(インドの原潜モデルだそうですが、今回進水した「アリハント」(サンスクリット語で「敵を破壊する者」)と同型だかどうかはわかりません。
“flickr”より By Harsha 24/7
http://www.flickr.com/photos/27885460@N03/2993877113/)
【新興経済・軍事大国と貧困・カースト・毛派】
中国と同様に、インドという国も“大きく”かつ“急速に変化し始めた”国であるだけに、整理されていない混沌を内包しているように見えます。
世界経済の中心のひとつに躍り出ようかという経済力と潜在的可能性、ITなど先端技術における先進性の一方で、世界最大の貧困層を抱え、カースト制のような身分制度が強固に残る社会であることは周知のところです。
(7月14日ブログ「インド・ネパール カースト制克服への取組み 皆番号制と給付金」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090714)
また、国際政治のパワー・ゲームにおいてアメリカや中国を牽制する力を発揮する一方で、国内には共産党毛沢東主義派(毛派)が東部州を中心に跋扈し、それらの州では都市部以外は毛派の「領土」となっているとも言われる現状があります。
(5月24日ブログ「インド IT選挙と毛派の「領土」」
http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20090524)
****毛派、異例の首相暗殺警告=非合法化に報復-インド****
インドの極左武装組織、共産党毛沢東主義派(毛派)は21日、東部のジャルカンド州で声明を出し、シン首相と与党国民会議派のガンジー総裁について「(スリランカの反政府勢力に爆殺された)ラジブ・ガンジー(インド元首相)と同じ運命をたどるだろう」と述べ、暗殺を警告した。ロイター通信が伝えた。
インド政府が最近、毛派をテロ組織として非合法化したことに反発、報復を意図したものらしい。毛派が中央政府の要人暗殺の可能性にこれほど強く言及するのは異例。【7月22日 時事】
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この記事で驚いたのは、“インド政府が最近、毛派をテロ組織として非合法化した”という部分、つまり、最近まで毛派は非合法ではなかったという点です。
国際的にその軍事力の増強・近代化が注目を集めていることと、国内では毛派に地元警察さえ怯えて署から出てこない地域が広く存在するという面が、なんともアンバランスに思えます。
「そんな世界が注目するような軍事力があるなら、先ず国内の武装組織を一掃すればよかろうに・・・」と、単純に考えてしまいます。もちろん、それができないのにはそれなりの事情があるのでしょう。
【「G2」米中新時代 米印関係強化】
27,28日にワシントンで行われた「米中戦略・経済対話」は、国際政治の軸がアメリカ・中国の「G2」に移りつつあることを強く世界に印象付けました。
オバマ大統領は開会式演説で「米中関係は21世紀を形成する」と強調、中国の胡錦濤国家主席も開会に合わせ「両国は人類の平和と発展など重要な案件について一緒に責任を負うべきだ」とのメッセージを寄せています。
そうした「G2」・米中新時代において、インドは上述のような混沌を抱えながらも、今まで以上に重要な役割を果たすことになります。
現在は、中国とは同じ新興国として経済・貿易問題や温暖化問題などで共通の立場に立つことも多くありますが、すでにアフリカなどでの資源獲得競争で中国と争っているように、今後はより“ライバル”として、利害が対立することが多くなるのではないかと推察されます。
一方でアメリカとの関係は、核不拡散条約(NPT)の例外を認める形で昨年10月に米印原子力協定が発効して、その関係が次第に強くなってきています。
インドを訪問したクリントン米国務長官とインドのクリシュナ外相は20日、米企業がインドに二つの原子力発電所を建設すると発表しました。アメリカの協力による原発建設が具体的に決まったのは初めてです。
またアメリカの先端兵器の輸出に道を開く協定の締結でも合意し、両国の戦略的関係の強化を印象付けています。
****軍事協定に調印=米国務長官、インド首相と会談*****
インド訪問中のクリントン米国務長官は20日、ニューデリーでシン首相、クリシュナ外相らと会談し、戦略的パートナー関係の強化に向け外相級の「戦略対話」を開始することで合意した。両国は同日、米国からインドへの高性能兵器輸出の管理に関する協定に調印、軍事分野での交流強化に弾みがつきそうだ。
インドは軍の近代化を進める中で、伝統的にロシアへの依存が強かった兵器調達先の多角化を進めている。近く予定している多目的戦闘機126機の調達で、ボーイングとロッキード・マーチンの米企業2社も売却に名乗りを上げているが、戦闘機のような高性能兵器の輸出には、第三国への技術漏えい防止などを念頭に2国間の協定が必要とされている。
インドと米国は2004年に戦略的パートナー関係の構築で合意。08年には核拡散防止条約(NPT)未加盟のインドに、米国から核燃料や原子炉などの売却を可能にする原子力協力協定を締結し、両国の関係は新たな段階に入った。【7月21日 時事】
