(ウルムチの街角 カシュガルへの旅行途中で立ち寄った際、この町でパスポート・エアチケット・現金・カード全て入ったバッグを置き引きされて途方にくれたことがあり、個人的にはあまり印象のいい街ではありません。
“flickr”より By chenyingphoto
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【夜間外出禁止令】
中国・新疆ウイグル自治区ウルムチにおける暴動については、多くのメディアが報じているとおりです。
国営新華社通信によれば、5日の暴動で156人が死亡、1080人が負傷したとのことです。死者は男性129人、女性27人ですが、漢族とウイグル族の割合は報じられていません。
また、今回の混乱で1434人が拘束されたとも新華社は伝えていますが、地元住民によれば、警察はウイグル自治区で無差別の一掃作戦を展開しているとも言われています。【7月7日 ロイター】
混乱はウイグル自治区西部の都市カシュガルにも飛び火して、6日、住民200人以上が参加する抗議デモの動きがあり、警察に排除されています。
ウルムチでは、7日になっても、ウイグル族住民による拘束された人の解放などを求める抗議行動が行われていますが、一方で、多数の漢民族住民がウイグル族側の5日の暴動に抗議、鉄パイプやシャベルなどを持ってデモ行進する様子がTVでも報じられています。この一部はウイグル族経営の商店やレストランを襲ったとも。【7月7日 共同】
当局は5日の暴動に対し、高圧電流警棒や威嚇射撃でこれを鎮圧しましたが、現在も多数の武装警察部隊が展開して緊張が続いています。漢民族とウイグル族の住民同士の対立が激化する状況で、自治区当局は7日、夜間外出禁止令を出しています。
中国当局はこれまでに、今回の暴動について、ラビア・カーディル氏が率いる在外ウイグル人組織の『世界ウイグル会議』が扇動したとして非難していますが、カーディル氏は、亡命先の米国で暴動への関与を否定しています。
なお、米ホワイトハウスは、この暴動について、死者が出たことに懸念を表明しましたが、状況について憶測をめぐらすのは時期尚早との考えを示しています。【7月7日 ロイター】
【引き金となった広東省の事件】
今回の混乱の引き金となったのは、6月26日に広東省韶関(しょうかん)市の玩具工場で、ウイグル族労働者2人が漢族に殺害された事件への抗議活動だったと言われています。
広東省韶関市の事件については、次のように報じられていました。
****中国の工場でウイグル族と漢族が衝突、2人死亡****
香港紙の明報は27日、中国広東省韶関市の香港系大手おもちゃ工場で26日に、新疆ウイグル自治区から雇用された少数民族ウイグル族と漢族の従業員同士が衝突し、ウイグル族の2人が死亡、双方の計118人が重軽傷を負ったと報じた。
明報によると、工場の従業員は約8000人。ウイグル族約600人が採用された5月から、女性従業員への乱暴などの事件が相次ぎ、ウイグル族の仕業と見なした一部の漢族が宿舎を襲った。経営者は明報に対し、「衝突は生活習慣の違いが主な原因」と説明した。【6月27日 読売】
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この事件後、ウイグル族の間で「加害者の漢族は誰も捕まらないのに、被害者のウイグル族がくびになった」とのうわさが広まり、怒りを買っていたそうです。
この“うわさ”については、おもちゃ工場の香港人経営者が事実と異なると否定しています。
****「ウイグル族解雇」は誤解=広東の襲撃事件で香港人経営者****
7日付の香港紙・明報によると、「香港の玩具王」といわれる実業家の蔡志明氏(旭日国際集団会長)は6日、広東省韶関市にある同社工場で起きた民族対立事件が新疆ウイグル自治区のウルムチで暴動を引き起こしたとされていることについて、工場のウイグル族従業員を解雇して同自治区に送り返したとの説を否定した。
蔡氏によれば、この工場はウイグル族800人を雇用しており、1人も解雇していない。襲撃事件は、仕事のミスで解雇された漢族の従業員が扇動して起きたという。工場の事件もウルムチの暴動も、根強い漢族と少数民族の対立を背景に誤解が重なって起きたとみられる。【7月7日 時事】
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【深くて暗い河】
