孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフリカ  外国企業による農地囲い込み “新たな植民地主義”の批判も

2009-07-23 21:39:39 | 世相

(ギニア 1日の農作業を終えて家路につく人々 “flickr”より By martapiqs
http://www.flickr.com/photos/poma/57910977/)

【人類の6人に1人は十分な食糧を得ることができていない】
昨年、原油価格と並んで食糧価格が急騰して世界各地で暴動などが発生、食糧危機とも言える状況になったことはまだ記憶に新しいところです。
その影響で、世界の飢餓人口は10億人を超えています。

****世界の飢餓人口10億人超える、農業投資拡大を FAO*****
国連食糧農業機関(FAO)は19日、世界的な金融危機と食糧価格上昇の影響で、世界の慢性的な栄養不足の人の数が前年から1億人以上増え、過去最高の約10億2000万人になると予測した報告書を発表した。
アジア太平洋地域で6億4200万人、アフリカ大陸のサハラ砂漠以南で2億6500万人、ラテンアメリカとカリブ海地域で5300万人、中東と北アフリカで5200万人だとしている。うち途上国の栄養不足の人は1500万人だという。この報告書では栄養不足の人の数は2009年に11%増加すると予測されている。
記者会見したFAOのジャック・ディウフ事務局長は、1年間の増加幅としては過去最悪で、人類の6人に1人は十分な食糧を得ることができていないと述べた。

また7月にイタリアで主要8か国(G8)首脳会議が開かれることをふまえ、ディウフ事務局長は食糧安全保障は世界的に緊急にとりくむべき政治の問題だと指摘し、農業部門への投資拡大を訴えた。
記者会見に同席した世界食糧計画(WFP)のジョゼット・シーラン事務局長は、過去2年間に食糧不足が原因でいくつかの途上国で発生した発生した暴動について語り、「空腹な世界は危険な世界だ」と警鐘を鳴らした。【6月20日 AFP】
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【今後も価格上昇続く】
食糧需給は、食糧危機当時と比較すると一段落してはいますが、食糧不足・食糧価格上昇の基本的構図は今も変わっていません。
FAOは食料問題を各国首脳級が話し合う「食料サミット」を11月16~18日にローマで開くことを決めています。昨年6月にも緊急開催しており、2年連続の「食料サミット」開催となります。

食糧の多くを海外に依存する日本にとっても大きな問題であり、農水省は今後も需給は逼迫し、価格上昇が続くという見通しを発表しています。

****世界食料需給:穀物需給逼迫と価格上昇続く 18年見通し*****
農林水産省は1月16日、独自の情報収集と分析に基づく2018年の世界の食料需給見通しを発表した。
人口が急増しているアジア・アフリカ地域の消費拡大や米国のバイオ燃料需要の増大で、小麦やトウモロコシ、コメなど穀物の需給逼迫(ひっぱく)傾向と価格上昇が続くとしている。

穀物消費量は、06年からの12年間で約5億トン増加して約26億トンになると予測。アジア・アフリカで肉の消費が増え、家畜の飼料としての需要が大幅に伸びたり、米国でトウモロコシを原料とするバイオ燃料の需要が約3倍に増えることなどを見込んだ。消費増に生産が追いつかず、消費量に対する在庫量の割合を示す期末在庫率は18年に13%と、70年代以来の低水準に落ち込むとみている。
06年と比較した価格はコメが34%、小麦が35%、トウモロコシが46%、牛肉が31%上昇すると分析。農水省は「食料需給は予断を許さず、国内の農業生産を強化しなければいけない」(食料安全保障課)としている。【1月16日 毎日】
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【新たな被支配 あるいは 新たな植民地主義】
こうした食糧需給逼迫の予測を背景に、企業利益の追求、更には食糧安全保障的な発想もあって、アフリカで外国企業による農地囲い込みが進行しています。農業部門への投資拡大の一形態とも言えますが、自国向けの作物を大規模に栽培し、世界的な食料価格高騰の再来に備え、安定した食料調達先とすることを目的としています。

****外国企業に収奪されるアフリカの土地、新たな被支配の構図*****
世界の耕作地が不足し、食糧を増産する必要に迫られている国々がアフリカ大陸に目を向けるなか、かつて植民地化されていたこの大陸は対応を誤ると新たな被支配の時代に入る可能性があると、専門家らが警鐘を鳴らしている。
その一方で、外国に広大な土地を貸し出すと、アフリカの食糧不足が解消されるとともにさらなる開発がもたらされると、期待を寄せる人々もいる。

