(ミャンマーの少数民族分布図“flickr”より By haabet2003
http://www.flickr.com/photos/haabet/2932720784/in/set-72157608323325450/
“多民族国家のミャンマーは、人口の3分の2程度を占めるビルマ族以外に、タイ、中国、インドとの国境付近を中心に、細分すると130以上の少数民族が住む。1948年のビルマ(当時)独立後、多くの少数民族が武装勢力を結成し、独立や高度の自治を求めて政府と戦ってきた経緯がある。”【7月20日 毎日】)
【監視・調査機能の付与は先送り】
東南アジア諸国連合(ASEAN)は外相会議で、懸案となっていた域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意しました。
カンボジアやミャンマーなど人権問題をめぐり複雑な歴史を持つASEAN加盟国が人権委員会的な機関の設置に強く反対してきたため、起草作業に入ってすでに4年ほどが経過していますが協議が難航し、ようやく現実のものとなるようです。
しかし、その内容は反対国へ配慮して、内政不干渉を原則として、意思決定は「全会一致」、制裁規定もなく、監視・調査機能もない・・・という実効性を疑わせるものとなっています。
*****ASEAN:人権機構発足で合意 タイで外相会議開幕*****
東南アジア諸国連合(ASEAN)は19日、タイ南部プーケットで加盟10カ国外相による夕食会などを開き、23日のASEAN地域フォーラム(ARF)まで続く一連の関連外相会議がスタートした。
ASEAN各国外相は19日、域内の人権問題を協議する「ASEAN人権機構」について、10月にプーケットで開催される首脳会議に合わせて発足させることで合意した。ただ、強制力のある監視・調査機能の付与は先送りされ、ミャンマーの人権問題改善などに実質的に寄与できる可能性はほとんどなくなった。
人権機構は昨年12月発効のASEAN憲章に創設が盛り込まれ、具体的な権限などの協議が進められていた。外交筋によると、インドネシアなどが各国の人権状況を監視し、問題が起きた場合に調査する機能を付与するよう求めていたが、内政不干渉の原則を主張する議長国タイなどが消極姿勢を示した。このため、監視・調査機能を持たせずに発足させ、5年後に見直す妥協策で決着した。人権機構の正式名称は「政府間人権委員会」。
ASEAN外相会議は20日、ミャンマーで拘束されている民主化運動指導者アウンサンスーチーさんら政治犯の釈放などを求める共同声明を採択する見通し。(後略)【7月19日 毎日】
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人権侵害が疑われる国を含めて全会一致が原則、内政には不干渉、監視・調査機能もなくて、一体何ができるというのでしょうか?
内々の議論で批判することは可能ですが、それすら「内政不干渉」で取り合わないことが予想されます。
“外相会議は20日、ミャンマーで拘束されている民主化運動指導者アウンサンスーチーさんら政治犯の釈放などを求める共同声明を採択する見通し”とありますが、当然ミャンマーは反対しますので、こういうとき「全会一致の原則」はどうなるのでしょうか?
そのあたりの運営のあり方で、「政府間人権委員会」の機能も多少変わってくるかもしれません。
いずれにしても、すでに激しい国際批判に晒されているミャンマー軍事政権は、ASEANの批判など歯牙にもかけないでしょう。(多少、仲間内からの批判ということで、面子的に気にする部分はあるのかもしれませんが)
【「人権機構」議論をしながら・・・】
外相会議で「ASEAN人権機構」について協議しているさなか、ミャンマー国内では野党党員を一斉拘束しています。
ASEANもなめられているようです。まあ、国連事務総長にすらスー・チーさん面会を許さない国ですから、仕方ないところではありますが。
****スー・チーさん率いる野党党員、一斉拘束 ミャンマー*****
ミャンマー(ビルマ)の最大都市ヤンゴンで19日、民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが率いる国民民主連盟(NLD)の党員ら22人が、治安当局に一時拘束された。警察筋が明らかにした。
この日は、スー・チーさんの父親で建国の父と仰がれるアウン・サン将軍が暗殺された命日。警察筋によると、同将軍の廟(びょう)へ向かうNLD党員らが党のバッジなどをつけていたため阻止したところ、別の場所で行進を始めたので拘束したという。すでに全員を釈放したとしている。
NLD本部ではこの日、追悼式典が開かれており、当局は周辺の道路を閉鎖するなどして警戒態勢をとっていた。【7月19日 朝日】
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【新たな懸念】
そのミャンマーについて、気になる記事がありました。
****ミャンマー:モン族、軍編入拒否へ 戦闘再開の恐れも*****
ミャンマー国内の有力少数民族モン族の武装勢力、新モン州党(NMSP)が、軍事政権から要求されている政府軍への編入を拒否する意向を固めたことが分かった。NMSP幹部が毎日新聞に明らかにした。同様の動きは他の有力少数民族にも広がっているという。民主化運動指導者アウンサンスーチーさん(64)の拘束で国際社会から批判を受ける軍事政権は、少数民族とのあつれきという別の難問に直面しそうだ。
軍事政権は来年実施の総選挙を前に、国内情勢を安定させるため、少数民族武装勢力を政府軍傘下に編入し、国境警備隊化する方針を決定。今春、停戦中の各勢力に受け入れを求める動きを本格化させ、早期に回答するよう迫っている。
これに対し、NMSP幹部は「(軍への編入で)少数民族勢力をつぶそうという意図は明らかだ」と反発。兵力規模の大きいワ族、カチン族、シャン族の各勢力と4月に対応を話し合った際、要求を拒否する方向で基本合意したという。
一方、タイに拠点を置く亡命ミャンマー人メディア「イラワディ」(電子版)が今月14日報じたところによると、軍事政権は先月7日、NMSPに対し現有兵力を国境警備隊ではなく民兵組織に転換する案を提示した。政府軍編入に拒否反応が強い少数民族への「妥協案」とみられるが、NMSPに近い情報筋は毎日新聞に「民兵組織でも軍の傘下に入る実態は変わらないので、NMSPは拒否するだろう」と述べた。
軍事政権は89年以降、少数民族との和平を進め、主な武装勢力17グループと停戦協定を締結。NMSPとは95年に停戦合意した。NMSP幹部は「戦う意図はないが、政府軍への編入拒否で(軍事政権側から)停戦合意が破棄される可能性はある」と戦闘再開の恐れにも言及した。
モン族は、南東部のモン州などに住む民族。人口規模は100万~400万人といわれる。NMSPは過去に最大3000人の兵力を有し、「イラワディ」によると現在は約700人とされる。【7月20日 毎日】
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戦闘再開というようなことになれば、軍事政権の国内支配体制にほころびが生じ、体制変革のきっかけにも・・・という面もありますが、当然ながら少数民族の多くの血が流されることになります。また、総選挙・“民生”移管のスケジュールが遅れることもありえます。