広東省韶関市のおもちゃ工場の事件の真相はともかく、それはあくまでも引き金にすぎず、混乱の根底にあるのはウイグル族住民の漢族・当局への不信感です。
もともと、民族間の溝があるところに、当局のイスラム教への不寛容な施策、漢族の流入による摩擦の増大、漢族主導の経済発展の利益が充分にウイグル族まで広がらない経済格差・社会的地位の格差への不満・・・チベットの暴動と同じような構図です。
以前も書いたような気もしますが、18年前に上海から西安・敦煌・トルファン・ウルムチなどを旅行した際、ウルムチの博物館を訪れたことがあります。
当地の状況を各時代ごとにまとめたパネルがあり、西域が中国支配に入った漢代や唐代の記載は大変興味深いものでした。
当然中国語ですので正確には理解できませんでしたが、ニュアンス的には、漢や唐の時代には諸民族が統一され、中国統一権力のもとで諸民族の共存共栄し、大いに国威を発揚した・・・といった内容でした。
漢族の視点からすればそうなるのでしょうが、西域に暮らしていた人々の視点からすれば、漢族に支配された時代ということでもあり、こうした解釈を現在の西域住民であるウイグル族の人々はどのように思っているのだろうか・・・と当時も訝しく思われました。
世界史の教科書によれば、中国の歴史は中原の漢族と匈奴など北方遊牧民の抗争の歴史であり、中国統一王朝は交易による経済的利益を求めて西域支配に乗り出します。
西域、今の新疆はそうした歴代王朝・部族の抗争の場であり続けた訳で、この地が漢族による中国固有の領土というのは、漢族からの発想にすぎません。世界中の多くの領土問題がそうであるように。
最近、Yahooの動画配信で“シルクロード豪侠”という中国ドラマを観ています。
ドラマ自体は、他愛もないカンフー・チャンバラものですが、漢の時代の西域を舞台にしたドラマで、砂漠やオアシス都市の風情が気に入っています。女優陣が魅力的なのもありますが。
このドラマでは西域の交易を牛耳る漢族集団、北インドに本拠地があるカルト教団、更に匈奴が対立し、西域独立の陰謀、それを阻止しようとする中原の朝廷からの介入等々が展開されるのですが、主人公の漢族刺客が匈奴と繋がっていることに対し、「漢族の裏切り者」「どうして漢族なのに匈奴なんかと・・・」といった非難が浴びせられます。
中国ドラマですから当然ですが、西域は漢族のもの、それを脅かす匈奴は不倶戴天の敵・・・という流れです。
【共存に向けて】
与太話はともかく、歴史的に培われてきた民族間の溝は、今更どうしようもないものでもありますが、そうした溝を越えて他民族を束ねていこうとすれば、まず求められるのは民族を超えた共通理念です。
しかし、ソ連やユーゴスラビアなど社会主義による多民族国家が解体したように、中国でも、思想によって多民族がまとまるという時代ではありません。
社会主義に替わる、民主・自由・平等などの理念も今の中国では見当たりません。
今の中国でそうした理念に替わるものは経済発展・経済的利益になるのでしょうが、新疆でもチベットでも、漢族に偏り地元住民にその恩恵がいきわたらず、むしろ格差への不満が強まっている状況のようです。
実際には、地域全体の経済発展で、地元住民の生活の底上げもはかられてはいるのでしょう。
中国政府は幹線道路や鉄道を建設して観光産業の育成を推進、ウイグル人の住居や教育へも助成、その結果、01年に950ドルだったウイグル自治区の1人当たりの平均年収は、06年には1900ドルへと倍増しています。【7月7日 Newsweek】
中国政府にすれば、これだけやっているのにどうして・・・という感もあるのでしょうが、人間の心は格差や差別に敏感に反応します。また、宗教的不寛容など自己のアイデンティティーを否定するようなものにも敏感です。
中国沿岸部の経済発展や、周辺イスラム国でのイスラムとしての自己主張などの情報も入ってきます。
ウイグル自治区は中国全土の6分の1に相当し、天然資源や希少金属が豊富とされます。中国政府はチベット同様、この地を手放す考えなど毛頭ないでしょう。
今後ともこの地をつなぎとめておこうとするなら、暴発の危険を孕みながら力で押さえ込むより、より高度な自治を委ねる形で、ウイグル人主導でウイグル人の視点に立って、この地の発展が実現できるように、共存共栄に一歩でも近づけるように後押しする方が賢明なように思えます。
賢明云々以前に、そうでなければ、そもそも同じ国民である意味がないように思えます。
国家は、一緒にやっていく意志がある者で構成されるべきもので、いがみあう者同士が一緒にいても仕方がありません。