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インド外交は長く“非同盟”を旗印にしてきましたが、グローバル化、インド自身の存在の巨大化、G2体制における中国との競合・・・というなかで、今後はアメリカとインドが協調しながら中国を牽制するといった場面が多くなるのではないでしょうか。
【建国以来の課題 パキスタン関係】
そのインドは先日初の国産原子力潜水艦の進水式を行っています。
****中パ刺激 軍拡拍車も インド、初の国産原潜 核抑止力強化****
インドが初の国産原子力潜水艦の進水式を行った。弾道ミサイルを搭載できる原潜の保有によって、陸海空からの核戦力を備え、核抑止力を強化することになる。インドは近年、新型戦略原潜の配備を進めるなど海軍戦力を増強する中国に対抗し、海軍の近代化を強く推進しており、原潜の保有もその一環だ。ただ、隣国のパキスタンが早くも、インド洋における軍事バランスを崩すものだと批判するなど、原潜の保有は、地域の安全保障環境と中印パ3カ国の軍事情勢に微妙な変化をもたらす可能性がある。(中略)
(今回進水した原潜)「アリハント」についてパキスタン海軍報道官は27日、「インド洋周辺地域全体の安全保障の枠組みを危険にさらす波乱の第一歩だ」と非難。外務省は「(パキスタンは)自国を防衛し、南アジアの戦略的均衡を維持するため適切な手段を講じるだろう」との報道官声明を発表した。
インドは「先制不使用」を核政策の基本とし、核の保有は抑止力との立場だ。しかし、パキスタンを刺激した原潜の保有は今後、南アジアにおける軍備増強の傾向にさらに拍車をかけそうだ。【7月29日 産経】
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インド外交にとって、カシミール領有問題で対立するパキスタンとの関係が、建国以来の一大問題であり続けています。更に、アフガニスタン・パキスタン戦略の観点から、パキスタンを不安定にしたくないアメリカの思惑も関係してきます。
ムンバイ同時テロで悪化した両国の関係を修復すべく、クリントン米国国務長官の17日の訪印を前にして、インドのシン首相とパキスタンのギラニ首相は16日、非同盟諸国の首脳会議が開かれたエジプト・シャルムエルシェイクで会談しました。
両首相は会談後、共同声明を発表し、昨年11月のムンバイ同時テロ事件後、中断していた高官級定期対話(和平プロセス)の再開で原則合意したことを明らかにしました。
共同声明で両首相は、「テロ対策は包括対話と結びつけるべきでない。インドはすべての懸案事項についてパキスタン側と話し合う用意があると表明した」と発表しています。
テロ事件の扱いとは切り離して、包括対話の再開を地ならしする動きとみられていますが、一方で、インド・シン首相は、記者会見で「ムンバイ同時攻撃の犯人が正当に責任を問われるまで、包括対話を始めることはできない」と述べ、パキスタンが求めている包括和平対話をすぐに再開する可能性を否定しています。
なんだか真意がよくわからない共同声明ですが、インド国内では“パキスタンに譲歩した”と不評のようです。
****インド野党 シン首相に集中砲火 共同声明、パキスタンに譲歩*****
インドのシン首相が、パキスタンへの外交姿勢をめぐり野党の批判にさらされている。印パの首相が16日にエジプトで会談した後に発表した共同声明の内容が、パキスタンに譲歩したものだと受け止められているためだ。野党からは「首相はパキスタン陣営に行ってしまった」との声さえあがっている。(中略)
野党は共同声明にある「テロ対策は包括的対話と結び付けられるべきではない」との文言を問題視している。インドは2008年11月のムンバイ同時テロ後、パキスタンとの包括的対話を中断し、同国に、テロに関する情報提供や関与した人物の処罰、パキスタンを拠点とする対印テログループの摘発などを要求してきた。だが、パキスタンの対応は不十分だとの認識だ。
インドは、パキスタン側がテロ対策を施すことを包括的対話の前提としている。にもかかわらず、共同声明がテロ対策と包括的対話を関連付けないとしたことで、29日の本会議で野党は「共同声明は大きな方針転換だ」と批判した。(後略)【7月30日 産経】
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対立する利害を調整するための外交に100%の自国利益を求める批判は、そうした批判が大衆的支持を得やすいこともあって、往々にして外交を機能不全にしてしまいます。
それはともかく、インドは建国時に“異質な”パキスタンと国を分かつ形になって、その関係に苦慮している訳ですが、中国はチベット・ウイグル・モンゴルを内に取り込んで今その対応に同じく苦慮しています。
対外関係は国内問題のように強権的処理はできませんが(行えば戦争です)、“外国との関係”と割り切ってしまえば、対応の仕方もあるように思えます。
国内に対立する集団を抱え込むと、力による一時しのぎが可能なだけに、その分根本的な解決が難しいかもしれません。