(投機による食糧危機は子供たちの命に直結します “flickr”より By publik16
http://www.flickr.com/photos/publik16/2454669703/)
原油価格高騰が続いています。
アメリカ原油先物は、日本時間28日朝の電子取引で1バレル=119.93ドルに上昇、最高値を更新しました。ナイジェリア情勢、英BPの石油パイプラインがストライキで停止するといった供給不安が原因だそうです。
原油価格は過去1年間で57ドル以上も上昇、過去5年間では5倍に値上がりしています。
多くの専門家は、ドル安、OPECの増産消極姿勢、中国とインドの急激な経済成長が原油需要が背景にあると指摘しています。
産油国は、需要増加は人為的な要因によるものだとして増産を拒否しています。
クウェートの石油相代行は20日、「原油備蓄量の水準は、今のところ世界市場での原油価格に影響していない」と発言し、需給関係は原油価格高騰の原因ではないと主張。【4月21日 AFP】
一方、IMFのデップラー欧州局長は22日、「物価、特に原油価格の動向は変わるとみている。1バレル95ドルから115ドルへの上昇は米景気後退見通しと一致しない」と、原油価格が下落するとの見通しを明らかにしています。【4月23日 ロイター】
一方、コメ、小麦、トウモロコシなど食糧品価格の高騰も相変わらずです。
世界各地で暴動も起こり、貧困層を襲う“新たな飢餓”が懸念されていることは、このブログでも4月14日「食糧価格の高騰 世界は新たな飢餓の時代に入りつつあるのか?」でも取り上げたところです。
(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20080414)
最近では、食糧輸出国の輸出制限の動きによって輸入国の問題が拡大されることが懸念されています。
価格が高騰しても主食は貧困層であっても一定量は必要ですから、そのような価格弾力性の小ささが貧困層の生活を困難なものにしています。
専門家は、世界は静かに押し寄せる食糧価格高騰の「津波」に直面していると警鐘を鳴らしています。
また、食糧価格の高騰は、そのような貧困層を支援すべき国際援助機関の活動をも困難にしています。
国連世界食糧計画(WFP)関係者は、世界的な食糧価格の高騰により、WFPが途上国で行う学校給食事業に深刻な影響が出ていることを明らかにしています。
混乱の拡大を受け、7月の北海道洞爺湖サミットでも食糧価格急騰問題が緊急に話し合われることになりました。国連はこれに先立つ6月に各国首脳を集めた「食糧サミット」を開催できないか動きだしています。
潘基文事務総長は25日、ウィーンで記者会見し、「まさに地球規模の危機であり、早急な行動が必要だ」と各国に迅速な対応と協力を求めています。
こうした原油・食糧価格の高騰は、新興国での需要拡大、バイオ燃料需要との競合、供給サイドの問題など需給関係を背景にしてはいますが、これほど急激に上昇する要因として投機的資金が大量に原油・穀物相場に流入していることも語れています。
原油価格については、40~50ドル相当は投機的要因によるものではないかとも言われます。
また、穀物相場の展開も従来とは全く様相の異なる展開となっているようです。
このような投機資金の動きの背景には、サブプライムローン問題に端を発した金融不安から、株やドルに投資していた投機マネーが原油や穀物など商品市場に流れ込んでいることが指摘されています。
世界の各種市場の規模をみると、 ①ニューヨーク原油先物市場:1300億ドル(14兆円)、②ニューヨーク金先物市場:400億ドル(4.5兆円)、③世界の株式市場:65.5兆ドル(7200兆円)、④世界の債券市場:50兆ドル(5500兆円)、⑤店頭デリバティブ想定元本:448兆6000億ドル(4京9300兆円)、⑥世界の外国為替市場:770兆4000億ドル(8京7440兆円)といった規模だそうです。【“altermonde” 1月17日】
他方、投機のプレイヤーである基金・ファンドの種類と運用資産残高は、①年金基金:23兆ドル、②投資信託:21.5兆ドル、③保険会社:17.5兆ドル、④公的年金:4兆ドル、⑤政府系ファンド:3兆ドル、⑥ヘッジファンド:1.5兆ドル、⑦プライベート・エクティ:1兆ドル。【同上】
市場規模でみると、原油などの商品市場は、債券・株式や外国為替市場に比べると非常に小さく、従来このような市場で動いていた投機資金が商品市場に流入すると大きな変動を引きおこします。
また、投機マネーの内訳でみると、ヘッジファンドの資金規模は小さいですが、いわゆる“レバレッジ(てこ)”を使って自らの運用資金の何倍も、時には10倍もの額の運用すること、また投資サイクルが短く短期間に何回も投資することから、市場に与える影響はその資金規模以上のものがあります。
現在の世界経済は、公的な規制・介入をできるだけ少なくして自由な市場に経済を委ねることが望ましいとする“市場原理主義”的な発想が強く影響しています。
また、そのような自由市場になるべく多くのプレーヤーが参加することで、市場は安定化すると想定されています。
しかし、グローバル化(地球規模化)とIT(情報技術)化が進んだ今日、膨大な資金が瞬時に世界を駆け巡り、世界経済を混乱させる事態が出現しています。
97年のアジア通貨危機もそのような破滅的事態でしたし、今回の原油・食糧品価格高騰もその流れにあるように思われます。
“自由な経済活動”の重要性(特に効率的資源利用の面において)は一定に認めます。
いたずらな規制が“角を矯めて牛を殺す”危険を孕んでいることも確かでしょう。
しかし、今日の投機マネーの暴走とも言えるような現状を前にして、手をこまねいて眺めているだけでいいのでしょうか?
