティモシェンコ首相。
その政治スタイルには国内でも批判があるようですが、人気は高まっているとかで、09年の次期大統領選挙の有力候補になりつつあるとか。【4月2日 IPS】
しかし、NATO加盟問題に絞ると、加盟を積極的に支持するのは国民の3割程度しかないと言われます。
ティモシェンコ首相の舵取りは?
懸案事項の具体的な進展はありませんでしたが、両大統領とも次期体制への引継ぎということもあって、務めて友好的な雪解けムードの演出がなされたようです。
ブッシュ大統領は会談後、「冷戦は終わった。米露は平等のパートナーであり、両国の指導者は不一致を解決すべく努力することが大切だ」と。
“新冷戦”を終えて“新デタント”との評価も報じられています。
もともと“新冷戦”も、大統領選挙を控えたロシア国内の引締めのためとも言われることがありましたが、今度は“リベラル”なメドベージェフ新大統領を国際社会にデヴューさせるべく、雪解けの演出でしょうか。
こうした大国のパワー・ゲームに振り回される周辺国は大変です。
チェコ・ポーランドでアメリカが進めるミサイル防衛(MD)システムについては、ロシアは依然同意できないと繰り返したものの、アメリカ側が要請した信頼の強化については、実行されるならば「重要かつ有益」と共感を示しました。
また、ロシア政府も「ミサイル攻撃の可能性に対処するシステムの構築」に関心があることを付け加え、ミサイル防衛分野における米露両政府の共同作業の可能性を示唆しています。
プーチン大統領は会談後、「最終的な合意について慎重ではあるが楽観的だ。自分には可能に思える」と。
ロシアが反対している“旧ソ連のウクライナ・グルジアのNATO加盟問題”は、賛成派のアメリカと、大国ロシアに配慮する欧州主要国が歩み寄れず、今会議では持ち越しとなりました。
しかし、「ブカレスト宣言」には将来的に「NATOのメンバーとなることで加盟国は合意した」と明記。
ライス米国務長官は両国の加盟候補国入りが「時間の問題となった」と強調しています。
両国の加盟候補国入りは、12月のNATO外相理事会で再検討されることになります。
プーチン大統領は「強力な国際機構が国境を接するということはわが国の安全保障への直接的な脅威とみなされる」と批判しています。
ウクライナには欧州向け天然ガス・パイプラインの大動脈が通るうえ、首都キエフは“キエフ公国”建国の地であり、ロシア人の“精神的故郷”とも言える地域です。
グルジアもカスピ海産ガスの搬送経路にあたり、トルコやイランなどイスラム世界と近接する戦略的要衝の地です。
単に隣接する“勢力圏”が侵されるという以上の意味がロシアにはあります。
プレーヤーであるアメリカ・ロシアの思惑はともかく、周辺各国もそれぞれの事情を抱えており、単なるゲームの駒ではありません。
MDシステムについては、レーダー施設が配備されるチェコは3日アメリカと最終合意しました。
しかし、ミサイル基地が予定されているポーランドは少し揉めています。
民族主義を掲げる極右的カチンスキー前政権は、ロシアを敵視するだけでなく、ドイツとも対立するなどEUとの関係をも複雑にしていました。
MDシステムについては、そのカチスキー前政権が同意したものですが、現在ポーランド・メディアのほとんどがその対米政策についても甘すぎたと批判しているそうです。
昨年10月に行われた総選挙では、EUとの連携を重視する中道右派政党「市民プラットフォーム」が勝利を収め、もう一つの中道右派政党「ポーランド農民党」とともに、「市民プラットフォーム」の若い党首ドナルド・トゥスクを首相とする新政権がスタートしました。
トゥスク政権はロシア敵視政策を含めた全面的な外交政策見直しを進めており、ロシアとの関係改善も進んでいます。
まずポーランド側は、野党「法と正義」の反対にも拘わらず、ロシアの経済開発協力機構(OECD)加盟交渉妨害を撤回しました。
12月2日にはこれに答える形で、ロシアが05年11月から続いていたポーランド産食肉の輸入禁止を解除しました。
今年2月にはトゥスク首相が6年ぶりにロシアを訪問しました。
ロシアはバルチック海を経由してドイツへ至る天然ガス・パイプラインの建設を計画しています。
計画が実行されると、ポーランドはロシア資源外交への影響力と通過収入を失うことになります。
ポーランド政府は、ロシアのガスプロム社が陸路を採用するよう希望しています。
一方、ロシアは、ロシアとEU間の新合意(パートナーシップ)に対する拒否権発動をポーランドが取り下げることを望んでいるそうです。
また、当然ミサイル配備についても反対しています。
先のロシア訪問ではこのあたりの進展はなく、トゥスク首相は「私とプーチン大統領は、米国の迎撃ミサイル発射基地を設置するポーランドの計画をめぐって意見が合わないという点で意見の一致をみた」と明らかにするとともに、「ポーランドとしては当面、EU・ロシアのパートナーシップ交渉に対する拒否権行使を維持する」と述べています。
ただ“流れ”としては、ポーランド外交はアメリカ一辺倒ではなく、“歴史的な宿敵”ロシアをも敵視しない政策へと転換しつつあります。
トゥスク政権は、「ロシアが隣国における軍備強化を憂慮するのは理解できる」と、モスクワの反対意見に耳を傾けるとの態度を示しつつ、アメリカに対しては、「基地が建設されればそれがロシアの攻撃目標になる」として、航空防衛と軍の近代化を中心にした具体的な“見返り”を要求しています。
ポーランドには、“アメリカに協力して真っ先に大量の兵士をイラク、アフガニスタンに派遣した。しかし約束された建設・石油ビジネスへの参入は実現していない。”という不満があるそうです。
ポーランドの要求を満たすには、アメリカは追加200億ドルの予算が必要となり、これによりポーランドは米国にとって最大の軍事援助国となります。
ライス国務長官はポーランドに対し、“ポーランドの安全はNATOにより完全保証されており、軍事力の更なる強化はロシアの反発を買うだけだ。”と説得したそうです。
ポーランドの政策変更に伴い、アメリカ側には代替国を探す可能性も出てきているそうですが、ここまでロシアと揉めてきた以上、今更“別の国で・・・”といったふうに後には引けないのが実情ではないでしょうか。【4月3日 IPS】
NATO拡大問題については、ロシアはウクライナを親欧米派とともに2分する親露派世論の喚起に懸命で、「NATO入りした場合にはミサイルの照準を向ける」(プーチン大統領)などと警告しています。
グルジアには同国内の親露分離派地域の「独立承認」や「併合」をちらつかせ、“恫喝”を強めています。
今後もロシアは両国への圧力を強めるものと思われます。
そのウクライナですが、天然ガス・パイプラインの問題で“盗んでいる”とか“代金を払わない”とか、ロシアとの間で、およそ国家間のやりとりとは思えないようなやりとりでいつも揉めます。
ウクライナに言わせれば、“ロシアはエネルギー資源を政治・外交に利用している”というところですが、ロシアに言わせれば“ウクライナこそ天然ガスを国内政治に利用している”となるのでしょう。
ウクライナでロシア相手の強硬な交渉を主導しているのが親欧米・反ロシアのティモシェンコ首相。
その政治スタイルには国内でも批判があるようですが、人気は高まっているとかで、09年の次期大統領選挙の有力候補になりつつあるとか。【4月2日 IPS】
しかし、NATO加盟問題に絞ると、加盟を積極的に支持するのは国民の3割程度しかないと言われます。
ティモシェンコ首相の舵取りは?