■アジアの企業とリース契約
2008年、韓国の物流企業・大宇ロジスティクスはマダガスカルで、320万エーカー(約130万ヘクタール)の農地開発を行うための第一段階の承認を、マダガスカル政府から得たと発表した。しかし、この計画はその後、マダガスカルの政情不安が原因で撤回された。
ケニア政府は前年12月、カタール政府と土地のリース契約を結んだことを発表した。カタールから港や道路、鉄道などの建設に350万ドル(約3億2700万円)の投資を受ける見返りに、同国に10万エーカー(約4万ヘクタール)の土地を貸し出すという内容だ。
中国・重慶の種子会社「Chongqing Seed Corporation」は前年5月、穀物価格の世界的高騰に対処すべく、タンザニアの740エーカー(約300ヘクタール)の土地を借り受けてコメを栽培することを明らかにした。
こうした動きについて、ある専門家は次のように危惧(きぐ)する。「投資をして技術を駆使することで、食糧生産高を上げることは可能だろうが、アフリカ人の雇用を創出することにはならないのではないか」

■アフリカ内部でも分かれる意見
(中略)国際食糧政策研究所(IFPRI)は4月の報告書で、「アフリカの希少な資源の争奪戦にほかの役者も参加するようになると、途上国の社会的・政治的な不安定の度が増すだろう」と警鐘を鳴らしている。
だがナイジェリアのあるエコノミストは、アフリカの多くの国でインフラが整備されておらず開発も遅れている点を挙げ、開発のための土地の貸し出しは成長の道筋をつけるものだと主張している。

■G8では土地取得規制の方針が示されたが・・・
2002年の国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、アフリカの耕作可能な土地8億700万ヘクタールのうち、耕作が行われているのはわずか25%。
一方で、大規模な農地開発には、生態系が破壊される恐れがあるとして、環境保護団体の目が光っている。
今月初めにイタリアのラクイラで開催された主要国(G8)首脳会議(サミット)では、先進国側が、外国企業などによる途上国の土地取得を規制する計画を発表した。 
これについて、食糧問題を担当する国連のオリビエ・デシューター氏は、「投資する側には何らの義務も課されない。数百万ヘクタールもの土地が、簡単な契約書のもと、タダ同然で売られている。こうしたことはすべて、人々に知られることなく行われている」と話している。【7月22日 AFP】
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国際食料政策研究所(IFPRI)は6月29日の報告で、「囲い込みが貧しい途上国の食料難や人権問題、生態系破壊を悪化させることが懸念される」と指摘、契約に関する「国際的行動規範」を作ることを提言しています。
この報告では、三井物産がブラジルで10万ヘクタールの土地を保有する企業を買収したことも一例として挙がっています。

一般的には農業投資の拡大は食料増産や生産性向上に役立ちますが、無秩序な“農地争奪戦”が過熱すれば、途上国などからの農作物の収奪ともなります。“新たな植民地主義”との批判もあります

****農地囲い込み 国際的な行動規範が必要だ*****
農地取得に熱心なのは中東産油国と中国だ。豊富な外貨準備をもとに、アジアやアフリカですでに10万ヘクタール単位の農地を手に入れ、小麦やトウモロコシ、綿花などを栽培する計画を進めている。
交渉中の案件も含めると、これらの国や企業が購入または賃借した農地は2000万ヘクタールに達するという。日本の耕地総面積の4倍強の農地が囲い込まれつつある。

農業開発の資金が不足している途上国にとって、農地の提供には、土地改良やかんがい施設の整備、新たな農業技術の導入といった利点がある。
一方、軍事的、経済的な圧力で、途上国側が不利な条件の下、農地を収奪されたり、無理な開墾によって水の汚染や生態系が破壊される問題も指摘されている。
国連食糧農業機関(FAO)は「農地や水を丸ごと買い上げるのは新たな植民地主義だ」と警告している。途上国側の農民の反対で取得を断念した例も出始めた。

こうした動きは、世界一の食料輸入国である日本にとっても、座視できない問題だ。
国際ルールの策定には日本も積極的に関与し、途上国の食料事情や環境に十分配慮したものにすることが肝要だ。食料輸出国による一方的な輸出規制に歯止めをかけ、貧しい国に食料が行き渡るよう努めることも大事だ。
日本が優先すべきは、農地争奪戦への参入ではない。40%にとどまっている食料自給率を引き上げることである。(後略)【7月12日 読売】
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農地を提供する国は飢餓を出している国も多いことも懸念される点です。
エチオピア、スーダン、ザンビア、カンボジアなどでも大規模な農地買収が進められています。
飢餓を出して莫大な食糧援助を受けている国から大量の食糧が持ち出される・・・というのは、許容しがたいものがあります。
そうした外国企業投資による資金や技術が地元住民の便宜に資する形で循環すれば大きな問題ともならないのでしょうが、残念ながら「良い統治」が欠如した現実には、地元住民が飢餓で苦しむなかで先進国の胃袋を満たすために輸出作物が作られるということにもなりがちです。

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