孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

食糧価格の高騰 世界は新たな飢餓の時代に入りつつあるのか?

2008-04-14 17:31:53 | 国際情勢
このところ毎日、食糧価格上昇に関するニュースが世界中から報じられています。
暴動にまで至ったケースを列挙すると
ブルキナファソ 2月20~28日 数都市でデモ 400名デモ 4月8~9日 全国スト
カメルーン 2月下旬 約30都市で暴動 死者40名 1600名逮捕
セネガル 3月30日 デモ活動禁止令 24名逮捕
コートジボワール 3月31日 4月1日 暴動鎮圧 死者2名
ハイチ 4月3日以降 数都市で暴動 死者5名 負傷者60名以上
エジプト 4月6~8日 Mahalla Al Kobra市 暴動 死者1名 負傷者約100名 340名逮捕

ブルキナファソでは、数週間のあいだに基本物資の価格が10%から65%にも上昇。
政府が新たな税を導入したことが原因だとも。
2月の抗議デモは暴徒化し、デモ参加者184人が収監される事態にまで発展。
その後、治安当局による拘留者への拷問や虐待といった“人権侵害行為”が表面化。【3月13日 IPS】

カメルーンでの暴動の直接の原因は、25年間政権の座にあるビヤ大統領が、三選禁止の法律を変えて任期延長をはかったことによるもののようです。【http://www.dibussi.com/

ハイチではコメの価格が1週間足らずで50キログラム当たり70ドルに跳ね上がり、燃料価格が2か月で3倍に上昇したことをきっかけに、暴動に発展。
4月8日、大統領府警備のため国連ハイチ安定化派遣団の部隊が出動する事態となり、デモ発生から現在までに少なくとも5人が射殺されたとのこと。
この混乱を受けて12日、議会はアレクシス首相の不信任案を満場一致で採択しました。【4月13日 AFP】

エジプトでは国内人口の4割の7,600万人が1日2ドル以下での生活を強いられていますが、ここ数ヶ月で調理油や米の価格がほぼ倍増し、政府支援で供給しているパンも供給不足に陥る状態となっています。
そのため多くのエジプト国内労働者らがストライキの呼び掛けに応じた模様。【4月7日 IBTimes】

他の途上国も厳しい情勢にあります。
シエラレオネではコメ価格が300%も上昇。
コートジボワールやセネガル、カメルーンでも約50%上昇。【4月7日 AFP】
カザフスタンのマシモフ首相は7日、国内のインフレ抑制のため穀物輸出を停止するか、輸出関税を設ける可能性があると発言。【4月7日 ロイター】
インドではインフレ抑制策として、食用油の輸入税を廃止し、コメの輸出制限を導入。【4月7日 AFP】
香港では主食である米のまとめ買いをする消費者が増加。【4月9日 AFP】

コメ価格が1トン=930ドルと前月比52%増の記録的高値を更新したタイでは、貧しい農村部で田んぼからの“米泥棒”が出現しているとか。
国連食糧農業機関(FAO)によると、バングラデシュの洪水、ベトナムのペスト被害、中国の天候不順などにより、アジアのコメ供給量が激減。
更に、生産国が輸出制限を行っているため、価格上昇を招いているとのこと。

国内へのコメ供給不足懸念から、輸出世界第2位のインドと第3位のベトナムは輸出を制限。
この影響は、コメを両国からの輸入に頼っていたフィリピンやバングラデシュに波及。
フィリピン政府は飲食店に使用するコメの量を半減するよう通達を出し、バングラデシュでは軍が村人たちにイモ食を勧めた、コメの価格が不正に操作されないよう民兵組織が見張る事態となっているとも。
また、小売り店や農民がさらなる値上がりを待って売り渋る傾向もあるそうです。【4月10日 AFP】

マニラ訪問中の国連高官が、コメの輸入大国であるフィリピンでも政府が対応を誤れば暴動が発生する可能性があると警告。【4月13日 AFP】
アロヨ大統領は、自ら倉庫の検査に出かけ、政府が買占めを取り締まっていることをアピールしていますが、エコノミストからは“業界カルテルが引き起こした人為的な危機”との指摘も。【4月13日 IPS】