何らか、“適正な”ルールを設定することはできないのか?
経済の根幹にある原油価格が短期間に数倍にはねあがる、何より、食糧品価格高騰で“新たな飢餓”の危険があるとき、その背景にある投機資金の活動になんらか制限を加えたいという考えは愚かしい考えでしょうか?
「国境をまたぐ経済活動に課税して、途上国支援の財源に充てる「国際連帯税」の導入を目指し、超党派の議員連盟(「国際連帯税創設を求める議員連盟」 参加国会議員約50名)が活動を本格化させた。実現のハードルは高いが、フランスなど導入国も増えつつある。議連は、日本がホスト国を務める7月の北海道洞爺湖サミットまでに、提言をまとめる方針だ。」【4月14日 朝日】
課税方式は航空券や外国為替取引などを幅広く検討する方針とか。
2006年7月のフランスによる航空券国際連帯税導入を皮切りに、世界的にも革新的資金メカニズムや国際連帯税の議論が高まっており、上記議連もその一環です。
議連が視野に入れている外国為替取引に対する課税、いわゆる通貨取引開発税(CTDL、Currency Transaction Development Levy)とは、開発資金創出のために通貨取引に0.005%という超低率の税を課すシステムです。
これだけ薄い税率でありながら、世界の外為市場での通貨取引が年間約800兆ドルにも上るため、年間330億ドル以上の税収を得ることが可能と言われています。
また、「円」通貨だけに課税しても55.9億ドルの税収が可能です。
ちなみに、世界第5位に転落した日本の2007年のODA実績は76.9億ドルですので、円通貨取引税だけでその73%が拠出できることになります。
(「グローバル・タックス研究会」 http://blog.goo.ne.jp/global-tax/e/5953cba0ab56fc8949cf95dd00aa1c1d )
この通貨取引に対する課税については、従来から“トービン税”(ノーベル経済学賞受賞のトービンが1972年に提唱)として知られています。
最近では、トービン税の改良型である“スパーン税”という2段階の税徴収を行う形がATTAC(トービン税の実施を目指す社会運動団体)などによって提唱されています。
通常のすべての通貨取引には0.01~ 0.02%というきわめて低率の税が課せられますが、ひとたび重大な投機行為にさらされ当該通貨の交換比率が急変した場合、ほとんど禁止的な高率の税が課せられます。(実際に法制化されたベルギーの法案では、前者は0.02%、後者は80%)
(トービン税、スパーン税の内容、実現可能性などについてはATTACのサイトをご覧ください。
(http://altermonde.jp/tobin1_html)
CTDLは国際支援のための財源を得る方法としてはいいと思いますが、更に進んで投機マネーをなんらかコントロールできないかどうか、スパーン税のような考えも検討してもらいたいものです。
このような方策の効果・可能性、また、為替相場以外の商品先物などへの規制はどのようなものが可能か・・・などについては素人には判断しかねるものがありますが、たとえ抜け穴があっても、部分的・不十分ではあっても、何らか対応をとることで、投機マネーの暴走は許さないという国際的な強い意志を明確にしていくことが重要ではないでしょうか?
そのうえで、改善できる部分は時間をかけて結果を見ながら行っていけばいいのでは。