これらの世界の動きを眺めて感じることがいくつかあります。
先ず、暴動発生は必ずしも昨今の価格上昇だけによるものではなく、カメルーンやブルキナファソに見られるように、その国の政治体制が抱える永年の問題が背景に存在しているように思えます。

次に、世界の穀物相場の上昇がどの程度国内価格上昇に反映するかは、その国の国内市場の状況、売り惜しみ・買占めなどの市場操作の程度にもよります。
世界の穀物価格は確かに上昇しています。
コメは昨年1月の318ドル/トンから今年3月が577ドル/トン(特に今年に入ってからの上昇が急)、小麦は同じく208ドル/トンから481ドル/トン。【4月8日 AFP】
日本でも食品値上げが相次いでいますが、大半の商品は付加価値が比較的高いため、原料費はコストの一部ですので、値上げ幅は10円とか20円と小幅にとどまっています。
市場操作・投機的動きも表面化していません。
逆に、途上国では付加価値が比較的低い商品が原料費に連動して高騰、更に売り惜しみ・買占め行為によって激化する様子が見られます。

国民生活を圧迫する強権的政治体質、売惜しみ・買占めが横行するような経済・社会的非民主性・・・そういったものが価格高騰による混乱を助長しているに見えます。

また、主要輸出国の輸出制限が輸入国に波及する連動性も見られます。
個人的には普段あまり食料自給率などには関心がないほうで、“コメだけにこだわっても仕方ないけど、田んぼにコメが実っているのを見ると安心するから、コメくらいは自給を維持したほうがいいのでは”ぐらいにしか考えていませんが、こうした世界的食糧危機を見ると、やはり“コメくらいは・・・”というのはいい線かも。

ちなみに、昨日TVで魚も今後不足するという番組をやっていました。
中国の高級魚志向のたかまりで、日本市場から中国に流れる魚が急増している、結果、日本で食べられる魚が減少する、だからこれまで食べてこなかった魚資源にも目を向けて・・・といった内容でした。

“これまで食べてこなかった魚”も乱獲すれば結局は同じことで、魚供給の未来はあまり明るくないようです。
世界はすでに乱獲の影響を受け始めており、北大西洋のタラ漁が1990年代に崩壊したほか、カタクチイワシはチリから、ニシンはアイスランドから、イワシはカリフォルニアからすでに姿を消しました。【4月11日】
次はマグロでしょうか。

新興国の需要増大、バイオ燃料との競合、世界的気候不順で今後も食糧不足は続くようにも思えます。
世界食糧計画(WFP)のシーラン事務局長は、飢餓に苦しむ人の絶対数は依然8億5,400万人と大きく、「新たな飢餓の時代に入りつつある」兆候がすでにあると警告しています。
7月の洞爺湖サミットでも、食糧価格の高騰が主要議題に取り上げられる流れになっています。

世界銀行とIMFの合同開発委員会が13日、ワシントンで開かれ、穀物、エネルギー価格の高騰により「途上国の多くの貧困層が深刻な影響を受けている」と懸念を表明。
途上国に対する政策、資金面での支援に備えるよう世銀とIMFに求める声明を採択しました。
日本からは遠藤財務副大臣が出席し「各国が自国の農業政策を見直す好機。食料増産につなげる必要がある」と訴えたとか。

各国で暴動による死者まで出ている状況で、遠藤財務副大臣の“好機”という表現が適切かどうかは別として、目先の価格安定策だけではすまない問題であることは間違いないでしょう。
世界銀行のゼーリック総裁は、「空腹を抱える人々に対し食糧を与えられるよう、実際に行動する必要がある」と対策の必要性を各国政府に訴え、「新ニューディール政策」を発表しました。

「新ニューディール政策」の中身は全くわかりませんが、農地所有のあり方、モノカルチャー的な産業構造、灌漑等のインフラ、流通の整備などを含めた“農業政策の見直し”は必要でしょう。
その際、失敗したと語られることが多いかつての“緑の革命”をどのように総括するのかで対応・意見が分かれると思われます。
焦点となる技術革新は、当時は化学肥料、農薬、高収量品種でしたが、今後は遺伝子組み換え技術でしょうか?

コメント
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